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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第二章〜正しさの代償〜

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強くあるためには

 文久三年 十二月



 かなたは箒を手に、身を震わせながら寺の境内を黙々と掃いていた。

 少しでも新選組のイメージを良くできればと始めた寺の掃除の手伝いも、いつの間にかすっかり習慣になっている。


 落ち葉を集め終え、本堂脇を通りかかると、腕を組んで立つ土方の姿が目に入った。


「あっ、土方さん」


「かなた、今、時間あるか」


「はい? まあ、ありますけど…何でですか?」


「お前は少し、自分の身を自分で守る術を身につけるべきだ」


 それは護身術でも学べ、ということだろうか。


「それは……まあ、そうですね?」


「というわけで、今日から少しずつ稽古をつけてやる」


「えっ、今からですか?」


 思いがけない言葉に、かなたはつい間の抜けた声を上げてしまう。

 確かにこの間、強くなりたいとは言ったが、どちらかと言えば、それは精神的な話のつもりだった。


「境内なら広いし、足元も悪くねぇだろ」


 そう言って土方は竹刀を二本手に取ると、そのうち一本をかなたへ差し出した。

 こういう時は、木刀じゃないだけありがたいと思うべきなのかもしれない。


「まずは構えからだ」


「は、はい」


 土方に渡されるがまま竹刀を手に取り、かなたは少し緊張した面持ちで、教えられた通りに構えた。


「…肩が落ちてる。もっと腰を据えろ。背中が丸いぞ。猫かお前は」


「うぅ…猫は可愛いですよぉ…」


 早すぎる土方の突っ込みに、かなたは不満げに眉を下げつつも、言われた通り背筋を伸ばす。


「いいから、ほら、打つぞ」


 そう言うと、土方は容赦なく、かなたの竹刀に太刀を打ちつけた。


「やぁ!? ちょ、ちょっと早いです!!」


 土方のわりと本気な一太刀に、かなたは思わず変な叫び声を上げ、後ずさる。

 すると土方は、かなたに向けて竹刀を構え、まるで今から斬ってやると言わんばかりの視線を向けた。


「敵は合図なんぞしてくれねぇ。斬られる前に動け」


「は、はい……」


 それから何度か竹刀を交え、息も上がり始めた頃、かなたは思わず地面に手をついた。


「つ、つかれた……」


 そんなかなたを見ながら、土方は頬を伝う汗を袖で拭う。


「……まあ、思ったより筋は悪くねぇな。へっぴり腰も最初よりは見られるようになった」


「ほ、ほんとですか!?」


「ああ、褒めてやる」


 ぶっきらぼうな言い方のくせに、土方はどこか得意げな顔をしている。


「あの土方さんが……?」


「調子にのんなよ」


 初めて土方に褒められ戸惑いを隠せないでいると、気づけば彼の目は、既にいつもの鋭さを取り戻していた。


「は、はい……でも、こうして竹刀を振っていると、なんだか気持ちが良いですね」


 刀を見ると、どうしても芹沢のことを思い出してしまう時があった。

 けれど、竹刀を振るううちに、胸の奥につかえていたものが、少しずつ薄れていく気がする。


 そんなかなたの変化を察したのか、土方はこちらへ顔を向け、静かに言った。


「咄嗟でも、人のことを助けられる奴はそうそう居ねぇよ」


 きっと褒めてくれているのだろう。

 その言葉を、かなたは不謹慎にも少し嬉しく感じてしまう。


 短い沈黙のあと、かなたは地面に着いていた手に力を込め、立ち上がった。


「あの、土方さん」


「…なんだ?」


「前に、『俺は新選組のためなら、汚いこともする』って仰ってましたよね?」


「ああ…そんなことも言ったな」


「私は、土方さんだけが悪者になる必要は無いと思うんです」


 土方は一瞬目を細めたが、何も言わずに黙って耳を傾けていた。


「私のことはまだ信じられないかもしれないけど、私も土方さんの力になりたいです。他の隊士の方だって、土方さんに頼りにして欲しいと思ってます」


「……はん、口だけは一人前だな」


「うっ…」


 それを言われると、何も言い返せない。

 土方はふっと、わずかに笑みを浮かべたようにも見えたが、すぐに表情を引き締めた。


「…信じてないわけじゃねぇ。ただな、信じるってのは、口だけじゃなく行動の積み重ねだ」


「…そう……ですね」


 土方は少し視線を落とし、言葉を選ぶようにして続ける。


「たが、今日みたいにまっすぐ言ってくれる奴が一人いるってのは、悪くねぇ。少しは、人の話を聞くのもありだな」


 その言葉に、土方が自分の言葉を確かに受け止めてくれているのだと分かり、胸の奥が少し温かくなった。


「…ほら、早く構え直せ。次は打ち込み十本だ」


「えっ! そんなに?!」


 そう言われて仕方なく竹刀を握ったものの、かなたは翌朝、筋肉痛でしばらく動くことができなかった。


ここで一旦、シリアス展開は一区切りです。

ここからは少し明るめな展開になる......はず!


とはいえ、歴史は動き続けます。ときどきシリアスな場面も出てくるかもしれません。(芹沢暗殺編ほど重くはないと思います。きっと)


かなたと新選組たちが選ぶ『生き方』によって、少しずつ変わっていく未来。

その先に何が待っているのか、ぜひ見届けてください。

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