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違和感

 ベッドに寝転びながら、俺はDM画面を見つめていた。


 相手は……あすまる。


 緊張をほぐすため深呼吸をしようとしたが咽せた。


 送るだけだ、でも怖い。


 だって相手は配信者だ。普通に考えてキモいと思われる。


 でもこのまま何もしない方が、もっと怖かった。


 俺は意を決して文字を打つ。


『初めまして、いつも配信見てます!』


 数秒たち、返信が来る。


『翔気くん……だよね。江蜜ちゃんから聞いてるよ。配信見てくれてありがとうね』


 そしてまた数秒。


『好き……なんだよね、あすまるのこと』


「あ!?」


 思わずスマホを落としそうになった。


『江蜜ちゃんが言ってた』


 江蜜、なぜバラす!


 俺は心臓がバクバクと音を立てていた。


 震える手で文字を打つ。


『すみません、そうなんです』


 もはやここで否定しても意味はない。


 愛の反省から今回はもっと関係を築いてから告白したかったのに……


 クソ、絶対キモがられただろ……


『ちょっと話さない?翔気くんのこと知りたい』


 ……え?


 予想外の言葉だった。


 もしかして、江蜜があすまるに俺のこと良いように伝えてくれたのか?


『いいんですか?』


『うん、あすまるはねあすまるを好きって言ってくれる人が好きなの』


 息が詰まる。


 いや、たぶん配信者としての距離感だ。


 リスナーを大事にする的なそういう……そういうやつ。


 でも、妙に距離が近いような。


『配信どうだったかな、リスナーに個人的に意見聞くことってなくてさ』


 しかしこれは明らかにチャンスだ、ありがとう江蜜。


 俺は目を瞑って手を合わせた。


『めっちゃよかったです、ちょっと救われました。最近気分が落ち込むことがあって、でもあすまるさんの声を聞くと安心するっていうか』


 送信。


「……うわぁ」


 送った瞬間に後悔した。


 重い、絶対重い。


 なんだ『救われた』って。


 既読は秒でついたので取り消しもできない。


 俺は枕に顔を埋めてベッドをだんだんと叩く。


『そうなんだ、嬉しい。配信ではね、あすまるが言って欲しいこと、感じたいことをそのまま伝えてるだけなんだ。だからそれで救われたっていうなら本当すごく嬉しい。』


 だがしかし返信を見て心が舞い上がった。


 よかった、思ったよりキモがられてないな。


 ……それどころか結構好印象じゃないか?


 もしかしたら女子とのやり取りにはちょっとしたキモさ……もとい積極性が大事なのか?


『あの、あすまるさんって趣味とかあるんですか?』


 話を広げようと話題を振る。


『ん、趣味かあ……音楽とかかな、アニソンとかよく聞くよ』


『え、アニソンですか!俺もよく聞きますよ!◯◯とか✖️✖️とか!』


『そうなの?じゃあ◯◯のアニメも見てる?』


『はい!あれ最近見た中で1番好きです!』


『わかる!あのアニメ最高だよね、特に8話が』


『いいですよね8話、泣いちゃいました』


 そうして俺たちはしばらくアニメの話で盛り上がった。


 今まで遠い存在に思っていた配信者が自分と同じ趣味を持っていると分かると急に身近に感じられた。


 アニメの話が終わると漫画の、漫画の話が終わると映画の……という風にしばらく楽しく雑談していた。


 しかし


「翔気ぃ!ちょっと外来て荷物運ぶの手伝ぇ!!」


 突然母の大声が飛んできた。


「ちょっとまって今行くー!」


 俺はあすまるとのやりとりを中断するのを少し躊躇ったが、まあ母の用事なら時間も掛からないだろうと思い、スマホをベッドに置いて玄関に向かった。


 外に出るとそこには大量の段ボールが車に詰め込んであった。


「……なにこれ」


 母は日曜大工のような風体で荷物を倉庫に運んでいた。


「おお翔気、これは職場で貰ったやつだ」


「職場って……母さんって何の仕事してんの?」


「ん?まあ色々だな」


「色々て」


 俺は生まれてこの方母の職業を知らない。

 時々「職場で貰ったやつだ」と言って意味不明なものを持ってくることがあるが、そのどれも関連性は謎だ。

 先月は確か熊のジビエ料理と使いかけのコスメと壊れた任天堂switchを持ってきた。


 段ボールの中を見ると様々なペンキや着色材料が大量に入っていた。

 そのどれもが使用済みで少し汚い。


 貰えるものは貰う主義はいいが、流石に取捨選択くらいして欲しいものだ。何に使うんだこんなもの。


「あ、気をつけろよ。それ一度着いたら1ヶ月は取れねぇ強力なやつだから」


「あっぶね!」


 伸ばそうとしていた手を引っ込める。

 そういう大事なことは先に言ってほしい。


 そうして俺は母と共に慎重に段ボールを家の裏の倉庫に運んで行った。


 思ったより重量があるし、零したら……という緊張感もあるしでなかなかの大仕事であった。


 そうして20分くらい経ち部屋に戻りスマホを手に取る。


「あれ」


 見ると通知が13件も来ている。それも全部Xから。


 俺はフォローしてるアカウントもフォロワーも一桁台だから普段からそんなに通知が貯まることなんてないのだが。


 少し違和感を覚えながらDM画面を開く。


『分かるー、じゃあこの映画もいいんじゃない?』


『あれ翔気くん?』


『既読つかない』


『おーい』


『……え、無視』


『なんで?』


『もしかして飽きちゃった?』


『この話題つまんなかったかな?』


『ごめん』


『ねぇごめんって』


『無視しないで』


『謝ったじゃん』


『なんで未読なの?』


 来ていたXの通知は全てあすまるからのDMだった。

 

 ……これは、もしかして無視されたと思われてる?


