41/44
第40話
後世の歴史家は、この年を「暗転の年」と記している。 大地を救うはずだった食糧が、不気味な黒い斑点と共にドロドロとした粘土へと姿を変えたのと、時を同じくして。
隣国カカ王国の地方都市にて、一人の商人が高熱に倒れた。 その遺体は、脇の下や股の付け根が異様に腫れ上がり、全身に呪いのような黒い痣がびっしりと広がっていた。未知の病は、目に見えぬ風に乗り、街道を伝い、瞬く間に大陸全土を飲み込んでいった。
この死神の前に、王も平民もなかった。 金持ちも貧民も、積み上げた富や祈りも、無慈悲な病原菌の前では等しく無価値だった。 治すための薬はなく、人々はただ、隣人が、そして自分自身が黒く変色して絶命するのを待つほかなかった。
物流は途絶え、国境は閉ざされた。 大陸を覆っていた戦火すら、死病への恐怖によって急激に鎮火していく。 人の往来は死を運ぶ行為へと変わり、賑わっていた都市も、今はただ腐敗臭が漂う沈黙の廃墟へと成り果てた。
世界は、真の底なし沼へと突き落とされる。 逃げ場のない地獄の幕が、今、静かに上がった。
第2章 完




