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浮気物語~俺と10人の彼女たち~  作者: さんぶうい
メンヘラASMR配信者
14/15

ASMRは気持ちいい

 その日の夜。


 ベッドに仰向けになりながら、俺はスマホを見つめていた。


 部屋の電気は消している。画面の光だけがやけに眩しい。

 

 ……彼女ができた。


 卜返愛。


 まっすぐで、強くて、可愛いくて、ちょっと素直じゃなくて。


 俺みたいなのとは釣り合わないくらいの子。


 ……なのに。


「……はあ」


 嬉しいはずなのに、胸の奥が重い。


 理由は分かってる。


 ……あと9人。


 あの神の言葉が、頭から離れない。


 この先、俺は愛を裏切る。


 それが決まってる。


「……最低だな」


 呟いて、スマホを顔の上に乗せる。


 眠れない。


 目を閉じても、ぐるぐる考えてしまう。


 だから……


 逃げるみたいに、スマホを操作した。


 動画アプリを開く。


 何か目的があるわけじゃない、ただ気を紛らわせたかった。


 適当にスクロールしていると


『眠れない人へ♡ 添い寝配信』


 そんなタイトルが目に入った。


 サムネイルは、暗い部屋とマイク。顔は映っていない。


 配信者名『あすまる』


 右下にイヤホン推奨と記載されていた。


「……なんだこれ」


 そう思いながらも、ベッドをまさぐりイヤホンを探す。


 ……まあ、ちょっとだけ。


 軽い気持ちでタップする。


 画面が切り替わる。


 真っ暗な背景。小さなマイク。


 そして、イヤホン越しに音が流れる。


 ……コツ、コツ。


 小さな音。


 耳元で何かが触れるような感覚。


「……ッ」


 思わずイヤホンを外しかけて、止まる。


 次の瞬間。


『……聞こえてる?』


 近い。


 耳のすぐ横で、囁かれたみたいだった。


 思わず息を止める。


『ふふ……びっくりした?』


 小さく笑う声。


 柔らかくてなんだか落ち着く声。


『大丈夫だよ。ここにいる人、みんな同じだから』


 ……同じ?


『眠れない人、ちょっと疲れちゃった人、誰かに本当の自分を受け止めて欲しい人』


 ドクン、と心臓が鳴った。


 なんだこれ、別に俺は……


『疲れてる?大丈夫だよ、私はあなたのこと好きだから』


 とろけるような甘い声が耳を抜け、脳を優しく包み込んだ。


 その一言で、思考が止まった。


 そんなこと、言われたことなかった。


 家でも、学校でも。誰にも。


 この声には家族や愛とは違う、ただ受け止めてくれる包容力があった。


『ねえ』


 また、すぐ近くで声がする。


『今日も、頑張ったね、お疲れ様』


 分からない、俺は頑張ってるのか?浮気しようとしてるやつが?


『大丈夫、ちゃんと見てるよ』


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。


『眠れないならさ……このまま、一緒にいよっか』


 少しだけ甘えるような声。


『寝るまで、そばにいるから』


 その一言で……抗えなかった。


 スマホを切ることも、動画を閉じることも、できなかった。


 イヤホンをつけたまま目を閉じる。


 ただその声だけが近くにある。


『いい子いい子……』


 子供のとき以来、言われたことのない言葉。


 もう年不相応な言葉。だけどいまはそれが安心した。


『大丈夫だよ、ひとりじゃないから……』


 ……ああ、ダメだこれ。めっちゃ気持ちいい。


 気づけば、思考がゆっくり溶けていく。


 罪悪感も、不安も、全部……薄れていく。


『……好きだよ』


 そうしてどれくらい時間が経ったのだろうか。


 気づいた時には、『配信終了』の文字が画面に映っていた。


「……」


 静かな部屋。


 さっきまであった声がもうない。なんだかやけに寂しい。


「……もう1回」


 気づけば、あすまるのチャンネルのアーカイブを開いていた。


 ……なんだよこれ。


 自嘲気味に笑う。でも、指は止まらない。


 再生ボタンをポチッと押す。


 そして思う。


 ……まあ、少しだけならいいか。


 その少しがどこまで続くかも知らずに。


 ◯


 気づくと朝になっていた。


「……寝落ちしてたか」


 まだ眠い目を擦り、スマホを手に取る。


 そこには一通の通知が来ていた。


『はっあーいアタクシ様よ♡お待ちかね次の共鳴体が決定しました♡次の浮気相手は〜どぅるるるるるる〜じゃん!配信者あすまるちゃん!んじゃ、頑張ってねぇ〜♡』


「……は?」

 

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