↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/35

第2話「理子ちゃんのメカニック秘密基地」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます

「あうぅ〜……っ!そんなぁ……っ!」


 晴れの爽やかな昼休み。温かな日差しが差し込む教室に、私――天野時子(あまの ときこ)の悲痛な叫びが虚しく響き渡った。


「ど、どないしたんや時子!?誰かに大事なプリンでも奪われたんか!?」


 隣の席からガタッと大きな音を立てて身を乗り出してきたのは、幼稚園の頃からの幼馴染で私が転校するまでいつも一緒にいて、戻ってきてからも私の一番近くにいてくれる土屋理子(つちや りこ)だった。理子は食べかけの大きな焼きそばパンを口に咥えたまま、大きな目をパチパチとさせて私を見つめている。


「違うよぉ、理子ちゃん……これ見てよぉ……っ」


 半泣きになりながら、お気に入りのお弁当袋から取り出して差し出したのは、私が幼い頃からずっと愛用している大好きなキャラクターのイラスト入りお弁当箱だ。


 角の部分にあるプラスチックのサイド留め具が見事にバキッと根元から折れ、フタがパカパカと浮いてしまっていた。


「あー……経年劣化ってやつやな。プラ部分が長年の使用でカチカチに硬化して限界きてたんやろ」


「今日、お母さんがせっかくだからってタコさんウインナーとか卵焼きとか、いっぱい詰めてくれたのに……フタが留まらないと、汁が漏れちゃうかもしれないから心配だよぉ……」


「これ、小学生のとき理子ちゃんとお揃いで買った思い出のお弁当箱なんだよ……?引っ越してきた時もこれだけは大事に持ってきてたのに、どうしよう……」


「あ……!ほんまや、ウチが持っとったやつと同じ色違いのやつやんか!」


理子は焼きそばパンをごくりと飲み込むと、懐かしそうにお弁当箱をのぞき込んだ。


「そういえばあの時、時子が『お揃いがいい!』ってお店でダダこねて、ウチのオカンを困らせとったヤツやなぁ」


「も〜、昔の恥ずかしい話は言わないでよぉ……!」


「ふふっ、まだ持っとったなんて懐かしいわ。でもな、時子がそこまで大切に使ってくれてたのはめっちゃ嬉しいで!」


 トホホ……と机に突っ伏してへたり込む私を見て、理子はニッと笑うと自分の胸をドーンと頼もしく叩いた。


「昔からほんま泣き虫なんやから。そこで速攻で諦めるのはまだ早いで、時子!この『放課後のなんでも修理屋さん』こと、理子様に任せとき!」


「えっ!?直せるの……!?」


「当たり前や!ウチを誰やと思ってんねん。ウチの手にかかれば、折れたプラスチックの一本や二本、元通り以上に頑丈に補強したるわ! 放課後、ウチの秘密基地……技術部の物置部屋へご案内や!」


 放課後。

校舎の裏手にひっそりと佇む、少し年季の入った木造の物置部屋。


 引き戸をガラガラと開けると、そこには切り落とされた木材の香りや金属オイル、ハンダごての甘い匂いが心地よく漂っていた。壁際の棚にはジャンク品のラジオや真空管、整然と並べられた大小さまざまなドライバーやレンチが所狭しと並んでいる。


「すごーい……!昔から工作好きだったけど、ここ、完全に理子ちゃんの専門工場だね……!」


「へへ、部員が減って半ば物置になっとる場所やけど部長も最近は来いへんし、ウチの作業場としては最高なんよ。昔、ウチらの秘密基地で作った段ボールハウス覚えとるか? あの頃よりも道具がちょっと豪華になっただけやで!」


「ふふっ、覚えてる!あの時も理子ちゃん、おもちゃの金づちで本格的に組んでくれてたもんね。途中で雨が降ってきて、二人でびしょ濡れになりながらダンボール運んで……」


「あはは!あったなぁそんなことも!あの時は時子が、泣きながら『基地が溶けちゃう〜』って騒いどったわ」


 理子は懐かしそうに目を細めながら、慣れた手つきで作業台のLEDフレキシブルライトを点けた。そして大きなスチール製のツールボックスから小さな精密ドライバーのセット、耐熱性のエポキシ樹脂接着剤、そしてどこからか取り出した薄いステンレス製の補強金具を手際よく並べていく。


