愛の心理テスト
それから小一時間ほど2人で俺に似合う服を求め服屋巡りをしてから、適当なファミレスで昼食と相成った。
「ねぇ翔気、心理テストしていい?」
「ひんりへふほ?」
ナポリタンを食べていると愛から唐突にそんなことを言われた。
「心理テスト、昨日たまたま見つけたの」
「まあいいけど、なんでまた」
「いいからいいから」
……心理テストか、やっぱり女子というのはそういうのが好きなものなのだろうか。
俺はあまりその類は信じていないのだが。
どうせ適当な答えをバーナムなんちゃらとかでそれっぽくしているだけだろうと思っている。
「じゃあ第1問。ストレス発散するなら何が良い?Aカラオケで歌いまくる、B食べ放題で食べまくる、Cお笑いのライブで笑いまくる、……あ、全部タダって言う設定ね」
ストレス発散と聞いて真っ先にあすまるのASMRが思い浮かんだ。
……ダメだダメだ、今は愛とデート中だぞ。
俺は邪念を振り払うように頭を振る。
「ああ、なんだろうな……Bとかかな、カラオケもお笑いのライブもあんま行ったことないしな」
素直に一番最初に良いなと思ったものを答えたのだが
「……へぇ」
彼女は含みのある顔をした。
「なんだよ」
「これで分かるのはあなたの求めているキスシーン、Bを選んだあなたは激しくて情熱的なキスを求めている」
「ぶッ!」
思わず飲んでいたメロンソーダを吹きそうになった。
彼女は少し恥ずかしそうにこちらをチラチラと見ている。
「……ふ、ふぅん、翔気はそういうキスがいいんだ……へぇ」
愛はどこか意味深に言う。
「まてまて!心理テストってそういうのかよ!」
咳の余韻が残る喉を整え、声を荒げる。
「……あってる?」
ジッと見つめてくる愛
「いや、まあ……別に……大きく外れてるってわけでも、ないけど……さあ」
ついしどろもどろになってしまう。
2人の間に少し沈黙が流れる。
「じゃあ次、第2問」
「はやいな」
「あなたは庭にあるリンゴの木が実をつけたので収穫を始めました。けれど多くは鳥たちについばまれ傷がついてしまっています。傷のない綺麗なリンゴはあなたの手元にいくつ残りましたか?A2個、B5個、C8個、D1個も残らなかった」
これは……また意図の分からない問題が来たな。
愛の様子を見る、なんだかそわそわしている気がする。
たぶん前問と同じような問題なのだろうな。
……しかし、この情報だけでは地雷の回答がどれなのかが分からない。
クソ、直感で答えるしかないか。
「1個も残らなかった……とか?」
「ぶっ!」
俺が答えると今度は逆に愛が吹き出した。
「な、なに……どうしたの」
ハアハアと息を整える彼女に詰め寄る。
さっきよりも耳が赤い。
なんだ、俺はどういう人間だったんだよ。
彼女はチラリとこちらに向き直り、恥ずかしそうに言った。
「……こ……わ……の……な…………せ……」
声が小さくて聞き取れない。
「なんて?」
「……これで分かるのはあなたの……せ、性欲の強さ……Dを選んだあなたの……せ、性欲指数は……90%」
脳がフリーズした。
……性欲?……90%?
はい?
愛は自分の身体を守るように腕をクロスして、じろりとこちらを見つめる。
「……変態」
「ちょまてまて!なんつーこと聞いてるんだよ!」
一気に意識を取り戻し、俺は頭をぶっ叩かれた魚のように慌てふためく。
「翔気、ABCDの中で1番高いの選んでる」
「いや……だってさあ、直感……だしさあ……鳥は全部食うかなって……」
俺は弁明にもならない弁明をする。
再び2人の間に沈黙が訪れる。
「……まあでもあくまで心理テストだし……ね?」
そうだ、これはあくまで心理テストだ。
こんな質問で性欲が分かるなんてまったく科学的ではない。
「……でもアンタ服屋でアタシの胸見てた」
痛いところを突かれた。
「あれはーそのーえーと」
「……変態」
愛はさっきとは違う少し面白がるような感じで言った。
完全に弄ばれているな。
だがしかし、少し不公平ではないか?
俺ばかりが心理を見られて、俺だって彼女の心理が知りたいのに……
「じゃ、じゃあ次は……えーと何にしよう、なんか新しいのあるかな」
そう言って愛はスマホに手をかける。顔はすごくにまにましている。
「第3問、あなたは砂漠の真ん中にいます。そのとき見つけたのは何?A オアシス、Bラクダ、C神様、D何もなかった」
ずいぶんシンプルな問題だ。
うーん、どうしようか。
あまりCの神様とDの何もなかったは選びたくないな。
なんか極端な答えに行きそうな気がする。
ならAのオアシスかBのラクダだな。
……どっちだ?
俺は意味のない思考を重ねる。
「……オアシスかな」
愛の薄い眉がピクッと動いた。
一呼吸間を空けて
「ふぅん」
頬杖をつきながらスマホの画面をこちらに見せた。
画面にはピンクピンクしたサイトが写っており、可愛いらしいくまやうさぎがところどころにいた。
その真ん中にはこう書いてあった。
『オアシスを選んだあなたは浮気者!ちゃんと彼女に向き合わないとバレちゃうかも!?』
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
咳出るわ。
今までで1番心臓に悪い問題だ。
「はあ……」
愛はため息を吐く。
やばい、こんなしょうもない心理テストで彼女に嫌われたくない。
「あ、あの愛ちゃんこれはあくまで……」
「やっぱ心理テストなんてあてになんないね」
「……え」
「だって、アンタが浮気とかするわけないじゃん」
そう言うと愛は少し恥ずかし気に笑った。
迷いのない笑顔だった。
疑うという発想すらないような。
その言葉が胸にじんわりと染みる。
俺は少し間を置き
「……うん、そうだね」
たぶん笑顔でそう言った。
「うーん、じゃあ次はー」
「まだあるの」
彼女はにやにやしながらスマホを操作する。
絶対にまたそういう系のやつだ。間違いない。
「ちょっと待ってくれ愛ちゃん、せめて別のジャンルに……」
そう言って愛のスマホに手を伸ばそうとしたとき、ガタッと膝を机にぶつけてしまった。
その衝撃で愛の手からスマホがぽろっと落ち、こちら側を向いた。
「あ、ごめ」
反射的に謝る。
だが同時に彼女のスマホの画面に目が吸い寄せられてしまった。
画面は検索エンジンのホームになっており、そこには……
『彼氏 心理テスト』
『デート 2回目 服』
『彼氏 キス いつ』
『彼氏 ハグ いつ』
『彼氏 夢中にさせる方法』
『彼氏 キュンとさせる方法』
『彼氏 LINE 心理』
『LINE ドキドキさせるテク』
『LINE 何分待たせるのがいい』
『彼氏 喜ぶ下着』
『彼氏 服 ダサい』
検索履歴が映っていた。
愛はバッとスマホを取り上げる。
チラリと愛の方を見ると耳を真っ赤にして肩をわなわなと震わせていた。
「……見た?」
「あーえーと、一瞬だったというか……あのー……別に気にするほどのことでもないというか……」
「……見たの?」
「……はい」
「……」
「……」
「……」
「……ま、まあ……これがホントの心理テスト……なんちて」
愛は席を立ち上がりスタスタと俺の席の方まで来た。
「愛……さん?」
彼女はそのまま無言で俺の腹にグーパンをかましたのだった。
ファミレスは俺の奢りとなった。




