遠き日の約束
「本当に大丈夫ですかね……」
「大丈夫ですって! 土方さんは、かなたさんに似合ってるって言って欲しいはずですよ!」
沖田に励まされながら土方の部屋の前へと着くと、かなたは深呼吸をして襖の前で正座をした。
隣にいる沖田に目を合わせると、意を決して扉の向こうにいるであろう土方へと声をかける。
「……土方さん、いらっしゃいますか?」
少し間があった後に、襖が開く。
顔をあげると、そこにはいじけた顔をした土方が立っていた。
「……なんだ?」
何を言おうか迷って思わず隣を見ると、そこには沖田の姿はなく、ただ静寂だけが残っている。
(やられた……)
いや、どうせこんなことになるだろうとは薄々思っていたが、沖田の親切心にまんまと騙された。
かなたがずっと黙っているので、土方は不思議に思ったのか、その場に座り込むと真剣な目で彼女の顔を見つめる。
「何かあったのか?」
様子がおかしいからと心配をしてくれた彼に、申し訳なさを感じ、かなたはぐっと心を決めると頭を下げた。
「あの……さっきはすみませんでした!」
身構えていた土方は、予想の斜め上をいく謝罪に毒気を抜かれたような顔になり、何度か瞬きを繰り返す。
「わざわざそれだけを言いに来たのか?」
「いや、その……土方さんの髪型が似合いすぎてて、思わず逃げてしまったというか……」
そんな変な理由を聞いて、土方は思わずふっと息を吹き出して笑った。
「そんなことあるか?」
「そ、そんなこともあるんです! すごく似合ってたから……」
「……真面目に言われると小っ恥ずかしいな」
そう言って頬を赤くして目を逸らす土方が新鮮で、思わずその姿をじっと見つめてしまう。
「あの、髪……触ってもいいですか?」
かなたのその言葉に、土方は顔を赤くしながら目を見開いた。
「さ、触るって……」
またこいつは訳のわからないことを、と考えるが、きっとかなたには悪気などないのだろう。
「……好きにしろよ」
そう了承を得た瞬間、かなたの顔がぱぁっと明るくなった。
手を伸ばして土方の髪に触れると、自分が広めた手入れ方法のせいか、思ったよりもさらさらとしている。
かなたは彼の髪の触り心地が良く、ついつい無駄に手を動かしてしまっていた。
「お、おい……子供じゃねえんだからよ……」
「あっ、す、すみません!」
咄嗟に手を引っ込めると、土方の顔は先程よりも一層赤くなっている。
(茹でダコみたいだ……)
そんなことを思っていると、土方が顔を背けたままこちらへと視線を動かした。
「お前は切らねえのか?」
「え?」
「いや……女に髪を切れ、なんて酷だったな」
男が切るのだから女も、なんて思ったが不躾だったか。
土方が気まずそうに視線をそらすと、かなたは少し身を乗り出して顔を近づけた。
「あの! もう少し先の話ですが、女の人も髪が短いのが普通になる時代が来ると思うので、その時になったら土方さんに見せますね! あ、でもその頃にはお婆さんになってるかもしれないんですけど……」
そう言ってから、今の言葉は求婚みたいではないかと少し焦る。
恐る恐る顔をあげると、土方は無邪気に笑っていた。
「ああ、楽しみにしてるぜ」




