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鎧将

第六十三話

鎧将


石の要塞の奥へ、

僕らは通された。


階段を幾つも越え、

最後の門の前に立つ。


少女は一歩前に出て、

短く告げた。


「鎧将。来客です」


返事はない。

代わりに、金属が擦れた。


扉が開く。

冷えた空気が流れ出す。


中は広い。

床も壁も、石。


左右の壁に、

鎧がずらりと並んでいた。


鎧。腕。脚。胸当て。

整然と揃う“予備”の列。


奥に、石の椅子がある。

玉座みたいに高い。


そこに座るのは、

鎧そのものの魔族だった。


中身の気配が薄い。

でも圧だけは、確かにある。


硬い声が落ちてくる。


「……何だ」


少女が、きっちり答える。


「将に用があるとかで、案内いたしました」

「アエン族と、もう一人です」


鎧が僕らを見る。

視線だけで測るみたいに。


「一般の魔族が、なぜここにいる」

「私に用だと?」


喉が鳴って、

僕は言葉が詰まった。


運び屋が先に出る。


「使いだ」


「使い?」


「証があります。」


僕は胸元に手をやって、

羽根を取り出した。


翼将の羽根。

一本だけの証。


少女の目が揺れる。

知らない。だが、重い。


沈黙が落ちる。

鎧の関節が、小さく鳴った。


「……なるほど」

「アイツの使いか」


視線が少女へ移る。


「おい」


「……はい」


「座る物を」

「水も出せ」


「かしこまりました」


少女は頷き、

すぐに動いた。


足が少しもつれる。

それでも止まらない。


水が置かれ、

簡素な椅子が並ぶ。


僕は座る。

膝が、少しだけ震えていた。

運び屋は立ったままだ。


「話せ」


僕は口を開こうとして、

息だけが漏れた。


運び屋が、隣で小さく顎を引いた。

――言え。短く。


「濁将の……領域が」


「……濁将?」


少女が、びくりと肩を跳ねた。

その名を口にするだけで、

場の空気が一段重くなる。


「人間に……落とされました」


「……人間に?」


「はい」


鎧の奥から、

感情の温度が読めない声だけが落ちる。


「それで……濁将は、

 自分で話す必要がある、と」


「濁将本人が来たのか」


「いえ、来てません。

 その……」


僕が言いよどんだ瞬間、

運び屋が声を挟む。


「本人は“移動手段”を持ってる。

 だが、本人が動くと目立つ」


「人間に追われる」


「そうだ。

 だから“出口”を運ぶ必要がある」


「……で、出口……?」


少女の声が、掠れた。

自分が聞いていい言葉じゃない、

という顔をしている。


「黙って聞け」


「……はい」


「……僕が持ってる

 青い石、アクアイアが」


「それが出口か」


「はい。

 それを……将のところまで持っていけば、

 濁将が、そこで――」


言い切る前に、

鎧将が結論だけを拾う。


「濁将は“出てこれる”。

 ここで、私に直接話すために」


「……はい」


少女が、目を見開いたまま固まっている。

唇が、何か言いかけて閉じた。


運び屋が要点だけを落とす。


「濁将は目立てば追われる」

「だから、出口ごと運ぶ者が要る」


「お前たちが、その役か」


僕は小さく頷いた。

言葉より先に、肩が動いた。


鎧が少女を見る。

少女の顔は、少し青い。


将の名が飛び交う。

普通なら、聞くだけで震える。


「濁将は、いつ出る」


僕は答えられない。

分からない、しかない。


「……分かりません」


運び屋が補足する。


「見計らうはずだ」

「数日……いや、状況を見てだろう」


鎧が頷く。

判断が早い。


「……分かった」

「使いを無下にはしない」


少女へ視線。


「おい」


「はい……!」


「こいつらに寝床を与えろ」

「滞在中の世話は――」


一拍置いて、言い切った。


「お前がやれ」


「……っ、はい!」


「濁将が現れたら、すぐ伝えろ」


「かしこまりました……!」


「それまで、この要塞で過ごせ」

「風より、石の方が安全だ」


僕は息を整えて、

やっと言った。


「……ありがとうございます」


返ってきたのは淡々とした声。


「礼はいらん」

「結果を持って来い」


会談は、切れるように終わる。


少女が僕らを促す。


「……こちらです」


声は硬い。

肩も硬い。


運び屋が、普段通りに言う。


「畏まらなくていい」


少女が止まる。


「俺たちは、そういう所から来た」


少女は一瞬だけ目を伏せ、

小さく息を吐いた。


「……わかった。」


僕らは扉を出る。

背中に、鎧の列が残る。


石の通路の先へ。

滞在が始まる。


濁将が現れるまで――

この要塞が、僕らの居場所だ。

つづく

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