おまえは恋ができていない
江蜜とスーパーで別れた後、俺は家路にはつかず神社に向かっていた。
だいたい10日ぶりに見る神社は相変わらずボロボロで人の気配など全くなかった。
境内に入り、草が巻き付いている賽銭箱の前まで歩く。
「すみませーん神様いますか?あすまると付き合えたんですけど、恋愛エネルギーはちゃんと回収できましたか?」
返事はない。
「あの、もしそうなら次の相手の情報くれませんか?というかなんで連絡ないんですか?」
しかし返事はない。
その後もしばらく話しかけ続けたが一切の反応はなかった。
ため息をつき、諦めて帰ろうと後ろを向くと。
「いや、金払えよ」
いた。
最初に会った時と同じジャンプスケアな登場に心臓が跳ねる。
「ちょっと!いきなり背後に立たないでください!びっくりするじゃないですか!」
「賽銭もなしで出てきてやったんだから文句言わないでほしいわね」
艶事主命はやれやれと肩をすくめて言う。
「んで、今日はアタクシ様が全然連絡よこさなくて寂しいからわざわざ逢瀬に来たってワケ?」
「……まあ、そうです」
「大丈夫だって心配しないでいいわよ、共鳴体と付き合って、恋愛エネルギー受け取ったらちゃんと次の相手の写真送るから」
そう言って艶事主命はふわふわと俺の周りを浮遊する。
「いや、だからあすまるとは付き合いましたって」
「あん?」
「昨日通話でですけど、告白されて付き合いました」
そう言ってDMの画面を見せる。
「なので次の共鳴体の情報を……」
「だーら、それは恋愛エネルギー受け取ったらって言ってんでしょ?」
「……?」
なんだ?話が噛み合わないぞ。
「あー察しが悪いわね、つまりおまえはあすまると付き合っても恋愛エネルギーが発生してないのよ」
「……え?」
恋愛エネルギーが発生していない……?
「ど、どういうことですか?恋愛エネルギーって付き合ったら発生するんじゃ……?」
「半分正解、半分不正解。いい?恋愛エネルギーが生まれるには2つの工程が必要なの。①人間同士が恋をすること②その2人が付き合うこと」
「えっと……つまり」
「おまえとあすまるちゃんは①の恋ができていないのよ」
俺は唖然とする。
どういうことだ……?俺とあすまるが恋をしていない?
いや、それはおかしい。だってじゃあなぜあすまるは俺に告白をということになって……
「ああ、そっちじゃないそっちじゃない。彼女はちゃんとおまえのこと好きだし、恋してるわよ」
……心を読まれた。
いや、今はそんなことより……あすまるが俺を好きって言うことは……
「そう、問題はおまえよ浮田翔気。おまえはあすまるに恋ができていない」
◯
家に帰り、昼メシを食べてボーッと過ごしているといつの間にか夕飯の時間になっていた。
キッチンで夕食を作りながら今日何度目かも分からない思考の海に潜る。
『おまえはあすまるに恋ができていない』
艶事主命に言われた言葉が頭から離れない。
最初は何を馬鹿なことをと思った。
だが時間が経つにつれ、その言葉は妙に胸の奥へ沈んでいく。
あすまるは好きだ、それは間違いない。DMが来れば嬉しいし、通話すれば楽しい。配信だって毎日聞いている。
それなのに、恋かと聞かれると答えに詰まる。
灯子の顔を思い浮かべる。
会いたい、守りたい、失いたくない。
そんな感情が溢れてくる。
ではあすまるは?
フライパンで野菜炒めを作りながら考える。
分からない、分からないが……だから好きじゃないとは思えなかった。
「……」
違う、問題はそこではないよな。神である艶事主命が恋ではないと判断した以上、俺が自分の気持ちをどれだけ分析したとしても無意味だ。
だったら答えは一つだ。
自分の中考えても無意味なら知るしかない。
もっと話して、もっと会って、好きになれるよう努力する。
「よし」
俺は木べらを握り直し、覚悟を新たにした。
同時刻、神社で賽銭箱の上に寝転びながら艶事主命はフランクフルトをかじり、呟く。
「鈍ちんめ、問題はそこじゃないでしょ」




