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浮気物語~俺と10人の彼女たち~  作者: さんぶうい
卜返愛はギャルである
12/15

落着

 昼休み。


 俺はいつも通り、愛のいるあの教室へ向かおうとしていた。


 ……が。


「おい、浮田」


 低い声。


 振り返ると、そこにいたのは田辺だった。


 愛と同じグループのヤンキー。


 壁にもたれながら、こちらを睨んでいる。


「ちょっとツラ貸せや」


 断れる空気じゃない。


 俺はそのまま校舎裏へ連れていかれた。

 

 人気のない場所。


「……で、なんだよ」


 できるだけ平静を装って言う。


 すると田辺は一歩近づいてきて……


 ガッ、と胸ぐらを掴まれた。


「おまえさぁ、なんなの?」


「……」


「今日も俺の邪魔してきてさ、キモいんだけど」


 距離が近い、息がかかる。


 怖い。


 でも……


「……キモいのはお前の方だよ」


「……あ?」


 普段ならこういう輩には絶対に反抗しない。

 しても変に目をつけられるし怖いし、損しかないからだ。


 でもいまは……なんだろう、ムキになってしまう。反発したくなってしまう。


「……お前も愛ちゃんが好きなんだろ?ならこんな方法じゃなくて真っ直ぐにアプローチすればいいじゃないか」


 その瞬間。


 ドンッ、と背中が壁に押し付けられる。


「調子乗ってんじゃねぇぞ」


 低い声。


「おまえには関係ねぇだろうが」


 ……クソ


 この感じ。


 逆らえない空気。


 身体が強張る。


「……いや」


 それでも絞り出すように言う。


「は?」


「俺は……愛ちゃんが……愛が好きだ。だから彼女が傷つくのは見てられない。」


 ……嘘だ。


 あいつに課された試練の一環。


 嘘のはずだ。


 でもなぜかその言葉はすらっと喉から出てきた。


 一瞬、沈黙。


 そして……


「はは」


 田辺が笑った。


「言うじゃねぇか」


 ぐっと胸ぐらを引き寄せられる。


「でもよお、現実見ろや。お前みたいな陰キャがよ、あいつと釣り合うわけねぇだろ」


 ……痛いところを突かれる。


 何も言い返せない。


「いいか?愛は……俺のものなんだよ」


「……いや、それも違う」


「あ?」


 俺は勇気を振り絞り、田辺の目を見て言った。


「愛は……誰のものでもない」


 田辺の表情が無くなった。

 

 「もういい」というふうに拳を振り上げ……


 その時だった。


「……離しなよ」


 凛と響く、聞き慣れた声。


「……あ?」


 振り返ると、そこには愛が立っていた。


 腕を組んで、こちらを睨んでいる。


 その姿を見て、心臓がドクンと脈打った。


「何やってんの、田辺」


「別に?ちょっと話してただけだろ」


「その手はなに?」


「ちょっとしたコミュニケーションだよ」


 軽く笑う田辺。


 愛はため息をついた。


「しょうもな……フラれて女々しくアタシの悪口広めてると思ったら、次は翔気に八つ当たり?」


 そして、俺と田辺の間に入る。


「離して」


 短く言う。


「……チッ」


 舌打ちしながら、田辺は手を離した。


「なんでおまえさ、こいつ庇うの?」


 ニヤニヤしながら愛を見る。


「なに、気に入ってんの?」


 愛は一瞬だけ黙った。


 その沈黙が、やけに長く感じる。


「……別に」


 そっけなく答える。


 胸が少し痛んだ。


「じゃあいいじゃねぇかよ、俺が潰しても問題ねぇだろ?」


「問題あるけど?」


 即答だった。


 愛は一歩前に出る。


 その声は、いつもより少しだけ強かった。


「なんでだよ、関係ねぇだろ」


 田辺が眉をひそめる。


 愛は俺の腕を掴んだ。


「こいつ、アタシの……か、彼氏だから」


 田辺の顔から笑いが消えた。

 俺も一瞬、息の仕方を忘れた。


「……は?」


 田辺の間の抜けた声。


「だから……もう近づかないで」


 愛はそう言って、俺の腕をぐいっと引く。


「行くよ彼氏」


「ちょ、待てよ愛」


 田辺が呼び止める。


「マジでそいつでいいのか?」


 愛は立ち止まった。


 少しだけ振り返る。


「……さあね」


 一瞬だけ、俺の方を見た。


「でも……」


 そして少し笑顔で言う。


「アンタよりはマシ」


「……チッ」


 田辺は舌打ちして、壁を蹴った。


「好きにしろよ」


 それ以上は追ってこなかった。

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