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『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


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第4話「オタク部屋突撃!水琴の隠れ家」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます

「い、いらっしゃいませ……!汚い部屋ですが、どうぞ上がってください……!」


 高級マンションの一室。佐藤水琴(さとう みこと)が緊張でガチガチになりながら玄関の扉を開けた瞬間、訪れた時子、理子、火燐の三人は「おお……!」と一斉に感嘆の声を漏らした。


「すごい……!お部屋、とっても綺麗で広いね、水琴さん!」


「ほんまやな、ウチの技術部室より遥かに整理整頓されてて羨ましいわ〜」


「へへ、お邪魔しまーす!って……うおっ!なんじゃコレぇぇ!?」


 リビングへと足を踏み入れた火燐が、壁際の一角を見上げて驚愕の声を上げた。


 部屋の壁一面を埋め尽くす本棚には、有機化学や量子力学、流体力学といった難解な専門書や論文集がずらりと並んでいる……かと思いきや、そのすぐ隣に設置された巨大なライトアップ機能付きガラスケースには、圧巻の光景が広がっていた。


『特装ヒーロー・ガルド』や『魔法少女☆マジカルレナ』といったレトロな特撮・アニメの超合金ロボ、精密なフィギュア、絵コンテ集、さらには限定生産の設定資料集がギッシリと整然に飾られていたのだ。


「すっげぇ……!水琴、お前こんなにフィギュア持ってたのかよ!部屋にこんなカッコいいディスプレイがあるなんて最高じゃん! このロボットなんて、ゴツくてパーツの密度感が超ヤバい!」


 火燐が目を輝かせながら、ケースの中央に飾られた重厚なロボットフィギュアを指差した。


 その瞬間――

普段はおとなしく控えめな水琴の雰囲気が、劇的にガラリと切り替わった。メガネのフレームをシャキンと指先で押し上げると、その奥の瞳がカチッと怪しく熱い光を帯びる。


「あ、それ……!千九百九十年代後半に放映された名作ロボットアニメ『超鋼神ガルドバスター』の放送当時品・完全変形合金フィギュアです……!よくぞそこに注目してくれました、火燐さん……!」


「うおっ……!?み、水琴……?なんか急に声のトーンと口数が……」


 急激に詰め寄ってきた水琴の迫力に、火燐が思わず後ずさりする。しかし、水琴のマシンガントークは止まらない。


「実はこのガルドバスター、胸部の『グラビトン核』の出力設定がアニメ前半と後半で大きく変更されておりまして……!前半は主人公の未熟さゆえに出力制限のリミッターがかかっていたのですが、不朽の名作と名高い第二十四話『散りゆく絆、叫べ鋼の心!』において、主人公の魂の叫びとともにリミッターが解除され!その際の可変シリンダーの駆動音と、内部ギアが噛み合う排気サウンドの演出がですね……!」


「え、あ、うん……なんかすごそうなのは分かった……!」


「水琴さん、すごい……!私、そのお話すごく興味あります!その『可変シリンダー』って、どういう仕組みで変形して動くんですか……!?」


 引き気味の火燐をよそに、時子がポンと両手を叩き、目をキラキラと輝かせて身を乗り出した。


「よくぞ聞いてくれました時子さん……!実はですね、この腕部のパーツ展開ギミックには当時の最新金型技術が使用されておりまして、こちらの差し替えなしの三段変形機構が――!」


「ええっ、差し替えなしで!?すごい、手先がとっても器用な人が設計したんですね!」


「そうなんです!開発担当者のインタビューによりますと――」


 熱弁を振るう水琴と、それに「へぇぁ〜!」「カッコいいです!」と真剣に目を輝かせて耳を傾ける時子。理子は「あはは、時子も水琴もえらい盛り上がりようやな」とお腹を抱えて笑い、火燐は「お前ら凄すぎだろ……」にあ然として佇んでいた。カオスで微笑ましいドタバタな時間が、賑やかに流れていく。


「ふぅ……すみません、ちょっと熱が入って語りすぎてしまいました。みなさん、お茶を淹れ直してきますね」


 ひとしきりフィギュアの解説を終えた水琴は、少し顔を赤らめながらキッチンへと向かい、香ばしい紅茶のカップを人数分運んできてくれた。


「いや〜、水琴の意外な一面が見れて楽しかったわ!学校でのテスト勉強も分かりやすく教えてくれて、自分の趣味も全力で楽しんでて……水琴って本当にすごいよな!」


 一口紅茶をすすり、火燐がふぅと息をつきながら感心したように言う。


「ふふ、ありがとうございます。みなさんがお家に来てくれて、とっても楽しかったです!」


 褒められて少し照れくさそうにメガネのフチを持ち上げた水琴だったが――ふと、首をかしげてポツリと呟いた。


「あれ……?そういえば私……昨日、みんなと何食べたんでしたっけ……?」


「ん? 昨日?帰りの途中みんなで駅前のファミレス寄って『ジャンボハンバーグセット』食ったじゃん!水琴、和風おろしハンバーグにしてただろ?」


「あ……そう……でしたっけ……?えへへ、すみません。昨日は遅くまで『マジカルレナ』の原画集を読んで徹夜しちゃったので……頭がぼーっとしてるかもです……」


「もう、水琴さんったら!徹夜は体に毒ですよ〜?」


 時子が柔らかく微笑み、理子も「しっかり休まなあかんで〜」と笑い飛ばす。

だが、水琴自身は胸の奥底で、冷たい針で刺されたような小さな違和感を覚えていた。


 徹夜のせい――そう自分に言い聞かせたものの、昨日みんなとテーブルを囲んで過ごしたはずの楽しかった夕食の光景だけが、まるで綺麗に消しゴムで削り落とされたかのように、思い出せなかったのだ。


