こんなのどう考えたって
「ただいま。」
「里香!よかった、無事で!」
スピカに戻ると寝ずに待っていてくれたのか、ソフィが抱きしめてくれる。その声は涙ぐんでいて申し訳ない気持ちになる。
「ごめん、心配かけて。」
「ううん、いいの。ごめんね、ごめんね。」
「ソフィは何も悪くないよ。」
そう言って背中をさするがソフィは首を横に振って否定する。
困ってしまってクロードの顔を見るとここが鴉の拠点の一つだと教えてくれた。
「ここが鴉の?」
「あぁ。ソフィは人間で戦闘能力はほとんどないし、しょうがないんだけどね。それでも責任を感じてるんだろう。」
「ソフィ、やっぱり何も悪くないじゃない。」
「でも、何も出来なかった。ただ隠れてることしかできなかったの…」
「そっか、よかった。ソフィに何かあったらそっちの方が私はショックだよ。」
「里香…」
ポロポロ涙をこぼすソフィを抱きしめる。本当にこの世界の人達は私を大切にしてくれる人ばかりだ。
ソフィが落ち着いたので話はまた後でする事にして少し休む事にした。なにせほとんど寝てないので流石に疲れてしまった。
ユーリちゃんは不本意そうだったが報告に戻らなくてはいけないらしい。休む暇もなく飛んで行ってしまった。
クロードはまだ危険があるかもしれないから私のそばを離れたくないと言って残った。
正直2人きりになると何を話していいかわからなくなる。頼みの綱のウルリも疲れたみたいで寝てしまったのだ。
ウルリを寝床に横にすると私もベッドに腰掛けた。
「それじゃ私は少し休むね。クロードはどうする?」
「俺はもう少し起きてるよ、おやすみ。」
「わかった、おやすみ」
ベッドに入りクロードに背を向け横になる。普通に接しようとすればするほどどうしていいかわからなくなる。
目を閉じて眠る努力をするが疲れてるはずなのに眠れなくて
寝返りを打ってクロードの方を向いた。
クロードは机に向かっていて何か手紙のようなものを書いているようだ。カサカサと紙とペンの擦り合わせるような音が静かに響く。
(なんか絵になるなぁ…)
真面目な顔をあまり見た事が無いので思わずまじまじと見てしまう。それになんだか今までと違う様に見えてしまってドギマギする。
「寝れないの?」
不意にクロードがこちらを振り向く。手紙を書くのをやめてこちらにくると私のベッドに腰掛けた。
「よく気付いたね。」
「人の視線には敏感だからね。うるさかった?」
「ううん、大丈夫。ただ色々あって眠れないだけ。」
そういうとクロードは私の頭を撫でる。これ久しぶりだな。
「そっか、なら少し話をしよう。…聞きたい事があったんだ。」
「何?」
「俺がいない間、あのバカ王子と何があったの?」
「……」
今ここでそれをぶっ込んでくるとは思わなかった。思わず無言になる。
「言っておくけど俺ずっと里香の感情の波をそれはもういつも以上に集中して感じてたから嘘は通用しないからね。」
「…えっと。」
「特に俺が到着する少し前かな。この辺りを詳しく教えて、一言一句違わずに。」
「そんなしっかり覚えてないよ…」
別に秘密にしなきゃいけないわけでも無い。ただこの話をすると結婚を申し込まれた話からその後のクロードの隣に立ちたい云々の話になってしまう。多分クロードが知りたいのはこの辺りの話だろう。だけどそれを本人に話すのは恥ずかしすぎる。
「なんでそんなに恥ずかしがってるの?まさか何かされたの?」
「何もされてない、本当に!ただあの…」
どうにか誤魔化せないか?ぐるぐる思考をフル回転させるが何も思い浮かばない。
「お父さんを国王の座から下ろしたいって。その為にガレオへの中継ぎを頼まれただけだよ?ルシムもなんか操られてたみたいでね、魔族はダメって思い込んでたんだって。聖なる祈りを使ったら解放されたの!いやー、自分に使えば良かったよねーあはは…」
「うんうん、それで?」
とりあえず該当箇所以外を話してみたが誤魔化されてくれる気はないらしい。
笑顔が怖い。
「えっとその後ウルリの存在がバレちゃって芋づる式に聖女じゃ無いのがバレちゃって…」
「……」
「聖女達は解放するし帰せるなら帰してくれるって。だからその、代わりに私に結婚してほしいって…」
「……」
「帰れないからやだって言ったんだけどそうしたら帰りたくなくなるように俺に惚れればいいって…」
「……」
怖い怖い怖い!なんで無言なの!
「勿論そんなつもりないよ!ルシムも本気じゃ無かったのかも!」
苦し紛れの言い訳も一瞬で切り捨てられる。
「いいや、本気だったんでしょ?じゃなきゃあんなに里香の感情が揺れるはずない…。だからあんな風に…?」
やっと喋ったと思ったら不思議なことを言われた。
あんな風ってなんなんだ?私の感情の話?
クロードは教えてくれる気は無いらしい。
でもなにか誤解しているのかもしれない。理由は分からないけど不安そうでここはもう腹を括るしか無いと思った。
「よくわからないけどあの時考えてたのはクロードの事だよ。」
私の言葉にクロードは驚いた顔をする。
「対等に隣に立てる人が良いって言われたの。その時私はクロードの隣に立てるようになりたいって思ったの。守られてばかりで何も出来ないのは嫌だなって。」
「……」
「もう良いでしょ!寝る!」
私は頭から布団をかぶって背を向けた。あー、もう恥ずかしい!こんなのまるで…
「…なにそれ、あれは俺に対しての感情だったって事?」
(だからどんな風に感じたのよ!)
教えてほしいけど知りたくない気もする。多分ものすごく恥ずかしいから。
「………」
またなにも言わなくなってしまった。
気まずくて目だけ布団から出す。ちらっとクロードの顔を見てみるとその表情に驚いた。
「クロード照れてる?」
「…そう言う事をすぐ口に出すのやめて。」
クロードの耳は赤く染まって口元は手で隠している。まさかそんな顔をしてるとは思って無かったのでびっくりした。
「そこまで言うのに俺に待てっていうんだね。」
「……」
それについては申し訳ないと思ってる。でも好意があるからって全て捨てて飛び込んでいけるほどの勇気も度胸もまだ私には無いのだ。
「でも、そっか。あいつの言う通りかもしれない」
「?」
クロードが身を乗り出して私に顔を近づける。ほとんど押し倒されていると言ってもいい体制だ。
思わず身を固くする。
「俺をもっと好きになれば帰りたいなんて思わないよね?」
「!」
「帰してなんかあげないから覚悟しててね。」
クロードは私の額にキスを落とすと身体を起こしてまた私の頭を撫で始めた。話は終わりらしい。
こんな状態で寝れるはずがない。それでも私もこれ以上は話していられなくて必死に目を閉じる。
どのくらい時間が経ったのだろうか。分からないけどどうも頭を撫でられるのには弱いらしい。ゆっくりと意識は落ちついていき、気づけば眠りについていた。