 なぜだ?


 20分くらい離席してただけで?


『すみません、ちょっと母に呼ばれて行ってました』


 送った瞬間既読がつく。


『……あ、そうなんだよかった、嫌われたかと思っちゃった。こっちこそごめんね。』


「嫌うって……」


 それは話が少し飛躍しすぎではないか?


『翔気くんって結構返信ルーズなタイプ?』


『え、いや……そんなことないと思いますけど』


『そう?』


『はい』


 少しの沈黙が流れる。


 ……と、そんなこともあったがその後はまたしばらく雑談に戻った。


 あすまるとは結構合う趣味も多く、話が盛り上がった。


 そうして話のネタも尽きてきた頃。


『ねぇ、翔気くん……よかったらなんだけど顔写真送ってくれない?』


 急な提案に頭の上に疑問符が浮かぶ。


『どうしてですか?』


『翔気くんのこと知りたいって言ったでしょ?どんな顔してるのかなあって』


 確かに知りたいとは言っていたが、顔かあ。


 別に構わないが、俺は顔には自信がない。少し躊躇われる。


『恥ずかしいなら加工してもいいよ?』


 少し手が止まる。


『いや、仲良くなりたいですし……加工はなしで送りますよ』


 マッチングアプリでも顔写真はあるのだし、顔を上げもしないで好きになってもらうなんて、少し甘かったかもしれない。


 そして2、3分ほど写真を撮るのに格闘していると。


『ねえ翔気くん今日は快晴だし、月を背景に撮ったらオシャレだと思うな』


 と来た。


 確かに今日は晴れているが、言うほど顔写真に関係あるだろうか?


 まあでもせっかくのあすまるの提案だし、バルコニーに出て撮ることにした。


 そうして何回か取り直し、やっといい感じに撮れた1枚を送った。


『ふふ、思ったよりカッコいい顔してるんだね翔気くん』


 少しドギマギすることもあったが、気づけばあすまるの配信の時間になっており、そこで会話は終わった。

 

 ……結構良くないか?


 俺は改めてあすまるとの会話を思い出す。

 最初はどうすればいいか分からなかったが、これならもしかしてもしかするかもしれない。


 俺はあすまるとのDMを見返し少しにまにましていた。


 その時、スマホが震える


 見ると愛からだった。


『ねぇ、明日暇?……アタシちょうど暇だし、買い物とか……付き合ってあげても良いんだけど』


 俺は、思わず自分の頬を叩いた。


 ……なに浮かれてんだよ、俺。


『うん行くよ、俺も行きたい』


 これからの浮気、どうなるかは分からない。分からないからこそ、いい加減な態度だけはしちゃいけないよな。


 俺は改めて胸を引き締めた。


 ◯


えみある@裏アカ女子

 見つけた


えみある@裏アカ女子

 見つけた


えみある@裏アカ女子

 やっと見つけた


えみある@裏アカ女子

 私の王子様♡


えみある@裏アカ女子

 私だけの王子様♡


えみある@裏アカ女子

 好きって言ってくれた、こんな私のこと好きって言ってくれた。


えみある@裏アカ女子

 ああもう好き


えみある@裏アカ女子

 めっちゃ好き


えみある@裏アカ女子

 大好き


えみある@裏アカ女子

 いますっごいキュンキュンしてる


えみある@裏アカ女子

 よく見たら顔かっこいい


えみある@裏アカ女子

 声もまじでイケボ


えみある@裏アカ女子

 指すごい綺麗


えみある@裏アカ女子

 それにめちゃくちゃ優しい


えみある@裏アカ女子

 絶対彼氏にする


えみある@裏アカ女子

 絶対の絶対


えみある@裏アカ女子

 私だけの彼氏にする♡


えみある@裏アカ女子

 本当大好き


えみある@裏アカ女子

 住所もわかったし会いに行こっかないまから


えみある@裏アカ女子

 いや配信あるしそれはダメかw


えみある@裏アカ女子

 今日も見てくれるらしいし張り切っちゃおっかな?顔出ししてないくせにメイクとかしちゃったりしてw


えみある@裏アカ女子

 ……でもちょっと不安


えみある@裏アカ女子

 返信結構ルーズだし


えみある@裏アカ女子

 ……まあでもいっか


えみある@裏アカ女子

 だんだんと矯正してあげればいいだけだし


えみある@裏アカ女子

 大好きだよ♡

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