第6話「花火と、焼けた素肌と、消えたくない願い」
※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます
蝉時雨が遠のき、代わりに涼やかな風が風鈴の音を運んでくる夏の夕暮れ。
鳳凰学園のある街の小高い丘に位置する神社では、年に一度の夏祭りが開かれていた。
石段の下で待っていた時子の前に、色とりどりの浴衣に身を包んだ仲間たちが次々と集まってくる。
「ごめーん!待たせたか理子!」
「もー、火燐が帯苦しいとか言って暴れるから時間かかったんやんか!」
元気よく手を振って駆け寄ってきたのは、鮮やかな向日葵柄の浴衣を着た火燐と、落ち着いた紺色に朝顔が描かれた浴衣姿の理子だった。幼馴染である理子は、呆れたようにため息をつきながら時子の隣に並ぶ。
「時子、浴衣着崩れてへん?苦しゅうないか?」
「うん、大丈夫だよ。理子ちゃんが綺麗に着付けてくれたおかげだね。ありがとう」
「お、おう……ウチはただ、布の張力と構造を計算して一番崩れにくい結び方をしただけやし……」
照れ隠しにそっぽを向く理子の横で、火燐が「アタシはもうリンゴ飴食べたい!」と騒いでいる。
そこに、「お待たせしました」と涼やかな声が響いた。
「データによれば、この時間帯の混雑率はピークを迎えるはずですが……まだ歩ける余裕はありそうですね」
薄紫色のシックな浴衣にシャチのワンポイントがついた銀縁メガネを光らせる水琴と、その後ろからしっとりとした白地に金魚柄の浴衣を艶やかに着こなしたアイシャが歩いてくる。
髪を優雅にまとめたアイシャの姿は、すれ違う人々が思わず振り返るほどの美しさだった。
「みんな、とっても似合っているわよ。ふふ、今日は戦いのことは忘れて、思いっきり夏休みを満喫しましょうね」
アイシャが優しく微笑むと、五人の少女たちは提灯の明かりが連なる境内の参道へと足を踏み入れた。
境内は、香ばしい焼きそばや甘いベビーカステラの匂い、そして祭囃子の音で溢れかえっていた。
「よしっ、まずは射的だ!アタシの動体視力と反射神経を見せてやる!」
火燐が浴衣の袖を捲り上げて射的屋の前に陣取る。
「ふん、筋肉バカには無理やね。こういうのはな、コルク弾の弾道計算と空気抵抗、それに的の重心を的確に見抜く物理の計算が必須なんよ。ウチの精密な照準術を見せたるわ!」
理子も負けじと射的銃を構える。幼馴染の負けず嫌いな一面を見て、時子はクスリと笑った。
結果は、火燐が勢い余って的の土台ごと吹き飛ばして店のおじさんに苦笑いされ、理子は計算に夢中になりすぎて時間切れになるというドローに終わった。
その後も、水琴が「綿飴が作られる際のショ糖の熱溶解と冷却による繊維化プロセス」を熱弁しながら巨大な綿飴を頬張ったり、アイシャが「あら、これも美味しそうね」と次々と屋台の食べ物を買ってはみんなに振る舞ったりと、賑やかで平和な時間が流れていく。やがて、夜空にドン、と低い音が響いた。
「あ、花火が始まるわ」
アイシャの声に導かれ、五人は境内の裏手にある、街を一望できる静かな高台へと移動した。
夜空に次々と打ち上がる大輪の花。赤、青、緑、黄金色。
「ストロンチウム、銅、バリウム……見事な炎色反応のパレードですね。燃焼剤の配合比率も完璧です」
水琴がうっとりと空を見上げながら呟く。
「もー、水琴はロマンがないなぁ!すっごく綺麗じゃん!」
火燐が笑いながら水琴の肩を軽く叩き、理子も「まぁ、花火職人の火薬調合技術は素直に尊敬するわ」と目を輝かせている。
時子は、夜空を彩っては静かに消えていく光の粒を見つめていた。
