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『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


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第3話「中間テスト前!赤点回避大作戦」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます

「なんだよこの呪文みたいな数字の羅列はぁぁっ!?意味わかんねぇよっ!!」


 放課後の図書室。本来なら温かい陽射しが差し込み、静寂と紙の香りが満ちているはずの空間に、美輪火燐(みわ かりん)の頭を抱えた悲鳴が響き渡った。


「火、火燐さん、落ち着いてください……!ここは図書室ですし、あまり大声を出すと司書さんに怒られてしまいます……!」


 メガネのフレームを小さく持ち上げながら、おどおどと、けれど必死に火燐を宥めるのは、同級生の佐藤水琴(さとう みこと)だ。


 普段はアニメの原画集やSF小説の設定資料集を黙々と読んでいる大人しい彼女だが、今日は赤点寸前の火燐のために、貴重な放課後を削って勉強を教えてくれていた。


「だってさぁ、水琴!この『二次関数』って奴、アタシに何の恨みがあるんだよ!体育で百メートル走を十本走るより頭がカーッと熱くなって破裂しそうなんだけど!?」


「え、ええと……数学の数式は、ある種の言語やシステムのようなものです……。たとえばアニメで例えるなら、この『y = ax^2』の『a』は魔法の威力を決めるステータス補正値のようなもので……グラフの描く綺麗な放物線は、キャラが放つ必殺技の軌道を描くようなイメージです……!補正値の変化と軌道の関係性さえ分かれば、決して倒せない敵ではありません……!」


「ま、魔法の補正値……?必殺技の軌道……!?な、なんかよく分かんねぇけど……急にめちゃくちゃカッコよく思えてきたぞ……っ!」


 水琴の例えが刺さったのか、火燐の瞳がキラリと輝いた。その隣で、静かにノートをとっていた時子がふふっと微笑む。


「火燐ちゃん、すごい!水琴さんの説明、例えがとっても分かりやすいよね。ほら、この公式に問題を当てはめてみると、aがプラスだからグラフは上に開いて……」


「時子ぉ〜!お前は天使かよぅ……!考えるより先に体が動いちまうアタシでも理解できる気がしてきた!解く! アタシ、時子と水琴の優しさに応えるために、この問三を力ずくでブッ潰して見せるよ!」


 火燐はガバッと起き上がると、両頬をパンッ!と叩き、シャーペンを握り直した。


「よしっ、まずはこの補正値を代入して……あ、あれ? マイナスがついたら軌道が逆さまになるのか……?ぐぬぬ、手強い……だが負けねぇぞ……!」


 鼻息を荒くしながらノートにゴリゴリと文字を走らせる火燐。そんな彼女の熱血な姿を微笑ましく見守っていた水琴だったが、ある異変に気がついた。


「あれ……?火燐さん……その指先、どうしたんですか……?」


水琴の視線が、火燐の右手にピタリと留まった。シャーペンを強く握りしめる親指と人差し指の皮膚に、身に覚えのない赤黒い斑点が浮かび上がっている。何かに直接触れて激しく焼けたような、痛々しい焼け痕だった。


「ん?……ああ、これ?」


 火燐は指先をまじまじと見つめると、豪快に鼻で笑い飛ばした。


「あはは!部活でグランドを走っている時に転んで、摩擦でちょっと擦りむいただけだって!なーに、こんなかすり傷、アタシの気合いと根性で一晩寝れば吹き飛ぶさ!」


「でも……単なる擦り傷というより、皮膚組織が熱変性している熱傷の初期症状に見えます……。本当に痛くないんですか……?触ると激痛が走るはずですが……」


 水琴の指摘に、時子も思わず火燐の指を見た。赤黒い痕は、消える気配がなく、微かに熱を持っているように見えた。


「へっきへき!アタシを誰だと思ってんだよ、鳳凰学園少林寺部のアスリートだぞ! 痛みなんて気合でシャットアウトよ!。さ、勉強勉強!次は問四だっ!」


 明るくガハハと笑う火燐。しかし、彼女の指先に浮かぶ赤黒い痕は、皮膚の内側で消えない火種がジリジリと肉を焼いているかのように、微かに異常な熱を帯びていた。


――カチリ。


 冷酷な秒針の音が、図書室の空間を震わせた。


「……ッ!?」


 瞬時に世界の色彩が失われていく。


 窓から差し込んでいた夕日は鉛色の闇に呑まれ、静かにページをめくっていた他の生徒たちも、隣で解説を書いていた水琴も、シャーペンを構えた火燐も、全員が石像のように凍りついた。


