第34話「私服ファッション大戦争!ダサ服禁止のプライドバトル」
※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます
三学期が始まって数日後の放課後。
鳳凰学園の校門を抜けた時子、火燐、水琴の三人は、申し合わせたように理子の自宅――敷地内にメカニックの技術作業部屋が併設された土屋家へと直行していた。
「お邪魔しま〜す! 理子ちゃん、私服の緊急会議に来たよ〜っ!」
時子が声を弾ませて作業部屋の重い扉を開けると、そこには既に部屋の中央で腕を組み、仁王立ちになっている理子の姿があった。
「よう来たなみんな! ネズミーランドで即死せえへんための『第一回・私服コーディネート大戦争』の開戦や! 覚悟はできとるか!?」
「おうよ! アタシの最強の私服を見せてやるぜ!」
火燐が不敵に八重歯を覗かせ、水琴もメガネをクイッと押し上げる。
「論理的かつ完璧なスタイリングで、テーマパークという幻想空間を支配してみせます!」
「よし、まずは言い出しっぺのウチから披露したるわ!見よっ! 動きやすさと機能性を極限まで追求した、ウチの勝負服や!」
理子がドヤ顔で羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。
現れたのは――フロントにドデカく『なんでやねん』と力強い筆文字でプリントされた真っ赤なお笑いTシャツに、履き古したダボダボの青ジャージパンツ姿であった。
「「「………………」」」
静まり返る部屋。時子が困惑気味に首をかしげる。
「えっと……理子ちゃん、それって……いつもの普段着なんじゃ……?」
「何言ってんねん! Tシャツの文字が『なんでやねん』やぞ!? ネズミーランドの賑やかな雰囲気にぴったりのポップなデザインやろがい!」
「即刻却下です!!」
水琴がバシィンと手帳を叩きつけて叫んだ。
「テーマパークの夢の世界で『なんでやねん』は情緒が崩壊します! そもそも理子さん、小柄で可愛い体型なのですから、もう少し女の子らしいラインを意識すべきです!」
「うるさいわ! ウチはちっぱい小柄なん気にしとんねん!余計なお世話や!」
理子が顔を真っ赤にして叫ぶと、今度は火燐が自信満々に胸を張った。
「けっ、理子は甘いぜ! アタシの私服を見ろ! これ一発でコーデ完了の完璧なスタイルだ!」
火燐がバッと披露したのは、自分の身の丈よりも二サイズは大きい、だぼだぼの黒いフード付きパーカー。下は短いショートパンツが見え隠れしているものの、基本的にはパーカー一枚にすっぽりと包まれたような無頓着スタイルだった。
「……火燐さん、それ、ただの『着替えるのが面倒だからパーカーかぶっただけ』スタイルですよね!?」
「あぁん!? フード被ってりゃ立派な私服だろ! 動きやすいし突撃しやすいし最高じゃねえか!」
「女子力の欠如が著しいですーっ! では、本物の『テーマパーク仕様』というものをお見せしましょう!」
水琴が不敵に微笑み、自身が持ち込んだ大きな衣装ケースの姿見の前に立った。
「ご覧ください! フリルとレースをふんだんにあしらった、重厚なるガチゴスロリドレスです!」
水琴が着替えて姿を現した瞬間、時子と理子、火燐の三人は息を呑んだ。
黒と紫を基調とした漆黒のレースドレス。しかし、問題はそのコルセット部分であった。
ギュウギューと極限まで締め上げられた胸元から、水琴の隠された豊かなバストが破裂せんばかりにギューッと強調され、溢れ出していたのだ!
「「「胸元アピールすごすぎだろ/やろがいっ!?!?!?」」」
理子と火燐がハモって突っ込んだ!
