思想
最近の新選組は緩くなった。
伊東甲子太郎は内心そう思っていた。何よりも腹立たしいのは、自分の知らないところで隊内の決まり事が出来ている所だ。
「うぃ〜。兄貴、帰ったぞ〜」
「三樹三郎、お前はまた飲み歩いていたのか」
ふらりと現れて酒の匂いを漂わせているのは、実弟の鈴木三樹三郎だ。鈴木は猫のようなツリ目を細め、気分が良さそうに転がっていた。
「だってよぉ、兄貴。人がいるっつうもんだから、藤堂の誘いでこっちに来たが、特にやることもなく暇じゃねえか」
三樹三郎のいうことは確かに間違いではない。参謀としてここへ来てから戦略を練ることはあっても、それを実践に移す機会は訪れない。それに加え、隊の空気はここ最近、明らかに緩くなってきている。
近藤勇は一体、何がしたいのだろうか。
「三樹三郎、最近隊内の様子がおかしいと思わないか?」
「まあそうだな。やけに緩くなったつーか、あの厳しさから一変、妙に温和になったよな」
こんな愚弟でも気づくほどの変化だ。
「私は、山南さんが怪しいと思うんだ。前は落ち込んでいたと思ったのに、最近はやけに生き生きしている。まさかとは思うが....このまま弱っていく新選組を、乗っ取るつもりなのではないだろうか」
きっとそうに違いない。
伊東は腹立たしそうに拳を握ると、鈴木をちらりと見やる。
「三樹三郎、少し調べてみてくれないか」
「へいへい」
鈴木は軽く答えると、ひょいっと立ち上がり足軽に部屋を出ていった。
まったく、あの気持ちの軽さは誰に似たのだろうか。きっと、弟も近藤たちと同じく、自分を舐めているに違いない。
だが、それも今のうちだ。この新選組を乗っ取るのは、私なのだから。




