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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第三章〜歴史が変わる瞬間〜

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池田屋事件

「我ら、会津藩お預かり新選組!尊攘派の密会ありとのしらせにより、御用改ごようあらために参った!手向かいする者あらば、容赦なく斬り捨てる!」


 近藤の号令とともに、新選組隊士たちは一斉に散り、池田屋にいた尊攘派の浪士たちが逃げ惑いながら刀を抜きはじめる。


 かなたの言っていたことは本当だった。


(やっぱりあいつ、こいつらの仲間なんじゃねぇのか?)


 土方は、かなたが仲間を売るような真似をしたのではないか、と心中に疑念を抱き彼女を見張るが、当のかなたはそれどころではない。なぜならここでは、沖田が結核の発作で喀血かっけつし藤堂が額を斬られ戦線を離脱する。そんな史実があるのだ。


 外で隊士たちを指揮していた土方は、どこか様子のおかしいかなたを怪しみ、声をかける。


「おい、かなた。どうした?」


 かなたは少し迷いながらも、口を開いた。


「えっと、その...沖田さんと平助くんが心配で....」


「何がだ...? あいつらなら大丈夫だろ」


 土方は沖田と藤堂の能力を買っている。あの二人が十分強いことは、かなたも分かっているが...


「いえ...そういう事ではなくてですね...」


 ーーおい!総司!どうした!!!


 屋内から聞こえてきた隊士の声に、かなたは目を見開く。


「おい!どこ行くんだ!」


 土方の声も聞かず、かなたは池田屋の中へと走り出していた。

 隊士たちと浪士の間をすり抜け、辿り着いたその先には、沖田が苦しそうにうずくまっている。


「沖田さん!」


 すぐに沖田に駆け寄り、口元を確認する。


(吐血していない...?)


「ハァッ...ハッ...!」


 どうやら、戦いの興奮で呼吸困難を起こしているだけのようだ。

 かなたは沖田の体を支えると、背中をゆっくりとさする。


「沖田さん大丈夫だよ。ゆっくり息を吸って」


 沖田の肩が小刻みに上下し、苦しげな息がかなたの手の甲に当たった。


「か....なたさん.....あり...がとう.....」


 ようやく呼吸を整えた沖田が、か細く礼を告げる。立ち上がったものの、その足はふらついていた。


「沖田さん、辛かったら戦線を抜けてくださいね...」


「あぁ.....大丈夫.....。なんとか、行けそうです...」


「わかりました.....でも、無理はしないでくださいね!」


「...ええ。かなたさんも、早く安全なところへ避難してくださいね」


 そう言ってにこりと笑うと、沖田は再び戦線へと戻っていく。

 その背中を見送りながら、かなたは周囲を見回す。


(平助くん、どこにいるの....?)


「おい!」


 すると、焦るかなたの前に土方が現れた。息を切らし、隊服には返り血が付着している。どうやら、かなたを追いかけて斬り合いの中を抜けてきたようだ。


「こんな所に突っ込んでいく奴があるか!危ねぇだろ!」


 怒鳴る土方の声に、かなたは思わず肩をすくめる。しかし土方には悪いが、自分にはまだやるべき事が残っているのだ。


「すみません.....!あの、平助君見ませんでしたか?」


「あ? 平助なら下の間にい....」


「わかりました!」


 かなたは言葉を最後まで聞かずに駆け出した。けれど、その動きを読んでいたかのように土方が腕を掴む。


「おい!待てって!」


「土方さん!」


 こんなことをしている暇は無いのに。かなたは、その手を振りほどこうと土方へ顔を向ける。だが、土方はかなたの腕を引っ張ると肩に手を回し、体をぴったりとくっつけた。


「俺も一緒に行く。離れんなよ!」


「あ...は、はい!」


 土方は斬り合いの中で、かなたを庇いながら藤堂の居る一階へと突き進む。

 そして、部屋に足を踏み入れたその瞬間、藤堂が浪士の攻撃を受けようとしていた。


「平助くん!」


「おい...!」


 土方が制す間もなく、かなたの体は勝手に動き出す。


「...なんだ!?」


 気づくと浪士に体当たりをし、その反動で床に倒れ込んでいた。


「てめえ、よくも邪魔しやがったな!!」


 浪士がかなためがけて刀を振り下ろしたその時、カキンッと鋭い音が響く。顔を上げると、土方がその刀を受け止めていた。


「なにっ!? うがぁっ...」


 間髪入れず、土方は一突きで浪士を貫く。その返り血がかなたの顔に飛び散った。何度経験しても、この臭いだけは慣れない。

 土方は刀を一振りして血を払うと、無言でかなたの元へと歩み寄る。そして深く息を吸い込み、部屋中に響き渡る声で怒鳴りあげた。


「てめぇ、死にてぇのか!!!」


「ご、ごめんなさい....」


 怒気を帯びた声に、かなたの喉がひゅっと鳴る。すると藤堂がかなたの前に立ち、苦笑まじりに口を開いた。


「ま、まあまあ土方さん....こいつのおかげで助かったんだしよ...」


 土方は呆れたように、大きくため息をついた。それ皮切りに、藤堂が明るい声をあげる。


「かなた、ありがとよ!お前のおかげで助かったぜ!戦いもやっと終わったな!」


 そういうと彼は部屋を後にした。いつの間にか、池田屋の騒動も終息していたようだ。

 すると土方が、まるで子供を叱るかのような目でかなたを見つめる。


「お前...俺たちを助けたいって気持ちは分かったが、自分を犠牲にするような真似はするんじゃねぇ」


「はい....本当に、すみませんでした....」


 確かに軽率な行動だった。迷惑をかけて申し訳ない。そう落ち込んでいると、かなたの目の前に手が差し出された。


「....ん」


「あ、ありがとうございます.....」


 土方の手を取って立ち上がった瞬間に足がふらつく。一度、冷静になると顔についた血の匂いが一気に鼻腔を突いた。


「うっ.....」


 思わず手で口元を押さえるが、吐き気は止まらない。あの時の......芹沢を殺した時の、あの感触が蘇ってくる。


「おい、どうした?」


 異変に気づいたのか、土方はかなたの顔をのぞき込む。その顔は真っ青で、手は小刻みに震えていた。


「あ、あの....時の...こと...思...い...出し.......ちゃって」


 そう告げると、土方は何も言わずそっとかなたの肩を抱き寄せる。


「...大丈夫だ。あの時とは違う」


 そう言って、かなたの肩をぽんぽんと軽く叩いた。そして、彼女の頬についた血を自分の羽織でごしごしと拭きはじめる。


「うぐっ」


 とてもじゃないが、女子の顔を拭く力ではない....。それはさておき、土方の体温と優しさに段々と心が落ち着いてきた。


「......すみません。ありがとうございます」


「おう、帰るぞ」


 土方の手が素早く離れる。何故かその体温が名残惜しく感じる。嫌な汗をかいた反動か、顔も暑い。


 変な気持ちを抱えたまま、かなたは土方の背を追いかけた。


 土方の顔も赤かったのは、ここだけの秘密...

声を大にしていいますが、これは恋愛物です!!!!

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