「また……来た……!」


 時子は即座に懐中時計を取り出し、光とともに魔法少女へと変身。モノクロの校庭へと駆け出した。


 しかし、そこに待ち受けていたのは、今までにない規模の異常だった。


「キシャシャシャシャシャッ!!」


 地面を埋め尽くすのは、膝丈ほどの小さなネズミ型怪物【スウォーム・ラット】。廃棄物とネズミが融合した異形が、数百匹という群れを成し、黒い波となって校庭を覆い尽くしていた。


「数が……多すぎる……!?一人じゃとても……っ!」


 時子がクロノ・ハンマーを構えたその時――


「時子ッ!遅くなってもうたっ!!」


 校舎の屋上から力強い叫び声が響き、理子が土と金色の砂金を巻き上げて宙を舞う。両腕・両脚にアースカラーの重装甲を纏い、マグネ・ガントレットをバチィンッ!と叩き合わせながら、時子の隣へ着地した。


「理子ちゃん……!来てくれたの!?」


「当たり前や!異界の反応感じて急いで駆けつけたで!ウチの磁力で一気に吹き飛ばしたるわっ!」


 理子が重装甲の拳を大地へ叩きつけ、周囲に反発磁場を展開する。ブワッと数百匹のスウォーム・ラットが宙に舞い、粉砕されていく。


 しかし、倒しても倒しても、地中から次々と群れが溢れ出す。時子が大鎚を振るうたびに、確実に魔力を削られていくのがわかった。


「くっ……キリがないよ!これ、私たちの力を削るための……!」


「上からも来るで、時子ッ!」


 急降下するコウモリ型怪物【ガーゴイル・ウイング】の刃翼が、無防備な時子の背後を狙う。理子が磁場で弾き返した瞬間――


シュバッ。


 音もなく空間を切り裂いて飛来した「光の矢」が、ガーゴイル・ウイングの眉間を的確に貫いた。


「ギ……ッ!」


 怪物は黒い灰となり、空中で霧散する。


 時子と理子がハッと振り向く。


 校舎の屋上に、一瞬だけ黒い影が揺れた。風に髪をなびかせたその影は、こちらを見ていたような気がした直後、影の中に溶け込むように姿を消した。


(今の……誰?)


 だが、安堵する隙などない。


 校庭中央の空間が大きく歪み、家一軒分ほどもある巨大な硬質甲殻を持った亀と鉄塊の怪物【シェル・シェルター】が重低音とともに降臨した。


「ブモォォォォオオオン!!」


 そして、その巨大な盾の背後から、禍々しい圧迫感を放ちながら現れたのが【キツネ・キメラ(ブラストフォックス)】だった。


 しなやかなキツネの身体。体表には破裂しかけた黒い火炎嚢が不気味に腫れ上がり、九本の尾の先端には人間の生首のようなモノが浮かび上がって、不協和音の笑い声を上げている。


