昼餉の告白
校舎裏を出て、しばらく無言で歩く。
気づくといつもの空き教室についていた。
もってきた弁当を2人で食べる、でも目を合わせられない。
無言で弁当から口に箸を運び続ける。
そうしてしばらくして……
「……あのさ、さっきの勘違いすんなよ」
「え?」
「別に本気で言ったわけじゃないから」
顔を逸らしたまま言う。
「ただ田辺がウザかっただけ」
そうは言うが助けてくれたことは事実だ。
「……ありがとう」
胸の奥がじんわり熱い。
愛が箸を止める。
「でもさ、アンタさっき言ってたじゃん、誰のものでもないって」
こっちを見る。
「それはちょっと、いいと思った」
少しだけ照れくさそうに言う。
「そっか」
「……うん」
会話が終わり、沈黙が場を支配する。
でも先日までの重さはない、心地よい沈黙だった。
そしてこの胸の高揚も先日まではなかったものだ。
「愛ちゃん……好きだ」
気がつくと高鳴る気持ちが自然と口から出ていた。
思わず口を塞ぐ。
なぜだろうか、過去に告白したその時よりもすごく恥ずかしいし、すごく不安になっている。
愛の顔が見れない。
沈黙、何かを考えるような沈黙が流れる。
そして
「……ねえ」
小さく言う。
「アタシってさ、こんな格好だし、いつも周りには田辺みたいなヤリモクばっかだったの」
そう言って自虐気味に語り出した。
「アンタも最初は田辺らと同じかと思ってた……でもアンタの告白ってさ、なんていうか、その……真っ直ぐでさ」
顔は見えないがだんだんと耳が赤くなっているのがわかった。
「……新鮮、だった」
そして一呼吸置いて続ける。
「もしさ、アタシがOKしたら……」
少しだけ間を置いて
「ちゃんと、アタシだけを見る?」
教室の窓から風が吹いた。
風はふわりと愛の金髪を通り抜ける。
愛は俺の目をまっすぐ見ていた。
「……どうなの」
逃げ場はない、心臓がうるさい。
でも……ここで逃げたら全部終わる。
一瞬、灯子の顔が頭に浮かぶ。
「……ちゃんと、見る」
嘘だ。
分かってる。
でも今は……
「……ほんと?」
愛が少しだけ眉を寄せる。
「ああ」
間髪入れずに頷いた。
ほんの数秒の沈黙。
やがて……
「……バカ」
小さく、笑った。
さっきまでの強気な顔じゃない。
少しだけ、力が抜けた顔。
「ほんとバカ」
一歩、距離を詰めてくる。
近い。
そして……
コツン、と。
額が軽くぶつかった。
「……いいよ」
一瞬、意味が理解できなかった。
「え?」
「だから」
顔を逸らしたまま、ぶっきらぼうに言う。
「付き合ってあげるって言ってんの」
……鼓動が止まった気がした。
「……マジで!?」
「うっさい」
軽く腕を叩かれる。
でもその手は少しだけ震えていた。
「勘違いすんなよ。アンタがしつこいから仕方なく……だから」
「……ああ!」
「だからうっさい」
愛は恥ずかしそうにはにかむ。
その笑顔を見て俺は心がじんわりと温かくなるのを感じた。
「あと」
愛が思い出したようにもう一度こちらを見る。
「一個だけ言っとくけど、もし浮気とかしたら……」
一瞬だけ間を置いて
「殺すから」
笑ってる。
でも、目が笑ってない。
「……じょ、冗談だよな?」
「さあね」
にやっと笑う。
でも、その奥にほんの少しだけ、不安みたいなものが見えた。
「アタシさ」
ぽつりと呟く。
「ちゃんと誰かを好きになるの、初めてだから」
「……」
「だから」
視線を逸らしながら
「裏切られたら、普通に無理」
その言葉は軽くない。
俺は……
「……裏切らない」
そう言った。
言ってしまった。
最低だ。
「……ならいい」
愛は小さく頷いた。
そして、少しだけ照れくさそうに笑った。
彼女が笑った分だけ、俺の中の何かが汚れていく気がした。
○
その日の夜。
ベッドに倒れ込むと、全身の力が抜けた。
「はあ……」
天井を見上げる。
彼女ができた。
しかも……ちゃんと好きだなって思える相手。
……なのに。
スマホが震えた。知らない番号からの通知。
『おめでと♡1人目クリアね♡ちゃあんと恋愛エネルギーは受け取ったわ、でも別れたら消滅するのだけは覚えておいてね♡』
背筋が凍る。
『残り9人、頑張りなさいな♡』
あの神の顔が脳裏に浮かぶ。
「……クソ」
小さく吐き捨てるように言う。
終わったわけじゃない。
むしろ……ここからが地獄だ。
好きになった相手を、これから裏切ることが確定している。
母の言葉を思い出す……『お父さんみたいにはなるなよ』
「……最低だな」
その時、またスマホが震えた。
今度は……愛から。
『ねえ、今何してんの?』
画面を見つめ、少しだけ打つ指を躊躇する。しかし頭を振ってメッセージを送った。
『愛ちゃんのこと考えてた』
既読がすぐにつく。
『キモ』
少し間を置き
『でも……まあ、キモいままでいてよね』
胸が、痛んだ。
でも、それでも俺は……止まるわけにはいかなかった。
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