過去
(ここは‥?)
見覚えのある景色。大きな広間に上に据えられた玉座。
そこでふんぞり返る王様らしき人。しかし顔はぼやけていてわからない。
「なんなの。あんたら」
聞き覚えのある声がして振り向くと広間の真ん中に真っ黒な翼を広げめんどくさそうに立っているクロードが居た。
(クロード!)
思わず声を上げるがそれは音にはならず届かない。
「どういう事だ!勇者の召喚をする筈が何故魔族が!」
クロードを取り囲むように兵士達は剣を向けている。
同じように兵士が剣を向けている人がいた。その人はローブを深く被り顔は見えない。
「これでいいのです。魔族には魔族をぶつけた方が早い。」
「ふざけるな!魔族をどうやって従えるというのだ!」
「ぐあっ!」「ぎゃっ!」
その時クロードの周りにいた兵士たちが悲鳴を上げた。
クロードは羽を震わせ刃のように飛ばすと兵士達の首を一気に切り裂いたのだ。
「盛り上がってるとこ悪いけど誰が誰を従わせるって?」
(っ!)
王を見据えるクロードの目は恐ろしく冷めていて目線で人が殺せそうなほど鋭い。
(これがクロード…なの?)
いつものニコニコとしているクロードからはかけ離れていて同じ顔なのに同じ人には見えない。
自分が睨まれているわけではないのに思わず身震いした。
「意味のわかんないとこ勝手に連れてきてタダで済むと思ってんの?」
「っ!レスト!どうにかしろ!!」
レストと呼ばれたローブの男は右手を静かにクロードにかざす。するとそれだけでクロードは苦しみ出した。
「ぐっ‥」
両膝をついて心臓のあたりを握りしめ苦しむクロード。
思わず私は駆け寄るが過去のことなので触れる事はできない。
(クロード!)
「感情を封印しましょう。そうすればいうことを聞きます。」
「そ、そんな事ができるのか?なら早くやれ!」
「がぁっ!!」
クロードの苦しみようが激しくなる。しかしそんな中でもクロードはローブの男を必死に睨みつけていた。
「ふふ、流石です。まだ耐えますか。」
「てめぇ。何なんだ、一体‥」
クロードの問いに男はローブを取る。黒い髪に黒い瞳。その色が髪は銀色、瞳は赤へと姿を変えた。
「なんて事はありません。ただの落とされた元神です。」
「レ、レスト?貴様何を言って‥ぐぁっ!!」
レストと呼ばれた男は振り返りもしていないのに風の刃が王を切り裂いた。
「うるさいですよ。まったくいつも偉そうに命令してきてムカついていたんです。後は他の人に引き継いでもらいましょう。」
そう言って風の刃を飛ばすと広間にいたクロード以外の他の全ての人たちを殺してしまった。
「静かになりましたね。ん?そろそろ限界ですか。さぁ、いっぱい魔族を殺してくるといい。」
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…………………………………
場面は変わり新しい景色を映し出す。
今度は宙に浮いて少し遠くからその様子を眺めていた。
深い森の中、クロードが沢山の血に濡れている光景。周りにはたくさんの死体が転がっているがクロードは眉ひとつ挟めずただただ多くの死体を積み上げていく。
(こんなの…)
あまりにも悲惨な光景に思わず目を背けそうになる。
こんなに多くの死体を見たことが無いので気分が悪い。
周りを見ないようどうにか視点をクロードに固定して耐えた。
また場面が変わる。
クロードが何処かの町で暮らしている。相変わらず無表情で何を考えているかわからないし町の人たちもクロードへの嫌悪を隠そうともしない。
(あっ)
1人木の根本に座っているクロードの所に男の子がやってくる。子供の服はボロボロで痩せている。
子供はクロードに空を飛びたいとせがんでいた。
クロードは案外素直に頷くと子供を抱っこして空へと舞い上がった。
無邪気に喜ぶ子供をただ黙って見つめるクロード。
先ほどとはうって変わって平和な時間が流れていた。
そんな光景も次の光景でまた悲惨なものへと変わっていった。
ここはさっきの町。ただ違うのはあちこち壊れ悲惨な状態で、所々火もついている。町の人々もひどい怪我をし動けないもの、逃げ惑うもの。悲鳴がこだましていた。
少し広くなっている広場らしきところでクロードとガレオが戦っていた。
無言の応酬を繰り返す2人だが若干ガレオが押されているようで顔には苦痛が表れている。
「なんだって魔族殺しなんて繰り返す!」
大きな剣を振り下ろしガレオが叫ぶ。それに対してクロードは素早く回避するといつのまにか手に持っていた短剣を投げつけ距離を取る。
「魔族は殺せと言われてる。」
その声に感情は感じられずただ事実を述べているだけというように感じた。
「言われたからなんなんだ!自分の意思はねぇのか!」
「意思…?」
クロードの動きが止まる。なにか思う事があるのか。そこにガレオは畳みかけるように言葉を投げかける。
「自分の事は自分で決めろ!お前は誰かの言いなりでいいのか!!」
「俺は…」
クロードが苦痛に表情を歪める。それをガレオは困惑した表情を浮かべながらも油断せず距離を取り静かに見守っていた。
私は思わずクロードの元に駆け寄った。クロードは片膝をついて頭を抱え苦しんでいる。
(クロード)
過去の事だからどうすることも出来ずただ苦しむクロードを見守る。
(頑張って)
クロードがしてくれたように背中をさする動作をする。これで何か変わるわけでは無いけどそれでもそのくらいしか出来ないから。
時間にしては数分だった。クロードは静かに立ち上がる。その目にはさっきまで無かった光が戻っていた。
「あー。ありがと、おっさん。頭スッキリしたわ。」
「おっさんって!俺はまだそこまでおっさんじゃねぇ!お前なんだ、随分様子が違うな。」
「後で説明するよ。とりあえず行っていい?やる事あるんだわ。」
それじゃと言うとクロードは走り去った。それをガレオは呆気に取られながらも見送っていた。
場面が変わる様子はないので私は町の様子に目を向ける。
火は燃え広がりもっと悲惨なものとなっていた。逃げ惑う人々の中にはクロードと空を飛んでいた子供もいる。そこに大きな爆発音が聞こえてきた。
「城が!」
誰かのそんな声が聞こえた。目を向けると城が燃えていた。さっきまでなんとも無かった筈なのにいまでは轟々と音を立てて燃えている。
その中から出てきたのはクロードだった。
城を出てまっすぐ町へと飛んできて着地する。
「お前のせいで!さっさとどうにかしろよ!」
誰かが石を投げつける。クロードはそれを魔法で叩き落とした。
その様子に面食らった表情をする人々。
「いつまでも言いなりだと思ったら大間違いだよ。おとなしいからってよくもまぁ好き勝手してくれたよね。」
笑ってそう言うクロードにまずい状況を悟った町民は青ざめ、逃げ出した。
しかし、それを見逃すほど甘くはなくクロードは翼を大きくはためかせ、鋭い刃の羽を投げつける。
バタバタ人が倒れて行く中で小さいから当たらなかったのか、先程の子供が尻餅をついてクロードを見つめていた。その目は恐怖で染まっている。
クロードは一瞥するとすぐ目を背け炎を龍のようにうねらせ、町を一層焼いて回った。




