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知の将と鉄の将

第七十八話

鎧将の部屋は、静かだった。


石で囲われ、風の通り道から外れた場所。

外で鳴っているはずの金属音も、ここまでは届かない。


人払いは済んでいる。


鎧将は椅子に腰を下ろし、鎧の腕を肘掛けに置いたまま動かない。

その正面、床に滲むようにして現れた影が、人の形を取る。


濁将は、いつも通り丁寧に頭を下げた。


「ここは静かでいいですね。

 毎日あちらは騒がしく……正直、こちらに身を移したいほどです」


鎧将は視線も向けずに返す。


「余計な話をしに来たわけでもあるまい」


「……そうですね」


濁将は否定せず、言葉を切り替えた。


「では、率直にお聞きします」


一拍。


「答えは?」


鎧将の返答は早かった。


「お前の言っていることは真実だ。そう判断した」


濁将は、わずかに目を細める。


「貴方らしい言い方です。

 それと同時に――非常に誇らしい」


間を置いて、続ける。


「私が目にかけただけのことは、あったようですね」


「将の言葉とは思えんな」


鎧将は腕の位置をわずかに変えた。


「……あのような、リーフォークとも思えん小僧が、か」


濁将は微笑むように首を傾げる。


「おや。

 鎧将ともあろうお方が、目の前の少年をきちんと見ておられないご様子」


「彼は――まごうことなき、リーフォークですよ」


鎧将の視線が、初めて濁将を捉えた。


「どういうことだ」


「リーフォークとは、高潔な種族です」


濁将は淡々と語る。


「仲間や同族が危険に晒されれば、

 あるいは侮辱されれば、黙ってはいられない。

 そういう性質を持つ者たちです」


鎧将が、何かを察したように腕を置き直す。


濁将はその反応を見逃さなかった。


「……どうやら、ご存じのようで」


一歩踏み込む。


「彼の集落は、あの灼将に決闘を挑んだリーフォークの、行き着いた先でした」


「灼将が隻眼となった原因と言われる……あれか」


「ええ」


濁将は肯定する。


「彼の知識に対する姿勢。

 あまり主張的とは言えない性格。

 それでも、知を差し出す時の揺るぎない自信」


「気になりまして。

 お任せしている間に、分体で調べさせていただきました」


声色は変わらない。


「魔族を敵に回してでも、同族を守ったリーフォークたち。

 だからこそ、彼はあの姿で生まれても――捨てられなかった」


「集落に居続けることを、許された」


「彼の体に流れている血は、

 リーフォークの中でも、最も高潔な部分を持っている」


鎧将は短く言った。


「前置きが長い。要するに何が言いたい」


濁将は一度、言葉を飲み込む。


「私は……彼を」


はっきりと。


「我ら四将の参謀に据えたいと、考えています」


鎧将の空気が、わずかに重くなる。


「冗談でも、言葉を選べ」


「冗談ではありません」


濁将は一切引かない。


「王が消えたあの日から、

 魔族の未来を思い、考え続けた末に出した答えです」


「今、口から出まかせを言っているわけではありません」


鎧将は低く唸るように言った。


「……お前の言っていることは真実だと、そう判断した」


「魔族の未来のために力を貸すことは、約束した」


「だが、その話を――今、認めることはできん」


濁将は穏やかに頷く。


「結構です。

 私も、すぐに決まるとは思っておりません」


「それでも、協力を得られた。

 一歩前進、と言ったところでしょう」


「率直に言えと言っている」


「失礼」


濁将は、少しだけ苦笑する。


「私は、なかなか素直に物事を言えない性質でして」


一度、呼吸を置く。


そして、静かに告げた。


「――彼を、灼将のもとへ連れて行きたい」


「ご協力を」


鎧将は、しばし沈黙した後、低く言った。


「……お前の考えていることは、本当にわからんな」

つづく

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