↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/33

第五話「お姉様の秘密のお茶会」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます)

 街の外れ、静かな路地の奥にひっそりと佇むクラシカルな英国風の紅茶専門店。重厚なオーク材の扉を開けると、アンバー色の暖かな照明に包まれた静かな空間が広がっていた。


 壁際にはアンティークの食器棚や古書が整然と並び、澄んだ空気の中には茶葉の甘く香ばしい香りと、優雅な室内楽の弦の音色が満ちていた。


「わあ……!すごく素敵なお店……!どこを見てもおとぎ話に出てくるお屋敷みたい……!」


「ふふ、喜んでもらえてよかったわ。ここは私が昔から通っている、とっておきの隠れ家なの」


 最年長の風花アイシャ(かざばな あいしゃ)を筆頭に、時子、火燐、理子、そして前回の戦いで新たに仲間に加わった水琴の五人は、店奥の優美な猫脚の円卓を囲んでいた。


 アイシャは手際よく、繊細な磁器のティーカップへ順番に透き通った琥珀色のダージリンを注いでいく。


「さあ、召し上がれ。このお店手作りのクロテッドクリームとジャムを添えたスコーンも用意してもらったから、遠慮しないでたくさん食べてね」


「わぁ……!。クロテッドクリームと苺ジャムがこんなにたっぷり……!。いただきます!。……んん〜っ!!茶葉の香りがすごく高貴でスコーンも外はサクサク、中はしっとりしてて……!。お姉さまって感じがして、アイシャ先輩本当にかっこよくて憧れちゃいます……!」


「あら、お姉さまなんて照れちゃうわね」


 時子が頬を緩ませて瞳を輝かせると、アイシャは豊満な胸元に手を当て、優しく目を細めた。


「こうしてみんなで揃ってお出かけするのも初めてだし、今日は戦いの難しい話は一切忘れて、楽しくおしゃべりしましょう?将来の夢とか……好きな人のタイプとかね?」


「えっ、す、好きな人のタイプ!?い、いきなりハードル高ないですかアイシャ先輩……!?」


 理子が持っていたティーカップをカタカタと揺らし、顔を真っ赤にしてうろたえる。その隣で、火燐が大きめのスコーンを豪快に一口でパクリと口へ放り込みながら、ニシシと八重歯を覗かせた。


「アタシはさー、やっぱり一緒に汗流してスポーツできる熱いヤツがいいな!百メートル走で本気の勝負を挑んできてくれるような熱血タイプ!。朝練も一緒に走ってくれたら最高じゃん!。理子は絶対あれだろ、生徒会でいつも一緒に書類整理してる真面目で眼鏡かけたようなやつだろ〜?」


「ちょっと火燐!なんでそこで生徒会の書記のやつの名前が出てくるんよっ!変なこと言わんといて!」


「へへ〜ん、顔が真っ赤になってるぞ〜? 図星だな理子!」


「違うわアホ!照れとるんやなくて怒っとるんや!そもそもウチのタイプはな、ウチの機械いじりの趣味をバカにせんと『すごいな!』って一緒に面白がってくれる心の広いヤツなんよ!」


「へぇ〜?意外と乙女な条件出してきたなぁ〜?」


「うるさいわ!火燐こそ、運動バカすぎて男の気配ゼロやんか!」


 ギャーギャーと楽しそうに肘を突き合う幼馴染のふたりを見て、時子が「ふふっ、理子ちゃん可愛い」とクスリと笑う。すると、いつもはおとなしい水琴が、紅茶の湯気で少し曇ったメガネのフチをすっと指先で押し上げながら静かに参戦した。


「私は……化学構造式や量子力学の美しさについて、夜通し討論を交わせるような知的な方が理想的ですね。……あるいは、特撮ヒーローの初期設定資料集や、昭和アニメの絵コンテ集を一緒に黙々と解読してくれるようなパートナーであれば、なお望ましいです。あ、もちろん、部屋にフィギュアが百体以上あっても引かない寛容さも必須条件となります」


