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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第二章〜正しさの代償〜

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不器用なりの優しさ

 あれから、かなたの元気が戻らない。


 そう沖田から聞かされ、土方が廊下を出ると、中庭で忙しなく手を動かしているかなたの姿が目に入った。

 土方はしばらく、遠目にそれを眺める。

 確かに沖田の言った通り、動きはどこかぎこちなく、顔色も冴えない。


 いつもなら放っておくところだが、なぜか胸に小さな罪悪感が残り、土方は気づけば、かなたへと足を向けていた。


「おいかなた、お前、顔色悪ぃぞ。働きすぎて倒れられてもめんどくせぇ。休める時は休め」


 その声に、かなたはぴくりと肩を揺らして、ゆっくりと土方を見上げる。


「土方さん……」


 一瞬ためらったのち、かなたは少し俯きながら答えた。


「えっと…夜更かししてしまって…すみません」


 えへへ、と愛想よく笑ってみせるその様子に、土方はかすかな違和感を覚え、眉をひそめる。


「嘘ついてんじゃねえよ。何かあるんだろ」


 かなたは視線を逸らし、やがて意を決したように、土方を見つめ返した。


「……実は、あれから毎晩、芹沢さんの夢を見るんです」


 ぽつりぽつりと、言葉をこぼすその姿に、土方は何も言わず、ただ耳を傾けていた。

 話し終えたあと、かなたは自分の手をぎゅっと握りしめる。


「…でも、一番怖いのは人を殺したことじゃないんです。人を殺したのに、こんなにも冷静でいる自分が怖いんです。こんなに、普通に仕事をして、普通に話をして、笑って…私、本当に人を殺したんでしょうか……それすら、信じられない時があるんです」


 土方はかなたの傍まで歩み寄り、壁にもたれかかると、しばし考えるように黙り込んだ。

 やがて腕を組み、低い声で口を開く。


「……あの時、お前が動かなきゃ、俺か総司がやられてた」


 土方は一瞬、息をつくと、すぐにかなたの方へ体を向ける。


「冷静でいられるのは、お前がここで生きていこうとしているからだ」


「っ……!」


 その土方の言葉に、かなたの目は思わず熱くなる。

 すると、土方は眉を下げたまま、しばし視線を落とし、噛みしめるように口を開いた。


「だが……本当は、あの役目は俺達がやるはずだった…悪かったとは思ってる。お前の手を、汚させちまったな」


「そんな…土方さんが気にする必要ないです……私が勝手に動いたことだから…」


 そう言いかけて、かなたの頬に、ぽろりと涙が落ちた。


「…でも、強くなりたいです。もっと、土方さんやみんなを守れるように……!」


 そんなかなたの姿に、土方は少し困ったように口元を緩める。


「俺たちを助けたんだ。もう十分強ぇだろ」


 そう言い残し、土方はかなたに背を向けて去っていく。


 その背中を見送るうち、冬の始まりを告げる冷たい風が、かなたの頬をかすめた。

 自分が強いなんて、思ったことはなかった。

 それでも、自分が誰かを守ったのだと、そう言われたことだけが、頭の中に残る。


 かなたは小さく息を吸い、着物の袖で涙を拭うと、ぽつりと呟いた。


「……生きるって、大変だな」


 その声は、誰に届くこともなく、中庭に落ちる。

 そして、かなたは夕日をみつめ、「よしっ」と声を出すと、前を向いて再び拳を握りしめた。

土方が段々とかなたのことを認めようとしている。そんな気がします。

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