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職人が回す拠点

第六十六話

職人が回す拠点


鎧将の屋敷を出ると、空気が一段変わった。

石の壁に囲まれていた時よりも、風の流れが近い。

強いわけじゃない。ただ、常にどこかで動いている。


先を歩くのは、角のある少女だった。

足取りは早く、迷いがない。

僕と運び屋は、その背中について外の通路を進む。


通路は要塞の外周に沿って走っていて、ところどころ視界が開けている。

谷が見える場所では、下から風が吹き上げ、鉄と石の匂いを運んできた。


視線を落とすと、作業をしている魔族たちが見える。

石を運ぶ者、炉の前で火を見ている者、壁際で座り込んでいる者。

だが、忙しさはまちまちだった。


外縁の広場では、数人が雑談をしている。

壁にもたれて眠っている個体もいる。

働いていない、というより――手が余っているように見えた。


「……」


僕は何も言わず、歩きながらその光景を頭に残す。


少女は一度も振り返らない。

ただ、仕事場へ案内する役割だけを果たしている。


やがて、低い音が聞こえてきた。

火が鳴る音。

金属が熱を受けるときの、鈍く重い響き。


炉場の入口だった。


中からは、規則的な音が続いている。

打つ、冷やす、打つ。

数は多くないが、動きは迷いがない。


その入口で、運び屋が足を止めた。


「ここから先は、中だな」


少女が頷く。


運び屋は肩を回し、翼を軽く広げた。


「外のほうが、俺は向いてる」


少女が一瞬だけこちらを見るが、何も言わない。


運び屋は一歩、僕のほうへ戻ってきた。

翼を畳んだまま、距離を詰める。


「俺は俺のやれることをやる」


低く、短い声。


「お前はお前のやれることをやれ」


そう言って、翼の先で僕の背中を――ぽん、と軽く叩いた。

それだけ言い残して、運び屋は谷へ踏み出した。

風を裂く音が一瞬だけして、姿はすぐに見えなくなる。


「……慣れてるな」


少女がぼそっと言った。

それ以上、言葉は続かなかった。

残ったのは、僕と少女だけだった。


「……行くぞ」


少女はそれだけ言って、炉場の中へ入っていく。


中は熱かった。

だが、ただ熱いだけじゃない。


金属を扱う者は少数で、作業は完全に分かれていた。

一人が火を見る。

一人が打つ。

一人が形を決める。


それぞれが専任で、代わりがいない。


通路を抜けると、さらに奥に石材加工所があった。

こちらはもっと静かだった。


大きな岩がいくつも並び、

それを削っているのは――ほとんど同じ体格の魔族だけだった。


土の匂いがする。

口元や爪に、細かい粉がついている。


鋭い爪で岩を切り出し、迷いなく形を整えていく。

道具はない。

目測と感覚だけで、きれいな面が生まれていた。


「……何か用か」


声をかけられて、はっとした。


「ここは危ねえ。近づくな」


職人の目だった。

警戒というより、邪魔をされたくないという色。


「見ていただけです」


少女が横から口を挟む。


「鎧将の客だ。世話係は私」


グラード族は鼻を鳴らした。


「ふん。客か」


それから、僕を見る。


「で? 何だ」


少し、間が空いた。


「……人が、少ないように見えました」


言葉を選びながら、出す。


「外には、座っている人もいました」


グラード族は一瞬だけ眉を動かした。


「そうだな。外は余ってる」


あっさり認める。


「ここは、俺たちだけだ」


「分担は……?」


「しねえ」


即答だった。


「石は勘だ。手癖だ。他に任せると狂う」


少女が横で黙って聞いている。


僕は、外の通路で見た光景を思い出す。

座っていた魔族。

余っていた時間。


……僕が、できることがあった気がする。


道具。

手順。

知っているだけの知識。


まだ形にならない考えが、頭の奥で動き始めていた。

つづく

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