「ほな、これよりお弁当箱復活オペを開始するで〜」


 制服のポケットから丸メガネを取り出してサッと装着し、真剣な眼差しでお弁当箱と向き合う理子。


 普段はコテコテの関西弁でボケてばかりの理子だけど、作業台の前に座った瞬間に空気が変わる。小さなドライバーを扱う手つきは驚くほど繊細で、そして一切の迷いがなかった。


 折れたプラスチックの断面をヤスリで丁寧に整え、極小のピンバイス(手動ドリル)でミリ単位の穴を開けていく。そこに極小の金属ブラケットを噛ませ、カチッと心地よい音を立ててフタが留まるように完璧な角度で加工していくのだ。


「すごい……!小さい頃から手先が器用だったけど、理子ちゃん、まるで本物の職人さんみたいだよぅ……!」


「へへん、すごいやろ?ウチ、細かい工作とか機械いじりが大得意やからな。プラモデルの改造とかラジオの修理はもちろん、実は手芸とかも家で夜な夜なチクチクやっとるし!」


「へぇぇ!理子ちゃんが刺繍!?小さい頃は泥だらけになってロボットごっこしてたのに、すごいギャップ……!自作の小物入れとかも作れちゃいそうだね!」


「お、お前なぁ!昔の話持ち出して人の乙女な趣味をストレートに褒めるなや!恥ずかしいわ!ここは『ギャップ萌えでウチのファンが一気に倍増やな!』ってドーンとギャグ飛ばして笑うとこやぞ!」