――カチリ。


 冷酷な秒針の音が部屋中に響き渡り、再び世界から色彩が奪われる。

水琴の部屋の豪華なインテリアも、窓の外に見える街並みも、すべてが灰色に染まり凍りついた。


「また止まった……!みんな、行くぞ!」

「うん!」


 時子、理子、火燐の三人は即座に変身。

校庭や街を荒らす「異常」を探して飛び出した。


 辿り着いたのは、市内にある市民プール。プールサイドの水面が濁ったドロドロの深緑色に変質し、周囲のコンクリートや観覧席がシュウシュウと嫌な音を立てて激しく溶け落ちていた。


「なにこれ……全部溶けてる……!?」


『気をつけなさい!強烈な酸の気配です!』


 火燐の肩に乗ったコン吉が警戒の声を上げる。

 プールの中心から、バシャァン!と波を割って巨大な怪物が姿を現した。


 巨躯を揺らすのは【シャチ・キメラ(獣化名:アシッドオルカ)】。

 巨大なシャチの頭部から、人間の胴体が下半身として不気味にぶら下がっている歪な異形。背中の吹き出し口からは、接触する建造物を一瞬で腐食解体する強酸の体液が大量に噴出していた。


 さらに上空からは、刃のような翼を持つ大量のガーゴイル・ウイングの群れが飛来し、不気味な甲声を上げて旋回を始める!


「ギシャァァァァッ!!」


 アシッドオルカが背中から緑色の酸の津波を放ち、上空からはガーゴイルの群れが一斉に急降下!

挟み撃ちの猛攻に、時子、理子、火燐は息を呑む。


「くっ……この酸の量も、空からの攻撃も受け止めきれない……!」


「ウチの磁力バリアでも、上と前からのダブル攻撃は削り取られてまうわ……っ!」


 その時――頭上から爽やかで強烈な旋風が吹き抜けた。


「ふふっ、可愛い妹たちがピンチみたいね?」


「え……!?」


 見上げれば、一羽の風の光鳥を従え、空中を優雅に漂う美女の姿。

解かれたウェーブ髪を風になびかせ、エレガントなハイレグ・ロングドレスを纏った彼女は、その手にある身長ほどもある大弓の弦を軽やかに引き絞った。


 放たれた数多の矢が、風を纏って空を切る! 迫り来る強酸の波を拭い去ると同時に、空中で不気味に飛び交うガーゴイル・ウイングの群れへ次々と突き刺さり、見事に足止めしてみせた!


「空のガーゴイルたちは私が引き受けるわ! あなたたちは下の怪物に集中しなさい!」


「きゃああっ!す、すごい風……!」


 空中からふわりと降り立った彼女は、着地の衝撃と風の余波を受け、ドレスの胸元に収まりきらない圧倒的な豊満さをゆったりと大きく揺らした。


「だ、誰だあの"たわわ"なお姉さん……!? って……」


 目の前で揺れた規格外の"たわわ"と圧倒的なオーラに、火燐は思わず口ぐせのように叫び、あんぐりと口を開けて呆然と立ち尽くす。


 その隣で、風にたなびく美しいウェーブ髪の下から露わになった整った横顔を凝視していた理子は、はっと息を呑み、目を見開いて叫んだ。


「あ、あの人、生徒会長の風花アイシャ先輩……!?」


 風花アイシャ(かざばな あいしゃ)は、豊満な"たわわ"を揺らしながらウインクしてみせた。


「あらあら〜、お姉さんに甘えたいのかな? 年上の私が、みんなを守ってあげるのは当然でしょ?」


「生徒会長……!?魔法少女だったんですか……!?」


「詳しい自己紹介は、この生臭いバケモノたちを片付けてからにしましょうか。……あの子も、来たみたいだしね?」


 アイシャが目線をやったプールサイドの影から、もう一人――膝をガクガクと震わせながら歩み寄ってくる少女の姿があった。


「み、水琴……!?」


 水琴の足元には、三頭身の不貞腐れたシャチのぬいぐるみがプカプカと浮いていた。

『ボクの言う通りにしてって言ったでしょ! もう停止阻害する魔力も無いよ!』

『さあ水琴、契約してボクに魔力を頂戴!』


「こ、これってアニメで見た『覚醒イベント』ですか……!?私、私が……魔法少女に……!?」


 恐怖で震えつつも、大好きな魔法少女の世界に足を踏み入れられる大興奮で、水琴の瞳が輝く。


「オルタさん!やります!私、契約します……!」


 水琴が叫ぶと同時に、オルタと呼ばれたぬいぐるみが眼鏡に触れると周囲に無数の透明な水球が浮遊。水球の中に緑色の蛍光化学式が映し出され、一斉に弾けた!水膜が全身を覆うように滑らかなロングケープとナース・白衣モチーフのドレスを形成。メガネのフレームが青く発光し、レンズ越しにデータやターゲットの数値が高速スクロールする。


 手元に危険な強酸液が満ちた巨大フラスコ型大砲【アシッド・キャノン】が生成され、泡を立てて怪しく輝いた。


『魔法少女アクア・オルカ』誕生!!