「水琴の条件、マニアックすぎて世界探しても数人しかいなさそうだろ……!」


 火燐のツッコミに、テーブルは弾けたような笑い声と甘酸っぱい女子会トークで大盛り上がりとなった。


「時子ちゃんは?どんな人が好きなの?」


 アイシャに優しく尋ねられ、時子はスコーンを咥えたまま一瞬フリーズした。


「えっ、私ですか……!?え、えっと……私は……優しくて、みんなで一緒にご飯を食べたときに『美味しいね』って笑い合えるような人がいいな……。あ、でも、理子ちゃんみたいに頼りになって手先が器用な人も素敵だし、火燐ちゃんみたいに真っ直ぐで力強い人も好きだし、水琴さんみたいに何でも知ってて教えてくれる人も好きです……!」


「それ、ただのみんなのことが大好きって話やんか!」


 理子が間髪入れずにツッコミを入れ、一同は再びどっとドタバタな笑いに包まれた。


「本当、時子ちゃんは素直で可愛らしいわね。じゃあ、将来の夢はどう?火燐ちゃんはやっぱり実業団とかアスリートかしら?」


「もちろん!アタシは将来、格闘技で日本一……いや、世界一になって金メダル獲るのが夢!で、理子にはアタシの機材とかのメンテナンスを全部任せるんだ!」


「勝手にウチを専属メカニックにするなや!まぁ……ウチも将来は自分の整備工場か、オーダーメイドの機械を作るショップを開くのが夢やけどな」


「私はですね……」水琴が紅茶を一口含んで微笑む。「将来は先端科学の研究者になって、特撮に出てくるような変身ベルトやエネルギー機関を本気で開発してみたいです」


「みんな、すごく素敵でかっこいい夢を持っているのね」


 アイシャはみんなのキラキラした目を愛おしそうに見つめた。


 談笑の途中、アイシャが「時子ちゃん、少し髪が乱れているわよ?よかったら結ってあげる」とスッと立ち上がり、時子の後ろに回った。


「わ、いいんですか……?お手数かけちゃってすみません……」


「ええ、任せて。これでも手芸やヘアアレンジは得意なのよ」


 アイシャの細くしなやかな指先が、時子の柔らかい髪を丁寧にすくい上げていく。甘いローズの香りを漂わせながら、手際よく美しい編み込みを作っていくその所作は、まさに誰もが惹かれる理想のお姉さんそのものだった。


「はい、できたわ。鏡を見てみて?」


 小さな手鏡を手渡された時子は、自分の後頭部を覗き込んでパッと表情を輝かせた。


「すごーい!編み込みがすごく綺麗で、お花みたい……!アイシャ先輩、ありがとうございます!。本当の魔法みたい……!」


「どういたしまして。とても似合っているわよ」


 無邪気に喜ぶ時子を愛おしそうに見つめた後、アイシャは微笑みを絶やさぬまま、どこか遠い過去を見つめるように静かに語り始めた。


「……私ね、もう一年近く魔法少女をやっているの。みんなより少しだけ先輩だから……何か困ったことや不安なことがあったら、いつでも頼ってね」


「えっ……一年も……!?」


「そんなに前からお一人で戦っていたんですか……!?」


 驚く一同に、アイシャは紅茶のカップをそっとソーサーに戻し、「ええ。私が初めて魔法少女になった日のこと……少しだけ話しておこうかしら」と静かに口を開いた。


(――だが、アイシャがみんなに語ったのは、あくまで表面上の事実と教訓だけだった。その裏に隠された、耐えがたく残酷な真実までは、誰にも明かしていない)


それは、一年前の出来事。


 当時、アイシャにはとても仲の良い友達がいた。だが、その友達はある日突然、行方不明になってしまったのだ。アイシャは一番の親友と一緒に、街中を必死に探しまわる日々を送っていた。


そんな中、唐突に悲劇は訪れる。


 友達の捜索中、突如として世界から色彩が消え去り、静寂が街を支配した。初めて遭遇する「反転現象」。周囲の風景がモノクロに凍りつき、すぐ隣にいた大切な親友の身体も、時が止まったようにピタリと動かなくなったのだ。


