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紅き流星・その壱

 私の名はヴァニティ。帝国軍の将軍だ。

 予想通り,連合は翌日マイシャへの攻撃を始めた。

 前線にこそ出ないものの,アリシア軍には鬼気迫るものがあった。一刻も早くマイシャを落とし,可能ならば王城攻略戦へも参加したい,そんな思いがひしひしと伝わってくるような攻勢だった。城壁からの矢はほとんどが止められ,守備兵も魔法でばたばたと倒されていく。

 そのためもあって,作戦通りと言えばそれまでだが,攻城兵器は楽に橋のたもとまでたどり着こうとしていた。策がなければそのまま押し切られていただろう,とすら思えるほどの一方的な戦況。

 策の切り札を握っていたカールたちは,これ以上ないタイミングでそれを切った。押し込んだ連合の側面を狙える位置に両翼の伏兵が姿を現し,突撃を開始して半包囲状態を形成する。ルマールが派遣した飛行兵の部隊も満を持して上空から突入。そしてそれらと呼応し,正面も攻城兵器破壊の為の部隊が城門を開いて突撃を開始する。

 あまりにも鮮やかに,そして速やかに,攻城兵器の破壊は成った。だがそれと引き換えに,帝国軍は多大な損害を被った。

 状況から見れば,攻城兵器破壊に留まらず攻撃軍の壊滅すら狙える布陣,のはずだった。だから迅速な攻城兵器の破壊に気を良くしたレヤーネンが引き際を誤ったのもその分は差し引いて考えなければなるまい。しかしともかく帝国軍は各個撃破を食らってしまい,兵力の大部分を失ってしまう結果となってマイシャへ逃げ込んだ。

 一方の連合は,攻城兵器を失った事と損害がそれなりに出た事もあって完全にマイシャへの攻め手を失ったようだ。だが作戦上,王城側との連携のためもあってトルサまで後退するわけにもいかない。適当な距離まで退いてそこに陣を張り,牽制の構えに入った。

 我々はまた元の木立まで退いてカール,シェスター両隊の合流を待つ事にした。

 ほどなくカール達三人は合流してきた。

「あまり暇だったんで,ちっと手伝っちゃいましたよ」

 そう言って笑うカール。攻城兵器破壊部隊の先頭に立ってその露払いをしたのだという。

 チョーカーを起動しているため全く気取られることは無かったようだが,突然腕や足を切り飛ばされる連合兵が多発するのは,さぞかし両軍ともに得体の知れない薄気味悪さだっただろうと苦笑する。

 だが早期に攻城兵器の破壊が完了したからこそ,こちらが介入せずに済んだのは間違いない。その意味ではカールの判断は正しかったと言うべきだろう。

 シェスターは日が暮れた後に合流してきた。アリシア兵を連れてきたところをみると,父祖は乗り換えなかったらしい。

 伝令役を買って出たアリシア兵に,事実を事細かく伝達しくれぐれも無謀な真似をせぬよう説得して欲しい,と依頼する。ハッタリだと言い出すような奴がもし居たら,証拠を見せると言ってやれ,と付け加えてそれを見送った。伝令役自身も目の前に実際に起こってすら信じられなかった事は想像に難くないわけだから,そう言いだす輩が居ても不思議でも何でもない。

 同時に,マーガスをマイシャへの伝令にやる。アリシア王城側の勝利と,それを根拠に連合へ撤退勧告の使者を出したこと。それでも引かなければ大軍に見せかけた黒軍で威圧する,という作戦までも伝達する。

 我々が手を貸した事など,気が向かなければ本国に報告する必要など無い。そこまで言われたレヤーネンはまたひとしきり感動したようだ。カールと違って振り切れていないマーガスは,戻ってくるや否や嫌悪を隠そうともせずそう吐き捨てた。

「…まぁそう言うな。そのおかげで助かってもいるのだ」

 あまり介入し過ぎては不審がられる。レヤーネンの嘘などルマールは百も承知だが,公式見解として介入が無かったという事になればそれ以上の詮索もされにくい。

 そうそう城を空けるわけにも行かないのだと考えて,早速修羅場が来たことを思い出して苦笑する。

「…さて,これで打てる手は全て打ったな…」

 あとは,連合が王城奪還失敗を受けて撤退するかどうかを見定めるだけだ。

 夕食を摂り,夜が更けるのを待って行動を起こす。不在の間の指揮はカールに任せ,単身で連合の陣を目指す。

 連合の陣の近くにはそれなりの規模の森がある。そこまで馬を駆けさせ,木に繋いで徒歩で木立の中へと進む。

「…リリー,聞こえているか?」

 通信装置を起動する。

「感度良好だよ,ボス。女王様ともども,こっちの準備はオーケーさ」

「…そうか」

 苦笑する。おそらくユーリエは,成り行きを固唾を飲んで見守るのだろう。

 だが確かに,それだけの緊張感はある。伝説の龍戦士との初の接触。敵対する陣営の龍戦士との初の接触でもある。黒軍の仲間を集めていた時とは状況が違う。

「…では,始めるぞ」

 目をつぶり,反応を探る。

(…?)

