不器用なりの優しさ
あれから、かなたの元気が戻らない。
そう沖田から聞かされ、土方が廊下を出ると、中庭で忙しなく手を動かしているかなたの姿が目に入った。
土方はしばらく、遠目にそれを眺める。
確かに沖田の言った通り、動きはどこかぎこちなく、顔色も冴えない。
いつもなら放っておくところだが、なぜか胸に小さな罪悪感が残り、土方は気づけば、かなたへと足を向けていた。
「おいかなた、お前、顔色悪ぃぞ。働きすぎて倒れられてもめんどくせぇ。休める時は休め」
その声に、かなたはぴくりと肩を揺らして、ゆっくりと土方を見上げる。
「土方さん……」
一瞬ためらったのち、かなたは少し俯きながら答えた。
「えっと…夜更かししてしまって…すみません」
えへへ、と愛想よく笑ってみせるその様子に、土方はかすかな違和感を覚え、眉をひそめる。
「嘘ついてんじゃねえよ。何かあるんだろ」
かなたは視線を逸らし、やがて意を決したように、土方を見つめ返した。
「……実は、あれから毎晩、芹沢さんの夢を見るんです」
ぽつりぽつりと、言葉をこぼすその姿に、土方は何も言わず、ただ耳を傾けていた。
話し終えたあと、かなたは自分の手をぎゅっと握りしめる。
「…でも、一番怖いのは人を殺したことじゃないんです。人を殺したのに、こんなにも冷静でいる自分が怖いんです。こんなに、普通に仕事をして、普通に話をして、笑って…私、本当に人を殺したんでしょうか……それすら、信じられない時があるんです」
土方はかなたの傍まで歩み寄り、壁にもたれかかると、しばし考えるように黙り込んだ。
やがて腕を組み、低い声で口を開く。
「……あの時、お前が動かなきゃ、俺か総司がやられてた」
土方は一瞬、息をつくと、すぐにかなたの方へ体を向ける。
「冷静でいられるのは、お前がここで生きていこうとしているからだ」
「っ……!」
その土方の言葉に、かなたの目は思わず熱くなる。
すると、土方は眉を下げたまま、しばし視線を落とし、噛みしめるように口を開いた。
「だが……本当は、あの役目は俺達がやるはずだった…悪かったとは思ってる。お前の手を、汚させちまったな」
「そんな…土方さんが気にする必要ないです……私が勝手に動いたことだから…」
そう言いかけて、かなたの頬に、ぽろりと涙が落ちた。
「…でも、強くなりたいです。もっと、土方さんやみんなを守れるように……!」
そんなかなたの姿に、土方は少し困ったように口元を緩める。
「俺たちを助けたんだ。もう十分強ぇだろ」
そう言い残し、土方はかなたに背を向けて去っていく。
その背中を見送るうち、冬の始まりを告げる冷たい風が、かなたの頬をかすめた。
自分が強いなんて、思ったことはなかった。
それでも、自分が誰かを守ったのだと、そう言われたことだけが、頭の中に残る。
かなたは小さく息を吸い、着物の袖で涙を拭うと、ぽつりと呟いた。
「……生きるって、大変だな」
その声は、誰に届くこともなく、中庭に落ちる。
そして、かなたは夕日をみつめ、「よしっ」と声を出すと、前を向いて再び拳を握りしめた。
土方が段々とかなたのことを認めようとしている。そんな気がします。




