不器用なりの優しさ
屯所の廊下に差し込む西陽が、長く影を引いていた。
土方は廊下の向こうから、忙しなく働くかなたの姿を見つける。
だが、その動きはどこかぎこちなく、顔色も冴えない。しばらく様子を見ていた土方は、ふと立ち止まり声をかける。
「おい、かなた。お前、顔色悪ぃぞ。働きすぎて倒れられてもめんどくせぇ。休める時は休め」
かなたは手を止め、ゆっくりと土方の方を見る。
「土方さん....」
一瞬ためらったのち、かなたは少し俯きながら答えた。
「.....実は、あれから毎晩芹沢さんの夢を見るんです」
土方は黙って耳を傾ける。かなたは芹沢の夢のことを静かに語り始めた。
「....でも、一番怖いのは人を殺したことじゃないんです。人を殺したのに、こんなにも冷静でいる自分が怖いんです」
かなたの声がわずかに震える。
「こんなに、普通に仕事をして、普通に話をして、笑って...私、本当に人を殺したんでしょうか......それすら、信じられない時があるんです」
土方はかなたの傍まで歩み寄り、壁にもたれた。しばし沈黙が流れたあと、低い声で言う。
「.......あの時、お前が動かなきゃ、俺か総司がやられてた」
土方は一息つくと、かなたの方へ体を向けた。
「だが......本当は、あの役目は俺がやるはずだった。お前が"先に動いた"ってだけだ.......それでも、悪かったとは思ってる。お前の手を、汚させちまったな」
かなたは黙って土方の言葉を聞きながら、彼の目をじっと見つめ返す。
「冷静でいられるのは、お前がここで生きていこうとしているからだ」
「...っ!」
「夢の中の芹沢が何度出てこようと、お前が逃げずに向き合ってるなら、それでいい。怖ぇのに、ちゃんと向き合ってる。....それだけで、たいしたもんだよ」
「....はい」
その言葉に、かなたの目が少しだけ潤む。
土方の言葉のあたたかさが、静かに心の奥に染みていくようだった。
土方が段々とかなたのことを認めようとしている。そんな気がします。