 顔を真っ赤にして照れ隠しをする理子。耳まで真っ赤にしながらも、その手元は一切狂わず、真剣にお弁当箱を修復していく。


「できた!留め具の裏に金属の薄板挟んだから、前よりずっと頑丈になったで。ほら、カチッと留めてみ?」


「わぁ……!本当だ!カチッてちゃんと留まる!デザインも全然邪魔してないし、むしろメカっぽくてカッコいい……!」


「ふふん、職人理子様をなめたらあかんで!」


 自慢げに鼻を鳴らす理子。だけど――最後の仕上げに小さなネジを締め込もうと、ドライバーを握り直したその時だった。


――ジジッ。


「……ッ!?」


 理子の手が、まるで強い電流が走ったかのように不自然に跳ね、ドライバーがカチャンッと作業台の上に滑り落ちた。


「理子ちゃん!?大丈夫!?」


「あ……あはは、なんやろこれ?正座でもして足痺れた時みたいに、手がジジッって強張ってもたわ」


 理子は自分の右手を不思議そうに見つめながら、グーパーと開閉して見せる。


「なんや、ウチの爆笑ギャグのキレが良すぎて手に電撃走っただけや!心配いらんで!」


「も〜、理子ちゃんったら……でも、本当に無理しないでね?最近生徒会の手伝いも忙しいって言ってたし……」


「おおきに!ほら、お弁当箱できたで!これで明日のタコさんウインナーも安心やな!」


 手渡されたお弁当箱は、壊れる前よりも頑丈に、しかも可愛らしく補強されていた。


「本当にありがとう、理子ちゃん!」


 私がとびきりの笑顔で微笑みかけた、その耳に――


――カチリ。


 世界を切り裂く、あの冷酷な秒針の音が響いた。


「……え?」


 景色から急激に色彩が失われていく。

放課後の夕暮れの校舎裏、遠くから聞こえていた野球部の声、風の音――すべてがピタリと停止し、モノクロームの「裏の世界」へと反転した。


「また……『キメラ』……!?」


 急いで外に出た私たちの前に空間を切り裂いて現れたのは――異形の怪物だった。

一見すると、愛くるしい二足歩行のレッサーパンダの姿。


 しかし、その体躯は二メートルを超え、胴体や関節からは生々しい鉄骨や錆びた鉄くずがグロテスクに突き刺さり、血肉とドロドロに融合していた。

何よりも恐ろしいのは、その両手。

巨大な金属の爪が鋭く尖っており、地面をガチガチと削りながら暴虐な殺気を放っている。


「ブォォォォオオオン!!暴走……パラリラ……ぶっ潰してやるぁぁぁっ!!」


 怪物の胴体の中央――鉄骨の隙間から、血走った目を剥いた『少年』の顔が埋め込まれ、苦悶の叫びを上げていた。


「人間の精神と融合した……【レッサーパンダ・キメラ(アイアンクラロー)】か!」


 私のカバンのポケットからレオ彦さんが飛躍し、警戒の声を上げる。


「そんな……!私、変身して戦わなきゃ……っ!」


 私が懐中時計【クロノ・クロスフィア】を取り出そうとした、その瞬間。


「時子!!下がっときや!!」


 凛とした声が響き、理子が私の前に立ちはだかった。


「り、理子ちゃんダメ!あんな怪物、危ないよ……!」


「へっ……危ないのは向こうの方やで」


 理子はポケットから、レッサーパンダの絵柄が刻まれた琥珀色の腕輪を取り出した。

すると、理子の肩口の空間が歪み――モコモコとした三頭身のレッサーパンダのぬいぐるみが姿を現した!


「どや顔してんとちゃっちゃと変身せんかい、理子!なんにしとんねん!」


「やかましいわポン太!行くでぇっ!!」


 理子が腕輪を強く握り締め、地面へ勢いよく手をかざした。


「――グラウンド・クロスフィアッ!!」


 ガガガガガガガッ!!


 理子の脚元の土から、金色の砂金と大量の金属片が強力な磁力によってブワッと舞い上がった!


 浮遊した金属片が幾何学模様を描きながら、理子の両腕・両脚に激しい火花とともに吸着。武骨でありながら洗練された、アンバーとアースブラウンの重装甲アーマーへと硬化していく!


 ショートヘアの隙間から琥珀色の光が溢れ出し、バイザー状の磁力グラディエーターヘルメットが一瞬顔を覆ってから、甲音とともに展開した。


 両腕に形成されたのは、圧倒的な存在感を放つ巨大な金属ガントレット【マグネ・ガントレット】。


バチィンッ!!!


 理子が両拳を力強く打ち合わせると、空間を揺らす強烈な衝撃波と磁場が発生した。


「魔法少女グランド・レッサー誕生!」


「理子ちゃんが……魔法少女……!?」


 私が目を見開いて叫ぶと、重装甲を纏った理子が力強く振り返った。


「このアホなポン太に巻き込まれて魔法少女になったんや!でも――大切な幼馴染の日常を守るためなら、ウチはなんだってやったるで!」


 叫んだ直後、理子がぎょっとしたように私の顔を二度見した。


「って……時子!!」


「え……?」


「なんで動いてんねん!!」


 モノクロの停止した世界の中で、普通に声を上げ、動いている私に理子はパニックを起こしかけた。


「あ、えっと……それは……!」


「まぁええわ、続きは後や!!」


 襲いかかってくる怪物を前に、理子は深く考えるのを後回しにして前を向き直した!


「ブォォォォッ!!ぶっ殺ス!!」


 アイアンクラローが咆哮し、地面を削りながら凄まじい速度で突進してきた!

磁力を帯びた巨大な鉄爪が、周囲の標識や放置された自転車、鉄くずを一気に引き寄せ、巨大な金属の渦となって理子へ襲いかかる!


「甘いわ!ウチの『土』と『磁力』をナメんといてや!」


ガキィィィィンッッ!!


 理子は両腕の【マグネ・ガントレット】を前方に掲げ、強烈な反発磁場を展開!

襲い来る標識や鉄くずを一瞬で弾き飛ばすと、そのまま怪物の両手の鉄爪へ向けて指先を向けた。


「固有能力――【磁力操作】!!」


「ガ…ガアッ!?爪が…動かない…!?」


 理子の放つ強力な磁場が、怪物の肉体と融合していた鉄骨と鉄爪を完全に逆制御!

