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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第十一章〜西国の豪傑〜

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"西郷"どん

――官軍(かんぐん)


 すなわち新政府軍(しんせいふぐん)とは、天皇または朝廷を主君とし、幕末において江戸幕府(旧幕府軍)を倒さんとする、薩摩藩・長州藩・土佐藩を中心に結成された軍勢である。


 主な指導者は、維新の三傑と呼ばれる人物たち――薩摩藩の西郷隆盛(さいごうたかもり)

 同じく薩摩藩の大久保利通(おおくぼとしみち)

 そして長州藩の桂小五郎(かつらこごろう)、もとい木戸孝允(きどたかよし)である。


 他にも名の知れた人物は多くいるが、やはり代表格であるこの三人のいずれかに的を絞るべきだろう。


(だとしたら、あの人しかいないか…)


 かなたはしばらく目を閉じて考えると、やがてゆっくりとまぶたを開けた。


西郷(せご)どんにしましょうか」


「せごどん?」


 三人がそろって首をかしげるのを見て、かなたは「はい」と頷く。


「"せごどん"とは、薩摩藩の西郷隆盛の地元での呼び名です」


 薩摩は、現代でいう鹿児島県全域と宮崎県南西部にあたる。

 訛りも強く、「さいごう」という名前も「せご」と発音されるのだ。


「西郷隆盛……というと、西郷吉之助(きちのすけ)のことですか?」


「そうです! 西郷さんなら情に厚いと聞きますし…」


 合理的に判断する大久保や木戸に比べれば、西郷なら話を聞いてくれる可能性は高い。

 とはいえ、相手が必ず応じるとは限らない。それに今は、鳥羽・伏見の戦いを機に戊辰戦争が始まったばかりだ。返答が来るとしても、かなり先になるだろう。


「送ったら、とりあえず返事は長い目で待ちましょう。その間にまた何か言われれば、その都度策を練り直すということで…」


 土方にいちゃもんを付けてきた新政府軍も、忙しさのあまりにこぼした愚痴に違いない。ぶっちゃけ、今はそれどころではないだろうし、当面はこちらにまで手が回る余裕はないだろう。


「それで、なんて書く?」


「そうですねぇ」


 土方の問いに、かなたは考えるように天を仰ぐ。


「とにかく、新選組に敵意がないことと、これからの立ち位置について話し合いたい、ということが伝わればいいと思います」


「じゃあ、こんなもんか」


 そう言って土方はさらさらと筆を走らせると、三人の前に書き上がった書状を置いた。


 その内容はこうだった。




西郷吉之助 殿


謹啓

貴軍ますます御勇躍の段、慶賀に存じ候。


我ら新選組は、これまで会津藩御預りの身に候えども、此度これを離れ、京の治安を守るべく相勤め候。


元より我らの志は、ただ京の安寧を守ることにあり、政争に与するものにこれなく候。


然れども、治安維持の儀において御用立て候ことあらば、微力ながら尽力仕る所存に候。

対立を避け、共に京の安寧を保つ道を相図り度く候。


右の旨、御含み置き下され、無益の争いを避け候よう、何卒御高配賜りたく候。


末筆ながら、貴軍御武運長久、京洛安穏の儀、心より祈念仕り候。


敬具

慶応四年一月五日


新選組

局長 近藤勇

副長 土方歳三

総長 山南敬助





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