 その直後、空間がメリメリと不気味な音を立てて裂け、どす黒い歪みから現れたのが――漆黒の羽根と剥き出しの肋骨でできた不気味な巨大翼を持つ鳥型怪物【獣化名:スカイハープ】だった。


『ギギャァァァァァッ!!』


 空を切り裂いて舞い降りた怪物。その醜悪な嘴が開いた瞬間、アイシャは戦慄した。嘴の内部には、人間の唇が無数に蠢き、不気味に蠢動しながら並んでいたのだ。


 一斉に放たれる凄絶な超音波の衝撃波。

直撃を受けた建物のガラスが粉砕され、三半規管を直接破壊する悪夢のような音波にアイシャは動きが停止していく中、耳を押さえてうずくまった。


「嫌……やめて……!誰か……!!」


 倒れ伏すアイシャの前に現れたのは、一羽のインコの精霊だった。


『ワタシと契約して!君の強い意志があれば、風を味方にできる!』


 迷う暇はなかった。アイシャは眼前の惨劇を止めるべく、覚悟を決めてその手を伸ばした。


 伸ばした指に通された指輪が光ると空から一筋の羽が優雅に舞い降り、風でできた光の鳥がアイシャの周囲を疾風のように旋回する。刹那、一陣の清冽な風が吹き抜けた。


 解かれた美しいウェーブ髪が風にドラマチックにたなびき、優美で洗練されたハイレグ・ロングドレスが風のヴェールのように彼女の身を包み込んで纏い着いていく。


 足元から風の翼が鮮やかに展開し、重力から解き放たれるように宙へふわりと浮遊。最年長らしいエレガントな仕草で空を切ると、集まった風の粒子が彼女の身長ほどもあるしなやかな大弓【エアロ・ボウ】へと手元で結実した。


 指先で弦を引き絞ると、眩い光の矢が自動形成される。


 涼やかな瞳でターゲットを見すえ、アイシャは静かに囁いた。


「一筋の風となって、射抜きます」


『魔法少女ゲイル・バード』誕生!!


 だが、変身を果たしたものの、アイシャは激しい攻撃を躊躇してしまった。止まった世界の中に、大好きな街や、時間が止まって動けない親友が取り残されているからだ。


「ダメよ……こんなところで戦ったら、街や……あの子まで巻き込まれて壊れちゃう……!」


 戸惑い、動けないアイシャに対しインコのぬいぐるみは飄々とした声で囁いた。


『大丈夫だよ!この反転現象の世界では、魔法少女の攻撃が物質に当たって壊れたとしても、君たちの世界にある物質は高威力な攻撃でもない限り壊れないんだから!安心して全力を出しなよ!』


 その言葉に、アイシャは胸を撫でおろした。「物は壊れない」――そう信じ切ったアイシャは、弓を引き絞る。


「風よ……音を押し返しなさい!!」


 大気を操ることで音波の振動を完全に相殺。空中に足場を作り出し、怪物を逃がさぬよう照準を合わせた。


必殺!ホーミングアローッ!!!


放たれた数条の光矢が空を切る。

だが、射撃の瞬間、あろうことか怪物が低空へ急降下した。その射線の先――直線上にいたのは、時間が止まり、微動だにできず立っていたあの親友だった。


「あっ……しまっ――!」


 息を飲んだアイシャ。しかし、「物質は壊れない」という言葉が頭をよぎり、そのまま矢が当たってしまっても元の世界では何も起きないはずだと自分に言い聞かせた。


ドガァァァァンッ!!