「みんな、下がってください……!空のガーゴイルもろとも、まとめて処理します」


 メガネのフチを指で押し上げ、水琴は静かに、けれどゾッとするほど冷徹な光を瞳に宿して呟いた。

メガネのレンズ奥で、複雑な計算式が恐ろしい速度で駆け巡る。


「空間容積……風向……流体速度、およびターゲット全機の位置情報……完全に把握しました……!」


 普段のおとなしさは消え去り、覚醒したオタク特有の超絶的な観察力と科学知識が暴走する!


「強酸に対してただの水をぶつけても希釈熱で二次被害が出るだけ……!ならば、この空間の空気を丸ごと飽和させ、水素イオン濃度指数(pH)0.1以下の超強酸気体へと相変移させます……!!」


 あまりの危険すぎる発言と専門用語の連発に、火燐が「な、なに言ってんだアイツ……!?巻き込まれたらアタシたちまで溶けるぞ!?」と顔を引きつらせる。


 アイシャも驚いて瞬時に風のバリアで時子たちを包み込んだ。


 水琴は巨大なフラスコ型大砲の先端を天へと掲げ、レバーを限界突破まで一気に押し込んだ!


「逃げ場はありません……。喰らいなさい!!必殺ッ!」

アッシドレインッッ!!!!


ドガァァァァァァァンッッ!!!!


 フラスコ大砲から解き放たれたのは、空を覆い尽くすほどの莫大なネオングリーンの超強酸濃霧と、空間全体を叩きつける殺戮の溶解雨!


 雨はプールサイド全域――さらにはアイシャが旋風で足止めしていた空中のガーゴイル・ウイングの群れまでを完璧に飲み込んだ!


「ギ……ギャァァァァァァッ!?」

「ギシャアアアアアッ!?!?!?」


 アシッドオルカも、上空で旋風に捕らわれていたガーゴイル・ウイングたちも、逃げる隙すら与えられない。


 触れた瞬間からコンクリートも、強固な怪物の甲殻も、羽も、肉体も、シュウシュウと凄まじい煙を立てて、まるで熱湯に落とした角砂糖のようにドロドロと緑色の液体へ溶けて崩壊していく!


「嘘だろ……空間ごと溶かしてやがる……!」


 火燐があ然と呟き、理子も「あいつ……本気で敵に回したら一番怖いやつや……っ」とガクガクと震えながら冷や汗を拭った。


 数秒後。

雨が止んだ市民プールには、怪物のカケラすら残っていない。プール全体と周囲の観覧席までが綺麗に溶解・削り取られ、平坦な更地と化していた。

その跡地のプール底にぽつんと溶け残っていたのは、一枚の「水泳大会の金メダル」だけだった。


「ふふ、頼もしい……けれど、ちょっと激しい妹が増えたわね」


 風花アイシャがバリアを解き、苦笑いを浮かべながら降り立つと、優しくみんなを見渡した。


「みんな、怪我はないかしら?お姉さん、ヒヤヒヤしちゃったわ」


「助けてくれてありがとうございます!あの……どなたなんですか……?」


 時子が不思議そうに尋ねると、火燐が引きつった顔のまま「時子は転校してきたばかりだから知らないのかぁ。この人は学園の生徒会長、風花アイシャ先輩だよ!」と教える。


 アイシャは微笑みながら優しく頷いた。


「私のことや、これからのこと……詳しい話は、次回ゆっくり話させてね♥」


 そう言うと、アイシャのパートナーであるインコのぬいぐるみが「すごーい!大集合じゃん!」と賑やかに声を上げた。


 変身を解除し、元の姿に戻った水琴。


「や、やりました……!私、本当に魔法少女になれちゃいました……!」


 無邪気に喜ぶ水琴。しかし、彼女がふと自分の手に持っていた眼鏡拭きを見た瞬間――


「あれ……?私……この眼鏡、誰からもらったんだっけ……?」


 幼少期に大好きだった祖父からもらった大切な思い出の品。その「祖父の顔」と「思い出の記憶」が、水琴の頭の中から、静かに、けれど確実に削り落とされていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ちょっと激しい?オタクメガネっ娘中学生、水琴の魔法少女デビュー回です。

本棚に沢山の参考書とフィギュアの山…

私には夢みたいな環境ですねwww。

そして"たわわ"お姉さんの登場ですね…憧れます♥

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


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次回、第5話もどうぞよろしくお願いいたします。

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