「な、なんですかみなさん! オタク的こだわりで選んだ幻想的な装いです! 決して胸を強調しようとしたわけでは……っ!」
「いや、完全にコルセットで押し上がっとるやないか! 胸囲の暴力や! テーマパークで浮きまくりやで!」
「ふぇぇぇん! ど、どうしよう〜っ! 私はお母さんが買ってきたこの服しかないよ〜っ!」
時子が涙目でお披露目したのは、パステルピンクのフリルが大量についた幼少期風の甘々ブラウス。
しかし、お菓子が大好きな時子のお腹まわりがチョッピリぷにぷにしているため、ウエスト周りが少しきつそうにパツパツになっていた。
「うぅ……お腹がぷにぷにしてて、ボタンが弾けそうだよぉ……」
「あかん……全滅や……! 変なTシャツ、だぼパーカー、胸強調ゴスロリ、お腹パツパツ幼小服……! このメンツでネズミーランドに行ったら一瞬で撃沈や!!」
四人が頭を抱えて絶望に打ちひしがれていた――まさにその時だった。
「ふふ、なんだか楽しそうな悲鳴が聞こえるわね」
カツン、と上品な靴音が響き、作業部屋の扉が開いた。そこに立っていたのは、風花財閥が誇る洗練された高級私服に身を包んだアイシャだった。
落ち着いたシックなタートルニットに、美しい体のラインを引き立てるロングスカート。最年長らしい気品と規格外のプロポーションが溢れ出ている。
さらにその両腕には、溢れんばかりの衣装ケースとハンガーが抱えられていた。
「ア、アイシャ先輩ーっ!?」
「みんなが私服で困っていると思って、わたしのお衣装コレクションからみんなに似合いそうな服を持ってきたの。ふふ、お姉さんにプロデュースさせてちょうだい?」
「「「「救世主降臨だぁぁぁぁっ!!!?」」」」
歓喜の叫びを上げる四人。ここから、アイシャによるお色気&大着替え指導が幕を開けた!
「はい、時子ちゃんにはこの清楚なオフホワイトのニットワンピね。お腹まわりもふんわり隠れて、とっても可憐よ」
「わぁぁっ! すごい、ぷにぷにが隠れてすっごく可愛いですーっ!」
「火燐ちゃんは、そのパーカーを活かして、スタイリッシュなスポーティーデニムスタイルにしましょう」
「へへっ、これなら動きやすくてカッコいいぜ!」
「水琴ちゃんは、ゴスロリのレースを活かした知的なカジュアルブラウスにチェンジね。胸元も品良く収まるわ」
「お、お見事です……! 適切な減律によって知的魅力が昇華されました……!」
そして最後、アイシャが微笑みながら理子の前に立った。
「理子ちゃんには、この大人っぽいエレガントなVネックブラウスを着てみてちょうだい」
「えっ!? う、うちがこんな大人っぽい服……? や、やってみるわ!」
理子が試着コーナーのカーテンの向こうで着替え始める。しかし直後――。
「あ、あかーんっ!! 助けてアイシャ先輩っ!!」
「どうしたの、理子ちゃん!?」
カーテンを開けると、アイシャのVネックブラウスを着た理子が、胸元をガバガバに余らせて涙目で立ち尽くしていた!
「サイズがまったく合わへんねん!! 胸元がガッバガバで布が余りまくっとる!! アイシャ先輩の胸が規格外にデカすぎるんやーっ!!」
「あらあら……ごめんなさい、わたしのサイズで作られた服だったわね」
アイシャが苦笑しながら「じゃあ、こちらの小柄な子向けのボーイッシュシャツにしましょうね」と、理子の背後に回り込み、服のボタンを優しく留め直してあげる。
「んっ……あ、アイシャ先輩、近い……」
服を直してくれるアイシャの豊満で柔らかい胸が、理子の背中や頭に当たってしまい、理子は「ち、ちっぱいコンプレックスが刺激されるのに……なんかすごく甘くていい匂いがする……」と顔を真っ赤にしてフリーズしてしまった。
こうして、アイシャの完璧なプロデュースにより、見違えるほどオシャレで可憐に変身した四人!
