表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第二章〜初めの改革と決意〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/77

強くあるためには

 文久三年 十二月



 凍てつく風が、壬生寺みぶでらの境内を吹き抜けていた。

 かなたは普段お世話になっている、寺の掃除を時たま手伝うようにしている。少しだけでも、新選組の評判を回復したいのだ。


 いつものように掃除を終え、本堂脇を通りかかると、土方が腕を組んで立っていた。


「おい、かなた。今、時間あるか」


「はい? まあ、今はありますけど...何でですか?」


「お前は少し、自分の身を自分で守る術を身につけるべきだ」


 それは護身術でも学べということだろうか。


「....それは、まあ、そうですね....?」


「というわけで、今日から少しずつ稽古をつけてやる」


「えっ、今からですか?」


 思いがけない言葉に、つい間の抜けた声を上げてしまう。それにしても唐突すぎる。


「境内なら広いし足元も悪くねぇだろ。寺の御本尊に見られてると思って、気を引き締めろ」


 現代人は無宗教が多いのだけれど。....今はそういう問題じゃない事だけは分かる。


 そう言うと土方は竹刀を二本手にし、一本をかなたへと差し出した。こういう時は、木刀じゃないだけありがたいと思うべきなのか。


「まずは構えからだ」


「は、はい」


 かなたは少し緊張した面持ちで竹刀を握り、教えられた通りに構える。


「.....肩が落ちてる。もっと腰を据えろ。背中が丸いぞ。猫かお前は」


「うぅ........猫は可愛いですよぉ...」


 それにしても突っ込みが早すぎる。


「いいから姿勢を直せ。ほら、打つぞ」


 ビシッと土方は容赦なく太刀を浴びせる。


「わっ!? ちょ、ちょっと早いです!!」


 土方のわりと本気な一太刀に、かなたは慌てて後ずさった。


「敵は合図なんぞしてくれねぇ。斬られる前に動け」


「は、はい...」


 そうして、何度か竹刀を交えるうちに、かなたの頬が少しずつ紅潮してくる。息は白く、手もかじかむが、汗ばむほどに体は熱い。


「.....思ったより筋は悪くねぇな。へっぴり腰も最初よりは見られるようになった」


「ほ、ほんとですか!?」


「ああ。褒めてやる」


 ぶっきらぼうな言い方のくせに、土方はどこか得意げな顔をしている。


「あの土方さんが.......???」


「調子にのんなよ」


 初めて土方に褒められ戸惑いを隠せないでいると、気づけば彼の目はもういつもの鋭さを取り戻していた。


「は、はい......でも、こうして竹刀を振っていると、なんだか気持ちが良いですね。あの時は、ただお二人を助けなきゃって....思ってましたから」


 土方は体をこちらへ向けると、真っ直ぐとかなたを見つめた。


「咄嗟でも、人のことを助けられる奴はそうそう居ねぇよ」


「.......土方さん」


 風が一瞬、止んだような気がした。かなたは一息つくと、静かに口を開く。


「あの、土方さん」


「なんだ?」


「前に『俺は新選組のためなら、汚いこともする』って言ってましたよね」


「ああ、そんなことも言ったな」


「私は、土方さんだけが悪者になる必要は無いと思うんです」


 土方は一瞬目を細めたが、黙って耳を傾けていた。


「私のことはまだ信じられないかもしれないけど、私も土方さんの力になりたいです。他の隊士の方だって、土方さんに頼りにして欲しいと思ってます」


「.....はん。口だけは一人前だな」


「うっ....」


 それを言われると、何も言い返せない。

 土方はふっと、わずかに笑みを浮かべたようにも見えたが、すぐに表情を戻した。


「.....信じてないわけじゃねぇ。ただな、信じるってのは、口だけじゃなく行動の積み重ねだ」


「......そう...ですね」


 土方は少し視線を落とし、言葉を選ぶようにして続けた。


「たが、今日みたいにまっすぐ言ってくれる奴が一人いるってのは、悪くねぇ。少しは、人の話を聞くのもありだな」


 その言葉に、かなたの胸がじんわりと温かさで満たされる。土方が、自分の言葉を確かに受け止めてくれている。


「....ほら、早く構え直せ。次は打ち込み十本だ」


「えっ!そんなに?!」


 冷たい空気の中で交わす竹刀の音が、静かな壬生寺の境内に響き渡る。

 かなたの歩みは、確かに一歩ずつ強さへと向かっていた。

ここで一旦、シリアス展開は一区切りです。

ここからは少し明るめな展開になる......はず!


とはいえ、歴史は動き続けます。ときどきシリアスな場面も出てくるかもしれません。(芹沢暗殺編ほど重くはないと思います。きっと)


かなたと新選組たちが選ぶ『生き方』によって、少しずつ変わっていく未来。

その先に何が待っているのか、ぜひ見届けてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史 / タイムスリップ / 新選組 / 幕末 / 恋愛 / 土方歳三 / 女主人公 / コメディ / シリアス / すれ違い / 幕府 / 和風 / 江戸時代
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