西洋式
「中村くん、今良いかね?」
「近藤さん、どうかしましたか?」
かなたが土方の代わりに各所へ出す手紙をまとめていると、近藤がトントントンと、障子の端を鳴らした。
どうやら、どこかで西洋式のノックを覚えてきたようだ。
肌寒さが消えた今、障子を開け放していたので近藤はそのまま部屋の中へ入る。
かなたは文机に向けていた体を近藤の方へと向けた。
「いやあ、実は中村くんにお願いがあってだな…」
近藤は持っていた紙をぺらぺらと見せると、かなたの前へ差し出す。
「これは…もしかして、新しい隊服ですか?」
「ああ、我々もそろそろ西洋式の筒袖…シャッツとやらに変えようと思ってだな」
たしかに史実だと新選組はこの時期、戊辰戦争の途中から洋服を着ている。
かの有名な土方の写真も洋服姿だ。
「凄く良いと思います!」
思っていたよりもノリノリで話を聞いてくれるかなたに、近藤の顔はより一層にこやかになる。
「それで、中村くんには隊服の仕様を考えて欲しいんだ」
「仕様…ですか?」
きっとデザインのことだろうが、現代とこの時代ではだいぶ流行も様式も違う。
だとしたら自分が考えるより、商人と話し合った方が早いのではないだろうか。
そんな不安そうな目でかなたは近藤を見つめるが、近藤にはその意図は伝わっていないようだった。
「中村くんが居た時代では西洋の服が一般的なのだろう? だとしたら、中村くんにしか分からない使いやすさなども織り込めるんじゃないかと思ってな」
言っていることは理にかなってはいるが、本当に自分に作れるのだろうかと不安が残る。
「時間はかかってもいいから、是非やって欲しいんだが…」
と、子犬のような目で見られると、断れないのがかなたなのだ。
――――
新しい隊服の仕様を考えるにあたって、いちばん大変だったのは機能性よりも、デザインそのものだ。
未来で土方が残した写真や、教科書などで見た偉人の服を思い出そうにも限界がある。
薩摩藩や長州藩は既に洋式化していたので、かなたは藩邸の周辺を歩き回って、出入りする人々を眺めたりしていた。
ただ、一つ幸いだったのが、近藤が指定した大坂の仕立て屋が京の町にしばらく滞在してくれたことだ。
まだ日本の文化が根強い京の町で洋服を作るのは、きっと難しいだろうと判断し、大坂の商人にお願いしたのだろう。
しかし、大坂へいちいち行ったりなどしてはいられなかったので、近藤が気を利かせてこちらへ呼んでくれたのだ。
新選組は、今では刀以外に短銃の訓練も行っているので、それを仕舞えるように懐には衣嚢を付け、刀を簡単に腰へ付けられる革ベルトも作成することになった。
けれど、やむを得ない場合のみ使用可としている短銃は、今のところ幹部隊士しか常備を許されていない。平隊士にとっては「幹部隊士になりたい」という気持ちを奮い立たせてくれるものにしかならないのだが、まあそれはそれで別のものを収納出来るので良しとしよう。
そして出来上がったのが、黒を基調とし、単純な作りではあるがそれでいて洒落ている隊服だ。
幹部隊士と平隊士は区別を付けるために、微妙にデザインが異なっている。
その漆黒の中でも最も際立っていたのは腕の腕章だ。 だんだら模様に『誠』と書かれ、腕をぐるりと一周しているそれは、町民にとっても新鮮だった。
赤い腕章を見ると人々は「幹部隊士だ」と町の誇りに思い、浅葱色の腕章を見ると「今日も平隊士が頑張っている」と町の活気付けになっている。
(みんな喜んでくれて良かったなぁ)
と、隊服を支給して数日が経ったころ、かなたがそう思いながら屯所の縁側を歩いていると、彼女の前に黒い影が現れた。
「あ、土方さ………なっ…!!」
「よお」
思わず指をさしてしまうが、指された本人の土方は訳がわからず首を傾げている。
「なんだ? ああ、これか…」
かなたが指さす場所に気づいたのか、土方は自分の髪の毛を触った。
「近藤さんが西洋の服にするなら、髪型もそうしてみないかって言ってな、切ってみたんだが…似合ってるか?」
言葉が出ずに固まっているかなたに、土方は少し不安になる。
「おい…そんなに変か…?」
そんな土方の言葉も耳に入らず、かなたは踵を返してどこへともなく走り出していた。
「あっ、おい! 待てよ!」
遠ざかっていくはずの彼の声は、なぜか近づいているようにも聞こえる。
しかし、かなたはそんなことに気づくこともなく、必死に足を動かしていた。
「な、な、な………」
(なんだあのイケメンは…!)
あれは土方なのだろうか。いや、きっと土方に間違いない。最初に自分が認識したのは土方だったので、土方本人だろう。
(誰でもいいから話がしたい!!)
かなたは廊下の角を曲がると、一目散に広間へと向かった。