「あの尻尾……まさか、学校でイジメに遭って絶望した子の怨念……!?」


「チッ……胸糞悪いバケモノやな!時子、合わせるで!」


 理子が巨大な鉄塊を磁力で引き寄せて叩きつけ、時子がクロノ・ハンマーを振るう。しかし、シェル・シェルターが立ちふさがり、すべての攻撃を弾き返す。


「ヒハハッ!弾けろぉぉぉっ!!」


 ブラストフォックスの体表の腫瘍が爆裂し、全方位に高熱の爆風が解き放たれた。


「きゃああああっ!!」


「ぐあああっ!?」


 衝撃に弾き飛ばされ、地面を転がる二人。重装甲の理子すら膝をつき、変身が解けかけるほどのダメージを負う。


 スウォーム・ラットが再び二人を取り囲み、シェル・シェルターが盾を構えて前に出る。ブラストフォックスの火炎嚢が、さらに大きく膨れ上がっていく。


「ハハハ!壊れろ、消えろ、みんな吹き飛べぇぇぇっ!!」


 その頃、図書室。

時間が止まり、石のように固まっていた火燐の胸元で、いつの間にか身につけていた「キツネのチョーカー」がじんわりと熱を帯び始めた。


『……聞こえますか、美輪火燐』


脳内に直接響く、どこか澄んだ青年の声。


『……え……!?誰だ……!?』


 呼ばれた声に呼応するように、火燐の意識が覚醒する。周囲はモノクロに止まった図書室。向かいには凍りついた水琴。そして時子と理子の姿がない。


『私はコン吉。あなたの魂の熱量を見込み、力を貸しに参りました。……今、校庭であなたの大切な友人たちが、怪物に惨殺されようとしています』


 脳裏に、校庭の光景が直接流れ込んでくる。血を流し、絶体絶命の爆風に晒されようとしている時子と理子の姿が。


『時子……!?理子……!?なんだよこれ、何が起こってんだよッ!?』


『異界の「異常」です。あのままでは数分と持たずに二人は焼き尽くされ、存在ごと消滅します。今のあなたでは何もできません』


『そんなの……そんなの冗談じゃねえぞ!!!』


『動きたいのなら……彼女たちを救いたいのなら……私と契約を』


『……ただし覚悟しなさい。私の力を受け入れれば、あなたはすべてを燃やし尽くすことになる』


 火燐の胸の熱傷痕が、ジリジリと肉を焼くような痛みを主張する。


 でも、火燐の答えに迷いはなかった。


『燃やすだの何だの……知るかよ!!アタシの友達が殺されそうになってんだ!!だったら、アタシが燃えてでも守り切る!!』


バチィッ……!!


 火燐の強い意志に応え、止まっていた体内の時間が強引に動き出す。


『アタシの友達を……時子たちを傷つける奴は……絶対に許さねええええええええッッ!!!!』


 火燐は時を置き去りにして図書室を飛び出し、校庭へと向かって爆走した。


 凍りついた水琴の横を駆け抜ける瞬間、火燐は一瞬だけ足を止めた。


 動かない水琴の横顔が、やけに遠く感じられた。


「死ねぇぇぇっ!!」


 ブラストフォックスの猛威が時子たちを飲み込もうとしたその瞬間、校舎の影から一筋の赤い閃光が躍り出た。


 火燐は首元のキツネのチョーカーを強く握り締め、護身用トンファーを両手に掴み取ると、胸元で力強くクロスさせて叩き合わせた。


 鈍い衝撃音。


 次の瞬間、火燐を中心に灼熱の炎が爆発した。


 周囲のネズミの群れを一瞬で焼き尽くす熱量。炎のラインが彼女の身体を舐めるように駆け巡り、深紅と漆黒のアクティブドレスへと塗り替えていく。


 両手のトンファーが幾何学的に展開し、重厚な【イグニッション・トンファー】へと変貌する。後部のシリンダーから「ブォン! ブォォン!」と猛獣のような排気音が響き、灼熱の火花を噴き出した。


 火燐はトンファーを鮮やかに回転させて背後に構え、鋭い眼光で怪物どもを睨みつけた。


「まとめて爆ぜ飛ばしてやる!!」


 魔法少女バーニング・フォックス、爆誕。


「火燐……ちゃん……!?」


 時子が呆然と呟く。


「あぁん!?アタシの前に立つ度胸だけは褒めてやるよ!バケモノどもっ!!」


 火燐はニッと不敵に笑うと、トンファーのシリンダーを限界まで吹かした。


ブォォォォォンッッ!!