「みんな、とっても素敵よ。これでネズミーランドへの準備は万全ね!」
「「「「アイシャ先輩、ありがとうございましたーっ!」」」」
少女たちの眩しい笑顔と歓声が、夕暮れの部屋に弾けていた。
――同じ頃、高級住宅街の一角。パステルピンクとフリルで彩られた自室にて。
パステルピンクのもこもこなフリル部屋着に身を包んだ嵐彩花は、フリルいっぱいのベッドの上でゴロゴロと転がりながら、スマートフォンに映し出された時子たちの着替え風景のモニタリング映像を観賞していた。
「あははっ! 理子ちゃん、『なんでやねん』Tシャツなんて着てたんだ〜!可愛いなぁ〜! アイシャさんに着せ替えられて、みんなすっかりオシャレになっちゃってさぁ!」
宝塚男役風の凛とした美声で、年相応の可憐な少女のようにはしゃぐ彩花。彼女はクローゼットへ跳び起きると、中からフリフリの可愛らしいレース服を引っ張り出してきた。
「ねぇねえウサ子! 僕もネズミーランドに行く時の服、選んじゃおうかな! このピンクのフリフリドレスなんてどうかな!?すっごく可愛いでしょ!」
嬉しそうに服を自分の体に当ててクルクルと回る彩花。
すると、ベッドの上のトランクから「X」の文字が刻まれたウサギのぬいぐるみ――ウサ子がぬっと顔を出した。
「……監査官様。浮かれているところ申し訳ないが、本日の予定はネズミーランドではなく『カフェ店主(小波優子)の懐柔』だピョン」
ウサ子の冷たい声に、彩花は「えぇ〜?」と眉を八の字にした。
「分かってるよぉ。でも、お姉さんのところに行く時だって、可愛い服の方がいいじゃないかぁ」
「却下だピョン。監査官様が普段学園で見せている『男役風スタイル』から、いきなりそのような可憐なフリフリ服を着てカフェに行けば、ギャップの飛躍が大きすぎて不自然な違和感を与え、警戒されるピョン」
「うぐっ……」
「カフェ店主の『守ってあげたい母性』を自然に発動させるなら、男役の雰囲気を残しつつ、どこか儚げで健気な『妹風コーデ』一択だピョン。こちらの控えめなカーディガンセットを進めるピョン」
ウサ子が短足で示してきたのは、シンプルだがどこか守ってあげたくなるような、上品な妹風の服だった。
「うぅ……っ! せっかく僕、可愛いの選んだのにぃ……! ウサ子の分からず屋! 正論ばっかり言ってぇ……っ!」
彩花は頬を膨らませ、不満げに地踏みをしたが、ウサ子のロジックにぐうの音も出ず、「……分かったよぉ。計画のためなら、渋々着替えてあげるよ……」とがっかりした様子で服を受け取った。
――それから三十分後。
夕闇が迫るカフェ『エスペランス』。
カラン、コロン――と静かなベルの音が響き、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ――あら? 彩花ちゃん!」
カウンターの奥から、店主の小波優子が温かな笑顔で迎える。
そこに立っていたのは、いつもの凛とした男役風の佇まいを残しつつも、どこか華奢で守ってあげたくなるような「妹風コーデ」を纏った彩花だった。
「こんばんは、優子さん……。また一人で来ちゃいました……」
少し遠慮がちに、健気な笑みを浮かべて店内に入る彩花。
「あらあら、歓迎するわよ! どうぞカウンターへ座ってね」
優子は手際よく温かいココアを用意し、カウンター越しに優しく語りかけた。
「なんだか、今日は少し寂しそうな顔をしているけれど……何かあったの?」
狙い通り、優子の「守ってあげたい母性」が発動した瞬間だった。
彩花はココアのカップを両手で包み込み、うつむき加減に呟いた。
「実は……僕、転校してきたばかりで……学園に上手く馴染めているか、ときどき不安になっちゃうんです。 ……アイシャさんや時子ちゃんたちは、すごく優しくしてくれるけれど……僕、なんだか浮いてるんじゃないかって……」
儚げで健気な「同級生客・妹風の姿」で吐露される素直な悩みに、優子の胸は強く締め付けられた。
「そんなことないわ、彩花ちゃん! あなたはとっても素敵で、良い子よ。……不安になったら、いつでも私を頼ってね?私はいつでも、彩花ちゃんの味方だから」
優子はカウンター越しに身を乗り出し、彩花の華奢な手を優しく包み込んだ。
「……優子さん……! ありがとうございます……っ!」
感極まったように可憐な笑顔を咲かせる彩花。
しかし――優子が手元を片付けるために背を向けた一瞬。
彩花は重なる手の温もりを感じながら、瞳の奥に凍てつくような冷徹な光を滑らせた。
(ふふ……ウサ子の言う通り、完璧な『妹風コーデ』の勝ちだねぇ……。こんなに簡単に、僕の言葉を信じて温もりをくれるんだから……)
温かいココアを一口啜り、完璧な「健気な生徒」の微笑みを張り直す。
狙い通りにお姉さんの心の深層へと潜り込み、絶望の種を蒔き続ける嵐彩花。
ネズミーランドへの楽しげな足音が近づく日常のすぐ裏側で、惨劇の幕を開ける準備が、静かに、そして完璧に整いつつあった――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
案の定、壊滅的な服装の皆さん_| ̄|○ il||li
しかし、アイシャのお陰で夢の国は大丈夫そうですね。それにしても彩花ちゃん……何やってんの(´・ω・`)
魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!
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