どれほど美しく輝いても、一瞬で夜の闇に溶けて消えてしまう花火。それは少しだけ、自分たちに似ている気がした。
けれど、今隣を見れば、夜空の光に照らされて笑い合う大切な仲間たちがいる。
「時子ちゃん?」
ふいに、アイシャが優しく声をかけてきた。
「どうしたの?どこか苦しい?」
「ううん、違うんです」
時子は首を横に振り、みんなの顔をぐるりと見渡した。
「私、この夏祭りに来れて本当によかったなって。みんなと一緒に見る花火、すごく綺麗で……ずっと忘れたくないなって思って」
「……そうね。私も、絶対に忘れないわ」
アイシャがそっと時子の肩に手を置く。
理子も、火燐も、水琴も、時子に向かって温かい笑顔を向けていた。
ドーン、とひときわ大きな花火が上がり、五人の少女たちの夏休みの夜を明るく照らし出した。
お祭りに行ってから数日後。
突き抜けるような青空と、どこまでも続くエメラルドグリーンの海。容赦なく照りつける真夏の太陽の下、白砂のビーチに少女たちの楽しげな声が響き渡っていた。
「ひゃっほーっ!海だぁぁぁっ!」
誰よりも早く波打ち際へ駆け出していったのは、鮮やかなオレンジ色のスポーティなビキニに身を包んだ火燐だった。引き締まった腹筋と健康的な太ももが、夏の陽射しを弾いて水飛沫とともに眩しく光っている。
「ちょっ、火燐!いきなり走ったら危ないやんか!しかもウチの浮き輪勝手に持ってくなや!」
その後を、フリルがあしらわれた可愛らしいミントグリーンの水着を着た理子が、顔を真っ赤にして追いかける。普段の作業着姿からは想像もつかないほど女の子らしい装いだが、本人は落ち着かないらしく、しきりに胸元の布地や水着の食い込みを気にしていた。
「ふふっ、みんな元気ね。時子ちゃんも早くおいで?」
パラソルの下でパレオを優雅に解きながら、アイシャが微笑む。あらわになったのは、彼女の豊満な胸の谷間と、滑らかな腰のくびれを強調する漆黒の大人びたビキニだった。布面積の少ないその水着は、最年長らしい成熟した色気をこれでもかと放っている。
「ア、アイシャ先輩……っ!す、すごく……セクシーです……!」
時子は思わず両手で顔を覆い、指の隙間から目を白黒させた。
「あら、そう?時子ちゃんの白いフリルの水着も、純粋でとっても可愛いわよ。……でも、海に入る前にちゃんと日焼け止めを塗らないとダメよ?ほら、背中を向けて」
「えっ、あ、はい……」
シートの上にうつ伏せになった時子の背中に、冷たいクリームが落とされる。直後、アイシャの細くしなやかな指先が、時子の素肌の上をゆっくりと滑り始めた。
「ひゃっ……!あ、アイシャ先輩、そこは……」
「ふふ、力抜いて?肩甲骨の周りも、水着の紐の裏側も……しっかり塗っておかないとね。あら、時子ちゃん、意外と敏感なのね」
アイシャの手は時子の背中から腰、そして無防備な太ももの裏へと、熱を帯びたように生々しい感触を伴って這っていく。密着する手のひらの柔らかさに、時子は顔を真っ赤にしてシートに顔を押し付けることしかできなかった。
「……紫外線は皮膚細胞のDNAを破壊し、取り返しのつかない老化を招きます。完全な物理的防御が必要です」
その隣では、頭からラッシュガードを被り、完全防備をキメた水琴が、自分の太ももに機械的な手つきでクリームを塗り込んでいる。しかし、波打ち際で濡れて肌にぴったりと張り付いたラッシュガードの下からは、普段のダボついた白衣からは想像もつかないほど、豊満で柔らかな胸の膨らみがくっきりと透けて見えていた。
「水琴……あんた、浴衣着てた時に思っとったんやけど、改めて見ると普段は隠してるだけで意外とすんごいプロポーションしてるんやな……」
