愛のファッションコーディネート
◯10日目(土曜日)
目が覚め、時計を見る、時刻は10時。
愛との待ち合わせは10時半。
「やばいやばい」
俺は急いで出かける準備を始める。
昨日遅くまであすまるの配信を見ていたせいで寝坊してしまった……!
彼女とのデートの時刻を他の女に夢中になって遅れるとか何の冗談だ。
俺は音速で支度を済ませ、家を飛び出し、人通りの少ない住宅街を全速力で突っ走る。
「……翔気、遅い」
だが悲しいかな、5分ほど遅刻してしまった。
愛はベンチでスマホをいじっていた。
「ごめん、ちょっと寝坊した」
俺はゼェゼェと息を整えながら謝る。
「LINE見た?」
「え?」
言われてLINEを見ると愛からの催促の連絡があった。
「あー、ごめん。俺基本マナーモードなんだ」
俺は学校でスマホが鳴るのが怖くてスマホをマナーモードにしている。
愛はふんと鼻を鳴らした。
ふと周りを見ると、チラチラと通行人……主に男がこちらを見ているのに気づいた。
俺……というか愛を見ているのだろうが。
青いショート丈トップスにとデニムのショートパンツ……そしてへそ出しの組み合わせは、愛の褐色の肌と合わさってとても夏らしい印象を受ける。
俺……この子の彼氏なんだよな……
改めて考えると現実味がない。1ヶ月前ののほほんとしてた俺に言っても信じないだろうな。
「ねぇ」
少し愛に見惚れていると、不満げな声が飛んできた。
「なんか言うことないの?」
「え!あ、ああ……ごめん遅れて」
「違くて」
不満気な声が強まる。
「この格好みて、なんか言うことないの?」
じとりとこちらを見つめる。
その視線に思わず心臓がドキっとする。
「……すごく似合ってる、よ」
「それだけ?」
ジーっと何かを期待するような目で見てくる。
「……可愛い、です」
「……」
そう言った途端、愛はそっぽを向いてしまった。
「まあね……当たり前だし……」
耳が赤い、でも、少しだけ口元は緩んでいた。
「ほ、ほら行くよ」
誤魔化すみたいに袖を引っ張られる。
○
しばらく歩くとショッピングモールにある服屋についた。
「翔気ってさ、ファッションセンスないよね」
「ひど」
なぜ唐突に悪口を言われなきゃいけないのだろうか。
結構オシャレしてきたつもりだが。
「なにそのドクロのTシャツ」
「カッコいいだろ」
「なにその英語だらけのズボン」
「エキゾチックだろ」
「なにその首かけタオル」
「まあ暑いしな」
「全然ダメ!」
ピンと俺の顔を指差す。
「その陰キャの安心毛布みたいなファッションをどうにかするために、今日はアタシがコーディネートしたげる」
「言い方」
そう言うと愛はラックから何着か服を引き抜いて、俺に押し付けてくる。
「これと、これと……あとこれ」
「多くない?」
「黙って試着」
半ば追い込まれるように試着室へ入る。
カーテンを閉めると、外の喧騒が少し遠くなった。狭い空間、柔軟剤みたいな新品の匂い。
今のままでも十分オシャレだとおもうんだがなあ
少々腑に落ちないまま、服を脱いだ。
「翔気ー」
外から愛の声。
「まだー?」
「待てって今着替えてる」
「おっそ」
なんか彼女になってからちょっと遠慮なくなってないか?
そう思いながら服を着替え、鏡を見る。
……なんか、自分じゃないみたいだ。
黒パーカーに、淡いグレーのニット。
サイズ感も少しゆるい。
「……こんなの俺似合うのか?」
渋々カーテンを開ける。
すると。
「……お」
愛が少し目を丸くした。
その反応だけで、妙に心臓が跳ねる。
「どう?」
「……普通にアリ」
「マジ?」
「うん」
愛はゆっくり近づいてくる。
そして俺の胸元を軽く摘んだ。
「でもちょっとここ変」
「え?」
「じっとして」
指先が服を整えるように動く。
近い。
愛の金髪が肩に触れそうな距離。
甘い匂いがふわっと香る。
長いまつ毛、薄く色づいた唇。
褐色の肌に店内の白い照明が柔らかく落ちている。
その瞬間、ふと視線が下がった。
前屈みになったせいで、胸元が少し危ない。
柔らかそうな白い谷間が、ちらりと見えた。
数秒、思考が止まった。
「……翔気」
「はい」
「どこ見てるの」
「……」
終わった。
愛は手を止めてじっとこっちを見る。
数秒沈黙して
「……すけべ」
顔をそらして呟いた。
「いや今のは不可抗力だろ……!」
「男子ってほんと見るよね」
「だって見える位置に愛が……」
「は?」
「……すみません」
愛はふんっと鼻を鳴らす。
けれど服は掴んだまま離れない。むしろ少しだけ、指先に力が入った。
「……まあ」
「ん?」
「彼氏だし、ジロジロ変な目で見ないなら……別に……その……」
小さい声。
聞き返しそうになるくらい小さい。
横からでも、だんだんと顔が真っ赤になっていくのがわかった。
「愛ちゃん?」
「早く会計する!」
「え、あ、ちょ待って」
逃げるみたいに歩いていく金髪を目で追いかけながら。
俺はしばらく、まともに心臓が動かなかった。




