根幹は優しいと思うから
急速に意識が浮かび上がる。目を開けるとさっきと同じ姿勢で自分が座っている事に気づきフゥと息を吐いて肩の力を抜いた。
「大丈夫か」
時間はさほど立っていないらしいが少し疲れた様子の私をみて心配そうな顔をしている。
あまりにも悲惨な光景をみて流石に回復するのに時間がかかる。特にクロードが人を殺すところなんかいつもの様子とかけ離れ過ぎてなかなか頭が受け入れてくれなかった。
「あれが…昔あったことなの?」
「そうだ。人間のアンタには刺激が強かったかもな。」
燃やしたと聞いたあの日から何となく酷いことがあったんだろうとは思っていた。それでも実際見ると心が追いつかない。
それでも少しずつ飲み込んでいくために私はガレオの話を聞くことにした。
「そうだね。でも、大丈夫、ありがとう。あの後、全部終わったあとはどうなったの?」
「俺が回収して連れ帰った。話を聞くとなんとも言えなくてな。ただ、本人が出てくっつうんでアレンをつけて外に出した。」
「……たくさんの魔族を殺したんでしょ?それは王様として大丈夫だったの?」
「魔族ってのはな、実力社会なんだ。だから俺みたいなやつが柄にもなく王なんてやってる。……正直、俺じゃクロードには勝てないし止めることも出来ない。」
個人的な考えからももう自由にしてやりたいとも思ったしなと言って苦笑いする。
こんなに強そうなガレオでさえ勝てないなんてクロードはどれだけ強いんだろうか?
「怖いと思うか?」
「怖い…?」
「あいつにとって人間なんて簡単に殺せるし、実際必要になったら躊躇なんてしないだろう。特にあいつは気分屋だからな。」
クロードが私を殺そうと思ったらそれは簡単な事だと言いたいのだろうか。
でもそれは…
「怖くはないよ。クロードが私に牙を向ける事はないもの。」
「…自信があるんだな?」
「根幹は優しいもの、クロード。」
私の言葉に意外そうに目を丸くするガレオ。確かに自分でもクロードを優しいって思うなんてどうかとは思うけど。でも優しいんだと知ってるからそう言うしかない。
「…そうか、優しいか!わりぃ、試すようなこと聞いて。アンタみたいな子といたら毒気も抜かれるわな。」
ガレオはガハハという笑い声が似合うほど豪快に笑って言った。
私は今褒められてるんだよね?
「あいつがアンタを傷つける事はありえねぇって俺も思ってるよ。あんなに甲斐甲斐しいクロードは見た事ねぇからな。」
「甲斐甲斐しい…って。会った時からクロードはずっとお母さんみたいな感じだよ。」
「お、お母さん!あははははっ!お母さんなのか、ぶふっ!」
よほどツボに入ったのかガレオはずっと爆笑している。
いや、まぁお母さんってどうなのかとは思うけども。
「いやぁーー、すまんすまん。今までのクロードからは想像もつかなかったもんだから。……あー、話を戻すか。」
どこまで話したっけと首を傾げながら紅茶を飲むと話をもどした。
「そうそう。それでな、操られていたとはいえそれでもクロードを恨んでる魔族は多いんだ。下手に寿命も生命力も多いやつが多いからな。だから公にクロードを城にいれると一悶着おきかねん。」
クロードの強さをよくわかってねぇ奴らはホント好き勝手言うんだよなぁとガレオはガジガジと頭をかいた。
今でも正直ギリギリで許容されているだけらしい。
「だからまぁ、保護できるのはお前さんだけって事だ。わかってくれたか?」
「うん。」
こうなることを分かっていたのか、クロードは。だからあんなに不安そうにデートしようだなんて…
ホント何というか…憎めないな、なんて思うのはどうも毒されてきている気がしてならない。
「ん、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。それでその保護って話だけど断るとまずいのかな。」
「そうだな。選択肢は何個かあるが1番安全なのはここにいることだと思う。気乗りしないか?」
「正直、守ってもらってばかりで何も出来ないのが歯痒いなって。逃げてばかりでも何も解決しないし。」
この世界に来て流されるままにここまで来たけど自分では何も出来なくてただ護られるだけ。それが酷く心地よいと同時に不安になる。自分ひとりでは生きていけないと言うのはやはり怖い。
「利用できるものは何でも利用すればいいのに。里香は難儀な性格してるなぁ。」
「そうかぁ…なら…でもなぁ……」
ガレオは一人でうーんうーんと悩み、ひとつある提案をしてきた。なかなか大変だがいい案だと思う。だけど…
「結局クロードに迷惑かけちゃうなぁ。」
「いや、それは大丈夫だ。喜んで手伝うだろうよ。」
「なんで?」
「あいつ里香の事大好きだからな。」
「大好きって…大袈裟でしょ。私は友達だと思ってるけど、クロードからしたらお気に入りのおもちゃって感じじゃない?」
「それか可愛い我が子ってところか!」
そういうとガレオは確かにぴったりな表現だと笑った。
ガレオはまだ時間はあるからゆっくり決めるといいといってくれた。私の護衛だがクロードばかりだと大変なので夜はアレンさんがついてくれるそうだ。気にして無かったがアレンさんも魔族らしくそこそこ強いので心配いらないとのこと。
何も出来ないのにしてもらってばかりで申し訳ないと謝るとガキが気にするなと頭を撫でられた。
ガレオからしたら24歳なんてまだ子供みたいなものらしい。
ふと、そういえば私はこの人を倒すために召喚されたんだよなぁと思い出した。(結局私は聖女ではなかったけれど)
その相手と和やかにお茶をしているなんてなんだか不思議な感じだった。でも自分の選択が間違っていなかった事もわかってなんだかすこし安心した。
「さて、長々すまなかったな。」
「ううん、色々話せてよかった、ありがとう。」
「一応里香もリリーの所に行った方がいいだろう。案内をつけるから見てもらえ。」
「リリーさん?」
「あぁ、この城専属の医者だ、一回見てもらってこい。」
今呼んだから少し待ってろと言われ待っているとノックの音がして1人のメイドさんが入ってきた。
「お呼びでしょうか。」
「この子をリリーの所まで案内してやってくれ。」
「かしこまりました。」
私はガレオにそれじゃと頭を下げてメイドさんについて行く。が、出て行く直前ガレオに呼び止められた。
「里香。」
「なに?」
「ありがとな、クロードのそばにいてくれて。」
ただ、そばに居るだけなのにお礼を言われるとは思わなかった。何と返していいかわからずおもわず首を傾げる。
そんな私の様子に気にするなと笑顔で言うと手を振って見送られた。