戻ってきた理子が目を丸くすると、水琴は「……脂肪組織の蓄積部位には個人差と遺伝的要因があるだけです」と、少しだけ耳まで赤くして顔を背けた。
「えっ、マジ!?どれどれ……うおっ、本当だ!すっげー柔らかい!!」
「ひゃんっ!?か、火燐さん!?ちょ、急に背後から何を……っ!」
興味津々で飛びついてきた火燐が、水琴の後ろから両手を回し、その豊満な膨らみを遠慮なくワシワシと揉み始めたのだ。
「なんだこれ、水風船みたい!アタシの大胸筋とは全然違う柔らかさじゃん!なぁ水琴、これどうやったらこんなに育つの!?どんなプロテイン飲んだらこうなるわけ!?」
「ああっ……!や、やめてください、力学的負荷をかけすぎると組織が……ふぁっ、そこはダメです……っ!」
「すっげー!揉んでも揉んでも形が戻るぞ! 永久機関じゃん!」
「こら火燐!セクハラおやじみたいなことすな! 水琴が泣きそうになっとるやろ!」
理子が慌てて火燐の頭にチョップを見舞い、ようやく解放された水琴は涙目で真っ赤になりながら、必死に胸を両腕で隠してうずくまってしまった。
ひとしきり騒いだ後の波打ち際での水遊びも、容赦のない掛け合いへと発展した。
「食らえ理子!必殺・水飛沫スプラッシュ!」
「きゃあっ!?ちょっと火燐、目に海水が……っ!塩分濃度と浸透圧の暴力やめや!」
バシャバシャと水を掛け合い、はしゃぐ少女たち。濡れた髪が首筋に張り付き、水着越しに柔らかな体のラインと透けた肌が露わになる。時子も火燐に引っ張られて海へ飛び込み、しょっぱい海水を飲み込みながらも、お腹が痛くなるほど笑い合った。
やがて太陽が水平線へと傾き、空と海が燃えるようなオレンジ色に染まり始める。
遊び疲れた五人は、波打ち際に並んで座り、冷たいラムネを飲みながら穏やかな波音を聞いていた。
夕陽に照らされた仲間たちの横顔。火燐の無邪気な笑顔、理子の優しい眼差し、水琴の穏やかな表情、そしてアイシャの温かい微笑み。そのすべてが、あまりにも美しく、そして……ひどく儚く見えた。
時子は、濡れた自分の足元を見た。寄せ引く波に洗われる自分の足先が、夕陽の光の中で、ほんの一瞬だけ「すっ」とノイズのように透けて見えた気がしたのだ。
(……私の中から、少しずつ何かが失われていくような……。私の存在が、世界から薄れていくような感じ……なんか嫌だな……)
嫌な感覚が頭をよぎって、ぞわっと背筋が冷たくなる。
時子は、隣に座る理子とアイシャの手を、確かめるようにぎゅっと両手で握りしめた。
「時子ちゃん?」
不思議そうに振り返る仲間たち。
その温かい体温と、しっかりと触れ合っている肌の感触にホッと息を吐き出すと、時子はさっきまでの漠然とした不安をごまかすように、とびきり明るい笑顔を作った。
「…こんな日が、ずっと続けばいいのにな」
波音に溶けていくような小さなその呟きは、不吉な予感を無理やり打ち消しようとする、ごく普通の女の子としてのささやかで切実な願いだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回は夏休み回となります。
キメラは出てきませんでしたね。
(*´∀`*)ヨカッタネー
一話から戦い続けていたのでリフレッシュしてくださいね。
ちょっとムフフなシーンが入ってしまいましたwww。
魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!
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次回、第7話もどうぞよろしくお願いいたします。