怪物は己の重すぎる鉄爪に引きずられるように、地面へガチッと固定され、一切の身動きを奪われた。


「ポン太、いくで!」


「いつでもいけるわ!パパッと粉砕したれ、理子ぉっ!」


「わかっとるわっ!重力磁場展開っ!!」


 理子の足元から広範囲に磁場が展開されていく。


「必殺!!マグネットクラッシュッ!!」


 理子が地に足を強く踏み込むと、敵との間に強烈な引力と反重力が同時に発生した。

バオンッ!と音を置き去りにするほどの凄まじい急加速!


 理子の全身が琥珀色の彗星と化し、身動きの取れない怪物の懐へと一直線に突き刺さる!


「みんなの笑顔を奪うバケモノは――ウチが力ずくで粉砕したるわぁぁぁッ!!」


ドッゴォォォォォォォンッッッ!!!!


 重装甲のガントレットから解き放たれた莫大な磁力波と打撃が、アイアンクラローの装甲肉を真っ向から粉砕した。

肉が爆ぜ、鉄骨が粉々になって飛び散る。怪物は悲鳴を上げることすら許されず、内側から弾け飛んだ。


「ガ……ア……暴走……終わり……か……」


 少年の苦悶の顔が最後に一瞬だけ安らかな表情を浮かべ、次の瞬間、怪物だった肉体は一筋の光の塵と黒い灰となって風に消えていった。


「ふぅ〜!はいドーン!ウチの圧勝やな!」


 景色に色が戻り、変身を解除した理子がニシシと笑いながらVサインを決める。

だけど、すぐに真顔になって私へと詰め寄ってきた。


「で!、時子!。さっきの説明を聞かせてもらおか!。なんであの世界で平然と動けとったんや!?」


「えっと……実はね、理子ちゃん……」


 私は意を決してカバンから懐中時計を取り出し、昨日起きた出来事をかいつまんで話した。


 昨日一人で帰る途中でライオンの怪物に襲われたこと、レオ彦さんと出会って時計の力で魔法少女に変身して戦ったことを。


「……マジで!?時子も魔法少女になっとったんか!?」


「うん……私もまさか理子ちゃんが同じ魔法少女だなんて思わなくって……」


「ぶはっ!なんやそれ!運命の悪戯ってやつか!?」


理子は呆れたように笑い出した。


「ウチなんてな、先週このコテコテ関西弁のポン太に『契約せえへんと街がバケモノに食われるで』って脅されて、気づいたら重装甲アーマー着せられてたんやからな!」


「誰が脅したやねん!助けてあげたんと違うか!」とポッケから顔を出すポン太。


「あはは……理子ちゃんらしいかも」


「ほんま、まさか時子まで巻き込まれとるとは思わんかったけど……これで百人力やな! 昔からウチらは二人で一人みたいなもんや! 二人で力を合わせれば、どんなバケモノが来ても街とみんなの日常を守れるで!」


 理子はニッと太陽のような笑顔を向け、力強く私の肩を叩いてくれた。


「うん……!一緒に頑張ろうね、理子ちゃん!」


「おうよ!ほな、残りの作業……片付けて帰ろか」


 理子は満足そうに頷き、自分のカバンを持ち上げようとした。

その瞬間。


ジジッ。


「……あっ」


 理子の右手が、力無くダラリと下がり、カバンの持ち手を滑り落とした。


「理子ちゃん……?」


「あ、あはは……なんやろ、力入りすぎてまた腕が痺れたわ。ほんまドジやなぁ」


 いつものおどけた笑顔で誤魔化す理子。


だけど、足元に落ちた怪物の跡地――血に染まった小さな「バイクのキー」を見つめる理子の瞳が一瞬だけ暗く沈んだのを、私は見逃さなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

時子の幼馴染で心の友、理子の魔法少女デビュー回です。

手先が器用で趣味が手芸なのに変身すると力技なんですね。

書いている私がギャップ萌えしそうですwww。

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


【読者のみなさまへのお願い】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

感想やレビューもお気軽に残していただけると嬉しいです!

次回、第3話もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。