 そこで,違和感。見つかったそれが,先日感じた時よりも強い。距離の違いだけでは説明できない,不自然な強さだ。

(…失った力を取り戻しつつある,という事か…?)

 何かきっかけがあったのか,それとも時とともに回復しつつあるのか。相変わらず自分が後れを取るとは思わない程度ではあるが,行く末を思って背筋に冷たい汗が流れる。

 だが,今すべきことは思い悩むことではない。そう頭を切り替える。

(…気づいているな…?私はここだ…)

 呼びかける。アリシアの書庫で仕入れた知識。龍戦士どうしは,相手の感覚に呼びかける事もできるらしい。

 そういえば昔,ハンもそれに近い事を言っていたな。そんな思い出がふっと蘇ってくる。だが今はそれに浸っている場合では無い。

(…私はここに居るぞ。どうしても直に話をしなければならない…)

 無論,それがそのまま伝わるわけではない。相手がこの感覚に慣れているかどうか,相手の素養によって,感じ方も程度も様々であるらしいのだ。それに,自分とハンの出会いがそうであったように”流星”がこの感覚をどう認識するかによっても変わってくる。

(…しまった…)

 ところがそこで,予想外の出来事が起こった。

 ”流星”がこちらへ向かって動き始めた事を感じ取った矢先,その側に寄り添うような小さな反応がある事に気づいたのだ。第五,第六世代の龍戦士とでも言えるようなその微弱な反応が,”流星”とともにこちらへ向かってくる。

「…誤算だ」

 目を開き,つぶやく。

「え?ど,どうしたの?ボス?」

「…招かざる客まで呼び寄せてしまったらしい…」

「ちょっと見てみるね…って,あー…」

 言うが早いか納得の嘆息を漏らすリリー。どうやらいち早くユーリエが水晶球を動かしたらしい。

「あれだよボス,例のあの女性ひとが一緒だよ」

「…なるほど」

 状況的にはあり得る話だ。おそらくは明らかに様子のおかしい”流星”が気になってついてきたのだろう。あるいは自身もこちらの呼びかけを感じ取ったかも知れないが,だとしても些細な違和感程度で,自分が率先したわけではあるまい。

「…ともかく,様子を見る。一度装置を…」

 そこでさらに気づく。また別の気配が近づいて来る。おそらくはこちらへと向かう二人を見とがめて,後をつけているのだろう。

 思わず舌打ちする。これでは余計に気を遣う必要がある。ますます成功の可能性は少なくなったとみて間違いない。

「…余計な奴もついてきたようだ。どうやら運任せになりそうだな」

 ひとつ溜息をついて,装置を起動する。

 やがて,松明の灯りを左右に揺らして周囲の様子を伺うようにしながら二人が姿を現した。

「…いろいろ,すまん…」

「う,うん…でも,こんなところから呼ばれていたの?」

「あぁ…かなり近い,はずなんだが…」

 近づいて来る。もう一人は適当な距離を置き,木陰に隠れるようにしてこちらの様子を伺っている。

 やむを得まい。この状況で”流星”だけを単独にすることはできなそうだ。かと言って日を改める余裕もあるまい。

 溜息を一つついて諦めをつけ,機能を切り替える。

「!」

 まったく予想のできない出現に二人とも愕然とする。

「…一人で来ると思ったが,まさか女連れとはな…」

 開口一番,思わず漏れてしまった恨み節まがいの言葉。内心苦笑する。

「う,嘘…まったく気配に気づかなかった…」

「はじめに言っておく。…危害を加えるつもりはない」

 気を取り直し,機先を制して言葉を投げかける。ハッとして,”流星”の前へ出て身構える女性。

「…信用できないわね」

「…斬るつもりなら…わざわざ姿を晒したりはしない」

「う…」

「…ん?」

 そこで,奇妙な感覚。先ほどは距離もあり反応が微弱だった事も相まって分からなかったが,こうして至近距離であらためて確かめてみると,初めて感じた気がしない。それどころか自分はこの感覚を良く知っている,ような気がする。

(…どういう事だ?)

 ちょっと考えてある可能性に気づく。それはじゅうぶんに驚くべき事だったが,もとよりそこでそれに浸っている場合では無い。

 何でもありが龍戦士とその周りに起こる事象の売りだ,と無理やり自分を納得させる。回を重ねるごとに段々拡大解釈されてきているような気もするが,ともかくそれを考えるのは今ではない。

 だがせめて情報だけでも集めておこう,そう考えてまじまじと女性を眺める。

「…な,何?」

「…いや。名を聞いておこう」

 そう言うと女性はムッとしたらしい。

「そちらが先に名乗るのが,筋ではないかしら?」

「…なるほど。確かにそうだな」

 我知らず微笑する。

「漆黒将軍…と言えば分かるか?」

 予想通りと言えば予想通りだが,その言葉が二人に与えた影響は実に大きなものだった。 

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