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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第十一章〜西国の豪傑〜

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紅茶と猫と私と

「ここか」


「ここですね」


「広い建物ですねぇ」


 そう言って、土方・山南・かなたの三人は建物を見上げる。

 三人が訪れたのは、京の町の中心地から少し外れた大きな屋敷だった。言うまでもないが、ここが西郷に指定された場所だ。


 入口で声をかけると、初老の男が出てくる。

 もしかして、相馬に手紙を渡した人物だろうか。

 かなたがそんなことを考えていると、男は土方が差し出した西郷からの手紙を見るなり、屋敷の奥へと案内してくれた。


 外観は和風の屋敷だったが、中はそれに似合わず、西洋の物ばかりが置かれている。

 三人が通された広い部屋には、畳の上に絨毯が敷かれ、その上にはテーブルと椅子が置かれていた。


(おぉ…)


 なんともまあ久しぶりな光景に、かなたは思わず見入ってしまう。


「しばし、お待ちくださいませ」


 そう言い残すと、男は部屋を後にし、入れ替わるように女中らしき女が現れて、西洋茶碗(ティーカップ)に入った紅いお茶のような飲み物を三人の前に差し出した。

 女は頭を下げると、男と同様に部屋を去っていく。


「慣れねぇな…」


 土方はそう呟くと、椅子を引いて腰を下ろした。

 かなたと山南も同様に座ると、カチコチと音を刻む時計の響きを聞きながら、しばらく静かに時を過ごしていた。




 それから、どれくらいの時が経っただろうか。

 出されたお茶はすでに冷めきり、茶殻がカップの中に模様を描いている。

 かなたは久しぶりの紅茶の味を噛み締めながら、最後の一口を飲み干した。

 土方と山南は味に慣れないのか、カップの中にはまだ紅茶が残っている。


 かなたは一息つくと立ち上がり、部屋の中の装飾をひとつひとつ、じっくりと眺めはじめた。

 椅子の後ろにある棚には、陶器で作られたかわいらしい猫の置物がいくつも並べられている。


 こうしたものを見ていると、まるで現代にでも戻ってきたかのような、不思議な気持ちにさせられる。


(犬は…無いのかな?)


 そんなことを思っていると、低い声が場に広がった。


「遅せぇな…」


 その声の主、土方はせっかちなので我慢ができずに足を揺すりはじめてしまう。

 一方の山南は落ち着きすぎていて、今にも懐から本を取り出して読み始めそうな、そんな雰囲気があった。


 そんな正反対な二人を見ていると、廊下の方からどしどしと大きな足音が響いてくる。

 ガラッと襖が開き、そちらに目を向けると、大柄な男が二人立っていた。


(西郷隆盛が二人?)


 かなたが戸惑い気味に眉をひそめていると、土方たちはすっと立ち上がり、男たちを見据える。

 男たちはそのまま三人の向かいへと歩み寄り、椅子を引いた。


「どうぞ、腰を掛けてくいやんせ」


 そう言われ、かなたたち三人は再び椅子に腰を下ろした。


「遅なって、すまん。おはんらが新選組か? おいは、薩摩藩の西郷吉之助じゃ」


「おいは西郷様に仕えちょる、桐野利秋(きりのとしあき)でごわす」


 西郷隆盛双子説を推したかったが、どうやらもう一人の男は西郷の側近のようだ。

 かなたはちらりと土方を見やると、彼は気づかれないように小さく息をついた。


「新選組 副長の土方歳三だ。局長自ら来られず申し訳ない。今日は自分が話を進めさせてもらう」


「総長の山南敬助と申します。以後、お見知り置きを…」


「新選組 補佐役の中村かなたです。本日は記録と、こちらの助言をさせていただきます。よろしくお願いいたします」


 すると西郷は「ほぉ…」と呟きながら、自身の顎をさする。


「こげな子どもが記録係ちゅうとは、新選組には()()人間がおっどなぁ」


「日々勉強させていただいております!」


 かなたがにこにこと謙遜していると、土方が本題を切り出すように姿勢を正した。


「ところで、本日は突然の申し出に応じていただき、なんとお礼を申し上げてよいのやら…」


「よかよか」


 その柔らかな返答を聞いた瞬間、かなたの頭には、ずっと気になっていたことが浮かび上がる。

 好機(チャンス)だという考えよりも先に、かなたは身を乗り出し、目をきらきらと輝かせた。


「あ、あの! 西郷さんって犬がお好きなんですか?!」


 隣にいた土方と山南は、案の定「何を言っているんだコイツは」という顔をしていた。

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