なんかムカつく
◯7日目(水曜日)
休み時間、周りの生徒たちの話し声が聞こえてくる。
「卜返って頼まれれば誰とでもヤるビッチらしいよ」
「えそれってまじだったのー?」
「うん、田辺くんが言ってた」
愛の話題だ。彼女はクラスの中心グループの女子、よく話題にはされる、が。
最近この手の悪評をよく聞くようになった。
……なんだかイラッとする。
別に自分が悪口を言われたわけじゃないのに。
愛はトイレか何かに行っているのだろうか、教室にはいなかった。
「それマジだぜ」
田辺が愛の悪口を言っていた女子グループに絡みに行く。
「告られれば誰とでも付き合うし、中学時代からパパ活とかもしてたらしいぜ」
「え、まじで」
「めっちゃありえるー」
キャハハと笑い声が聞こえる。
自分のことを言われたわけじゃない。なのに、指先に力が入った。
美人で男子からモテる愛は一部の女子からは嫌われている。
田辺はそれを知っているから、女子経由で愛の悪評を広めているのだろう。
加えてあの見た目だ。派手な金髪に、男の目を引く体つき。下世話な噂ほど、周囲は勝手にそれっぽく信じてしまう。
いや……そうか、愛が1人で弁当を食べていた理由って……
ガタッと椅子から立ち上がる。
「そんなことあるわけないだろ」
気がつくと田辺と女子グループの会話に割り込んでいた。
「……は?なんだよ浮田急に」
田辺たちは突然会話に乱入してきた俺に困惑していた。しかし俺はそれを無視して続ける。
「愛ちゃんは……そんな子じゃない」
手に汗が流れる。
……クソ、何してんだ俺は
でも、愛が悪口を言われているのをどうしても見過ごせなかった。
これ以上、彼女を孤立させたくなかった。
「あー、ごめんなごめんな、お前愛のこと好きだもんなあ?こんなこと聞かされてショックだったよなあ」
田辺は俺の気持ちを見透かすようにヘラヘラした様子で言う。
女子たちは「えーまじー?」「きゃー」と盛り上がっている。
「そんな話じゃない。愛ちゃんはそんな子じゃないってこと言ってるんだよ」
俺は手を握る力を強める。
「確かに愛ちゃんは少し当たりがキツいところはある。でも本当は純粋で優しい子なんだよ。そんな……根拠もないのにそんなこと言うなよ。」
「……は?何マジになってんの?」
田辺も真っ向から反論を続ける俺に徐々にイラつきだした。
「愛と同じグループの俺が言ってんだよ、これ以上ない根拠だろ?」
「いや、そんなのは嘘だ」
「あ?」
田辺がギロリとこちらを睨む。
教室の空気が空気がピンと張り詰めた、教室中の注目がこちらに集まっている。
怖い、怖いが……俺は田辺の目を真っ直ぐ見て言う。
「……それにこっちだって、ちゃんと根拠があって言ってるんだ」
田辺は意外そうな顔をし、ニヤつきだした。
「へぇー、なんだよその根拠って」
俺はクラス中に聞こえるように、声量をワンランク上げた。
「……俺はこの前愛ちゃんに告ってフラれた、だから彼女は誰とでも付き合うビッチなんかじゃない」
一瞬クラスがシーンと静まり返る。
田辺と女子グループもぽかーんとしていた。
だが次の瞬間、どっと笑いが起きた。
「まじぃ?告った告白?」「カミングアウトきたー」「ウケるー」「キャハハ、浮田どんまーい」「かあっこいいー」
これでいい
これで少しでも愛の悪評が薄まるなら。
俺の顔はみるみる赤くなっていった。
「……それだけ」
そう言うと自分の席に戻って行った。
田辺や女子グループの方からはゲラゲラと笑い声が聞こえてきた。
◯
教室の外。中の喧騒を横目に、少女は壁にもたれかかりぽつりと呟く
「……バカ」
頬は赤く染まっていた。
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