激しい衝撃波が駆け抜ける。


 次の瞬間、アイシャの目の前で起きたのは、矢の直撃を受けた怪物と親友の身体が、まるでガラス細工のように脆く崩れ去り、そのまま光の塵となって消滅する光景だった。


 反転現象から戻るも目の前にある光景は到底信じることが出来ない景色だった。


「……え……?」


思考が真っ白になる……。

そこにあったのは、行方不明だった友達の名札と親友のカバン。そしてバラバラに砕け散った親友だったモノが無惨に転がっていた。


「どうして……?どういうこと……!?壊れないって言ったじゃない!!」


 アイシャは血の気が引いた顔で、頭上に浮遊するぬいぐるみに必死で問い詰めた。


「どうしてあの子が消えちゃったの!?壊れないんじゃないの!?私……私、親友を……自分の手で殺しちゃったの……!?」


 だが、ぬいぐるみは澄まし顔で羽を羽ばたかせ、恐ろしいほど冷淡に言い放った。


『壊れないのは“無機質”だけだよ。魂のある器……生きている人間は、停止した世界の中でも壊れたら普通に破壊されるさ』


「なっ……!どうしてそれを最初に言わなかったのよッ!?」


 取り乱し、激昂するアイシャ。ぬいぐるみは彼女の憤りを嘲笑うように一蹴した。


『聞かれなかったからね〜。ワタシは“物質は壊れない”と言ったでしょ?人間を物質扱いする方がどうかしてるよ。勘違いして攻撃を放ったのは君だ。ワタシが責められる謂れはないねっ』


 身勝手すぎる理屈。突きつけられた絶望と、自分の愚かさ、そして取り返しのつかない罪の重さ。


 アイシャはその場に崩れ落ち、声もなく只々涙を流した。


『ワタシの名前はイン子』

『魔法少女の事、これからよろしくネ』

『ア・イ・シ・ャッ♥』


 自分が大切な親友を殺してしまったという恐ろしい事実。この残酷すぎる事実と痛みを誰にも打ち明けることなく、彼女はただ一人で心の一番深い場所に押し込めることを固く誓ったのだ。


 回想から戻り、手元にある紅茶をゆっくりと飲み干すと、アイシャはまっすぐな眼差しで四人の目を見つめた。


「……だからね、みんなに一つだけ、とても大切なことを伝えておきたいの」


「反転現象が起きている時、建物や車みたいな『無機物』は私たちの攻撃を受けても現実世界の物は強い攻撃でもない限り絶対に壊れないわ。……けれど、『人間』は違うの」


言葉を区切り、アイシャは静かに重ねる。


「時が止まっていても、人間は攻撃を受ければ傷つき……命を落とすわ。だから、戦う時は絶対に周りを確認すること。そして、もし近くに人がいるなら……必ず人がいない安全な場所まで怪物を誘い出してから、戦うようにしてほしいの」


先輩としての真剣で重みのある忠告。

その言葉の裏にどれほどの犠牲と痛みがあったのかを知る由もない時子たちは、「はい……!」と真摯に頷いた。


「よしっ、少し真面目な話になっちゃったわね!さあ仕切り直し!スコーンが冷めちゃう前に、みんなでいただきましょう?」


 アイシャのお茶目な仕切りで、テーブルには再び明るい笑顔が戻った。


「あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるわね」


アイシャは席を立ち、店の奥にある化粧室へと向かった。

パタン、と扉を閉め、一人になった空間。

鏡の前に立ったアイシャは、ふぅと深く長い溜め息をついた。ゆっくりと顔を上げ、鏡に映る自分の顔を見つめる。


 その目元――そこには、見慣れない薄いシワがうっすらと刻まれていた。


 アイシャは無言のままポーチからファンデーションを取り出すと、慣れた手つきで丁寧にそれを塗り潰していく。


 鏡の中の「完璧で美しい生徒会長」を作り直すと、彼女は小さく口角を上げ、静かにドアノブに手をかけた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ナイスバディ高校生、アイシャの魔法少女デビュー回の回想です。

前半は素敵なお茶会でしたが、最後は重い話となってしまいました。

それにしてもイン子…性格悪いですね〜。

(# ゜Д゜)ム・カ・ツ・クーッ!!

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


【読者のみなさまへのお願い】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

感想やレビューもお気軽に残していただけると嬉しいです!

次回、第六話もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。