第30話
リョウカと共に集団のいる場所に戻ると、二人の専門は泥に這いつくばり震えていた。その二人を見据えながら、アキトは声を出した。
「リョウカ。……あの専門家二人と、僕だけで話をさせてもらえないか」
リョウカがわずかに首をかしげる。その隣で、ミオが警戒するようにアキトと捕虜たちの間へ割って入ろうとした。
「……護衛がいると、彼らも本音を言わないかもしれない。僕だけで話させてくれ」
リョウカはアキトを見つめたのち、頷いた。
「……承知しました」
心配そうな顔をするミオに対し、リョウカは声をかけた。
「案ずることはありません。将軍様が、あのような文弱な者たち二人がかりに遅れをとることなど万に一つもありません……」
リョウカたちはそのまま、アキトはカツロウとケンジを促して、崩れかけた倉庫の影へと移動した。
「……殺すなら、ここでさっさとやってくれ」
カツロウが、口内の血を吐き捨てて毒づく。
アキトは周囲を一度確認し、兵たちの影がないことを確かめると、二人に向き直った。
そして、深く、頭を下げた。
「……申し訳ありませんでした」
アキトの絞り出した声に、カツロウは呆然として固まった。
「……あ? 何だ、そりゃあ。何の真似だ」
「あなたたちが、こんな形で連れてこられたことを、知りませんでした。……本当に、申し訳ございません」
アキトは頭を上げたが、カツロウの鋭い視線に射すくめられ、視線が泳ぐ。
「今更、何を言いやがる。あんたが、俺たちを攫えと言ったんだろうが」
「……それは違います。でも、今すぐその過ちを正すことはできません」
アキトは必死だった。
「でも、いつか必ず正します。必ず報います。今は信じられないと思いますが、約束します。だから、今は力を貸していただけませんか。このままではあと1月もしないうちに死ぬ人間が大勢出るんだ」
カツロウは鼻で笑い、そっぽを向いた。
「知るかよ。勝手に飢えさせておけ。人殺しの国の手伝いなんて、死んでも御免だ」
「……カツロウさん、お願いしますよ」
横で震えていた若いケンジが、カツロウの袖を必死に掴んだ。
「このまま逆らっても、僕たちここで殺されるだけです。……助かる可能性があるなら、言うこと聞きましょうよ」
カツロウはしばらくの間、苦虫を噛み潰したような顔でケンジの怯えた表情を見ていた。やがて、大きくため息をつき、膝の泥を払った。
「……。チッ、分かったよ。ケン坊、あんまり情けねえ顔すんじゃねえ。……おいクソガキ。どのみち帰れねえなら、ここで座ってるのも退屈だ。土を相手にする仕事なら受けてやる」
「……。ありがとうございます」
アキトは安堵で膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、カツロウから土壌についての教えを乞うた。カツロウは地面の泥を指でこね、酸性が強すぎることや水はけの悪さを指摘する。アキトは必死にそれを頭に叩き込んだ。
一通り話が終わったところで、アキトは懐から、実物のジャガイモを取り出した。
「これを見ていただけないですか。ダルク帝国からいただいたのですが、何か使えるかもと思いまして」
カツロウはそれを受け取り、土を払ってまじまじと見つめた。
「……これはジャガイモだな。ナギアじゃあまり植えられてねえが、ダルクやアウリスの方まで広く分布してる芋の一種だ」
「使えると思いますか?」
「使えるさ。収穫も早いし、栽培も楽だ。だがな、クソガキ。一個だけ注意しないといけないこともある」
カツロウが少しだけ声を低くした。
「単一の個体だけを無闇に植えまくると、一度病気が入りゃ一瞬で全滅する。……俺から担当者に話しておくよ」
「……ありがとうございます」
アキトは深く礼をした。
これで彼らに少しでも報いることができただろうか。あまりにも足りない。足りないが、もしこれで改革の目が出た暁には、彼らを故郷に戻すことができるかもしれない。
奥深くにその決心を隠しながら、アキトは集団の元に戻った。