「いくぞコン吉!」


『御意に。敵の盾を破り、核を爆破しなさい』


「任せな!爆風ごとき、アタシの気合いで押し返してやるわぁぁぁッ!」


 火燐はイグニッション・トンファーの後方排気による爆破推進を利用し、超加速で突撃する。迫り来る爆風の波を、自らの打撃爆破で正面から相殺しながら突き進む。


「ブモォッ!?」


 眼前にシェル・シェルターが立ちふさがるが――


「時子!合わせろ!」


「うんっ!クロックジャッジメント!」


 時子が時を固定し、シェル・シェルターの動きを止めて大鎚を叩き込んだ瞬間、火燐がトンファーの打撃を叩き込み、一瞬で粉砕した。


「なっ……盾が……!?ヒハハ、ならお前も爆ぜろぉぉっ!」


 ブラストフォックスが体表の腫瘍を一斉に自弾させ、全方位へ高熱の殺戮爆風を撒き散らす。


 だが、火燐は逃げない。踏み込みとともに拳を握り締め、腹の底から叫んだ。


「イグニッション!!」


ドガァッ……!!


 火燐の全身の穴という穴から、紅蓮の灼熱光芒と爆炎がブワッと一気に吹き出した。全身を包む炎を纏いながら敵の懐深くに躍り出し、両手でアッパーやフックを怒涛の勢いで叩き込んでいく。


 一撃ごとに、両腕のトンファー側面に埋め込まれた赤熱ゲージがメモリを伸ばし、「ピキーン!ピキーン!」とチャージ音を響かせる。


ドカカカカカカッ!!


 ガードをしていない火燐に容赦ない攻撃が襲いかかる。


「痛ぇな……?ふん、こんな傷、気合いで吹き飛ばすさ!」


 身体中に無数の擦り傷を作りながらも、打撃のスピードと威力は増すばかり。ブラストフォックスの腫瘍を次々と内側から潰しながら、一撃ごとに溜まっていく熱量がトンファーへと集約されていく。


 そして、打撃が頂点に達した瞬間――


《CHARGE COMPLETE!》


 「ピシィィィィンッ!!」と甲高い限界突破音が響き、トンファーのゲージが限界を突破して真っ白に発光する。


「喰らいやがれぇぇぇっ!!」


 火燐はエンジン機構を極限までオーバーヒートさせ、両腕のトンファーを敵の身体に深々と突き立てた。


「インパァァァァクトッッ!!!!」


 髪留めがパチンと弾け飛び、解き放たれたポニーテールがバーニングレッドのオーラをまとう。シリンダーから解放された莫大な推進エネルギーと、トンファー内に極限まで溜め込まれた熱量が、一気に敵の体内へと注入された。


チュドォォォォォォォォンッッッ!!!!


 ブラストフォックスの巨躯が内側から膨れ上がり、校庭全体を照らし出すほどの熱量とともに大爆発を起こして昇華した。九本の尾たちも安らかな表情を浮かべながら、光の塵となって消え去っていく。


 後に残されたのは、真っ黒に「焦げたルーズソックス」が一足だけだった。


「ふぅ……!圧勝、ってな!」


 変身を解除した火燐が、ポニーテールをファサッと揺らしながら振り返る。


「火燐ちゃん……!本当に、火燐ちゃんなの!?」


 時子が駆け寄ると、火燐は「おうよ!」と胸を叩いた。


「驚かせたな、時子、理子!実はさっきこのチョーカーのコン吉って狐にスカウトされてさ……今日からアタシも魔法少女だってよ」


「ま……改めてよろしくなっ!!」


「マジか……!まさか火燐まで魔法少女になるなんて……。頼もしいねんけど……ほんま、運命ってやつは容赦ないわ」


 理子も呆れつつ、嬉しそうに笑った。


「へへっ、アタシが三人目だな!どんなバケモノが来ても、アタシたちの絆で爆ぜ飛ばしてやろうぜ!」


 豪快に笑う火燐。しかし、彼女が不意に握りしめた右手の拳。そこには、戦闘で負った擦り傷から赤黒い血が滲み、一向に塞がる気配を見せていなかった。


(……なんか、いつもより血が止まらねぇな)


 火燐は一瞬だけ拳を見つめ、すぐに気合いで笑い飛ばした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

熱血高校生火燐の魔法少女デビュー回です。

火燐の属性も相まって熱い展開となりました。

火燐のトンファー…一体どこに隠しているんでしょうかねぇ…私にもサッパリ分かりませんwww。

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


【読者のみなさまへのお願い】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

感想やレビューもお気軽に残していただけると嬉しいです!

次回、第4話もどうぞよろしくお願いいたします。

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