帰ろう
クロードは微動だにしない。取り巻く風は強く、力を込めていないとすぐにでも吹き飛ばされてしまいそうだ。私は腕を回してしっかりと抱きしめた。
「クロード、助けに来てくれたの?」
「…らない……いっそ‥」
返事はなく、ただボソボソと何か呟いている。私は構わず話し続ける。
「ありがとう‥待ってたよ。帰ろう?」
「なん……俺…」
「私が嫌がったって一緒にいるんでしょ?」
「……一緒?」
やっと反応が返ってきた。私はなるべく話すペースを変えずに穏やかに話続ける。
「一緒にいてくれるって、言ったじゃない。嘘だったの?」
「一緒にいる…でも…里香が…」
その先に続く言葉は多分あの言葉で思わず先回りする。
「捨てたりしないってば、何度言わすの。」
捨てられると怯えて怯えて、いつもしっかりしてるのに変なの。ここまでされてわからないほど鈍感でもない。
私の気持ちも同じだけど気付いたばかりでまだ全てを捨ててまで選べない、だから…
「ちゃんと決めるから。その時が来るまではそばに居て。」
甘えた言葉だと思う。
だけど明確な言葉で伝えるのは、それは無責任すぎると思うから。
その分抱きしめる腕に力を込める。
取り巻く霧で相変わらず顔は見えないけど痛みはもうなかった。
ふと、背中に腕がまわって抱きしめ返された。
「クロード?正気に戻ったの?」
腕の力を弱めて上を見上げるが顔が見えないのでよくわからない。
(え?)
唇に柔らかくて温かい何かが触れてすぐ離れた。その感触に思わず固まる。
「わかった。待ってる。」
周りの霧が一気に晴れて視界がクリアになる。クロードはもう私を抱きしめてはいなかった。何が起きたのかわからず呆然としてしまう。
「里香、ごめん。痛かったよね。」
クロードが心配そうな顔で私の顔を覗き込む。私は咄嗟に距離をとってしまった。
「大丈夫、すぐ治せるから!」
私はすぐに自分の傷を癒した。動揺してクロードの顔が見れない。そこに後ろから心配そうにウルリが飛んできて胸に飛び込む。
「里香!大丈夫?」
「ウルリ‥心配かけてごめんね。大丈夫よ。」
「全く世話をかけるんだから」
「ユーリちゃんも来てくれたのね、ありがとう。」
「別に貴方のためじゃなくてクロードの為よ!勘違いしないでよね!」
これがツンデレ。初めて生で見た。立て続けに話しかけられて平常心が少しずつ戻ってくる。
「大丈夫か、里香。」
「あ、うん。大丈夫。ごめんね、部屋がめちゃくちゃになっちゃった。」
「謝る必要ないよ、もとあと言えばコイツが悪いんだから。」
こちらに来たルシムを見てクロードは私を庇う様に前に出た。さっきの事があったのにルシムも引かずに堂々と前に立つ。
「君は何回ここを壊せば気が済むんだ…。こちらとしても誘拐された里香を取り戻しただけだ、悪いことはしていない。」
「は?」
「えっとクロード、色々あってルシムは悪い人じゃないってわかったの。だから落ち着いて。」
「俺にとっては極悪人なんだけど。」
「帰ったら話すから、ね?ルシムとりあえず帰っていいかな?」
「しょうがない。レストが戻る前に帰った方が里香の為だろう。」
「あいつなら戻らないよ、多分。人間じゃなくてもあれは致命的だろ。」
「…どう言う事だ?」
クロードは渋々さっきあった事を話した。まさか私を攫ったのがクロードをここに呼んだ人だったとは。
「そうか、なら問題ないか。里香ここに残るか?」
「そんなに死にたいのか、わかった。」
「ルシム、わざと話をややこしくしないで。」
「わかったよ。今回は諦めよう。」
詳しい話は後日、場を設けることにしてとりあえず解散することになった。こんなに騒ぎになってるのに誰も来ないのを不思議がっていると私を連れてきた時からずっと聖女の1人が部屋の外で音が漏れないように防音の結界のようなものを張っていたそうだ。私がここにいる事自体機密扱いらしい。
「心配しなくていい、悪いようにはしない。」
「うん。お願い。」
不安が顔に出てしまったみたいだ。ルシムは穏やかに微笑んで約束してくれた。
聞くと実は何人かはすでに魅了を解いているらしい。長期にわたる複数へのスキル使用はルシムへの負担もでかいので解いても問題なさそうな人は解いて純粋に協力をお願いしているそうだ。
「魅了なんてなくても俺はカッコいいからな。」
自信満々に宣言するルシムに思わず笑ってしまう。
「ふふ、そうだね。」
「でも興味ないって昔言ってたよね、里香。」
「好みってのは変わるんだよ。なに、すぐに里香も俺に夢中になるさ。」
「里香は俺のだよ。ね、里香は俺の顔好きだもんね?」
「里香、いつでも俺のところに来ていいからな。さっきの話本気だから。」
「は?お前里香に何言ったの?」
「はいはい、喧嘩はやめて帰るよ。」
案外息ぴったりだし仲良くなれるかもねなんて内心思ってたら2人に変な事考えるなって怒られた。ほらぴったり。
扉の吹き飛んだテラスに出てきた。外はもうすっかり夜が明け始めていた。
「ほら、里香。」
クロードが手を差し出す。分かってる、歩いて帰れる距離じゃない事くらい。でも平気な顔をして運んでもらえるほど私の心臓は強くないのだ。
(だってさっきのは…)
だめだ、思い出すと頭がクラクラする。そんな私の様子も全部わかっているのにクロードはただ静かに手を差し出すのみ。周りはそんな私たちを不思議そうに見ている。多分ユーリちゃんはキレてる。
「あぁ、もう!よろしく!」
結局結果は変わらないのだ、私は勢いよくクロードの手を掴んだ。そんな私の様子を見て満足そうな顔をしてクロードは私を抱き上げた。
「ルシム、またね。」
「あぁ。ありがとう、里香。」
私たちは笑顔で別れると帰路についた。
その間私は気を逸らすために胸元にウルリを抱きしめひたすら縮こまっていたのだがユーリちゃんがずっと私の文句をグダグダ並べ立ててくれたおかげでどうにか気まずくなることなく帰る事ができた。




