第33話「三学期始業!新たな始まりと甘いひと時」
※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます
正月休みが明け、冬の澄み切った空気が街を包み込む一月上旬。鳳凰学園の校舎には、久しぶりに顔を合わせた生徒たちの元気な歓声と笑い声が響き渡っていた。
始業式を終えた直後の二階廊下。窓から差し込む暖かな冬の陽光の下で、時子、理子、火燐、水琴の四人は、すっかり人だかりの出来た廊下の隅で身を寄せ合っていた。
「はぁ〜っ、今日から三学期かぁ!正月休みって、なんでこんなに一瞬で終わっちゃうんだろうねぇ……?」
桃色のリボンを揺らし、時子が制服の袖を引っ張りながらふにゃりと眉を下げた。すると、隣に立った理子が、茶色がかったボブショートを揺らしながらフッと鼻で笑ってみせる。
「何言ってんねん時子!ウチらの三学期は、ここからが本番やろがい!新年初参拝で引き当てた、あの奇跡のチケットがあるんやからな!」
「あっ、そうだったーっ!『ネズミーランド五名様・豪華オフィシャルホテルスイート宿泊券』……! 思い出すだけで胸がキュンキュンしてきちゃうよぉ!」
「ふふん、当然だろ!アタシたちの友情パワーと水琴の大凶逆転パワーが引き寄せた最高の特賞だからな!」
火燐が赤髪のポニーテールを揺らし、ニッ不敵に八重歯を覗かせてガッツポーズを作る。その横で、シャチのアクセントが入った眼鏡をクイッと指先で押し上げたのは水琴だった。
「正確には、私の『大凶』が持つ負の確率エネルギーと、時子さんの物理的不可抗力クラッシュが奇跡的な位相干渉を起こした結果ですが……まあ、結果オーライとしましょう。ですがみなさん、浮かれてばかりはいられませんよ?」
「えっ、水琴ちゃん、何か問題でもあるの……?」
時子が目を丸くすると、水琴は胸を張り、一気にオタク特有の早口を捲し立て始めた。
「問題大ありです!テーマパーク散策、そして豪華スイートホテルへの宿泊……!これは即ち、我々の『私服センス』が白日の下に晒される決戦の場であることを意味しているのです! 適当な部屋着や、小学生時代からの着回し服で挑めば、風花財閥の令嬢であるアイシャ先輩の隣で即死案件ですよ!?」
「「「えぇぇぇっ!?!?!?」」」
水琴の叫びに、時子と理子、そして火燐までもが同時に顔を引きつらせた。
「あ、あかん……!ウチ、普段の休日は動きやすいジャージか、変な文字がプリントされたお笑いTシャツしか着てへん……!」
「アタシも基本、ジャージかパーカーだぜ!?私服コーディネートなんて、考えたこともねえよ!」
「ふぇぇぇん!ど、どうしよう理子ちゃん!私の服、お母さんが買ってきた可愛い系のやつしかないよ〜っ!」
「決まりですね……!近日中に、我々五人による『私服コーディネート緊急会議』を開催する必要があります……ッ!」
早くもテーマパーク行きの準備で大騒ぎする四人。その賑やかな輪の向こうから、カツン、カツンと優雅な足音が近づいてきた。
「ふふ……朝からとっても賑やかね、みんな」
鈴を転がすような涼やかな声とともに現れたのは、生徒会室での始業手続きを終えて戻ってきた、生徒会長のアイシャだった。
艶やかなウェーブ髪をなびかせ、制服の上からでもはっきりとわかる規格外の美貌と豊満なプロポーション。彼女が立ち止まるだけで、廊下を通る他の生徒たちが「うわ、アイシャ先輩だ……」「相変わらずめちゃくちゃ綺麗……」と羨望の溜息を漏らす。
「あ、アイシャ先輩!お疲れ様です!」
時子が嬉しそうに駆け寄ると、アイシャは手元に抱えていた一枚の豪華な金箔押しの書類へと、困ったような、けれど嬉しそうな視線を落とした。
「アイシャ先輩、その手にある書類って……?」
理子が覗き込むと、アイシャはそっと微笑みながら書類を掲げて見せた。
「ええ。生徒会室で、校長先生から正式に通知をいただいたの。――わたしの帝都明成大学への『特別推薦入学』が正式に決定したのよ」
「「「「ええええええええっ!?!?!?」」」」
廊下に、四人の驚愕と歓喜の絶叫が木霊した!
「す、すごすぎますアイシャ先輩ーっ!あの超難関のエリート大学に特別推薦なんて、学園始まって以来の快挙じゃないですかーっ!」
時子がアイシャの手を取ってジャンプし、火燐も豪快に笑い声を上げる。
「へっ! 流石はアタシたちの学園のトップだぜ!カッコよすぎるだろ!」
「キャンパスライフ確定やん!さすがアイシャ先輩、次元が違います!」
理子と水琴も目を輝かせ、自分のことのように大はしゃぎで祝福を贈る。
「ふふ、ありがとう、みんな。でも、合格はゴールではなくて新しいスタートだから……気を引き締めないとね」
アイシャは優しく目を細め、後輩たちの頭を愛おしそうに順番に撫でてやった。
喜びと祝福の熱気に包まれる廊下。しかし、みんなが「お祝いに購買で特大焼きそばパンと和菓子を買ってきます!」と階段へ駆け下りて行ったわずかな隙――。
一人生徒会室に残ったアイシャは、静まり返った室内で、そっと推薦通知書をテーブルの上に置いた。
「……ふぅ」
小さな、けれど重たい吐息が、彼女の薄い唇から漏れ出た。
窓から差し込む冬の日光に、自分の指先をかざしてみる。どこか皮膚のハリが失われ、かすかな陰りを帯びているように見える指先。そして、制服のスカートの裾の下で、左膝が重たく、疼くように痛んでいた。
(大学……推薦……。本当なら、飛び上がるほど嬉しいはずなのに……)
アイシャはそっと左膝をなで下ろし、切なげに瞳を伏せた。
(風の魔法少女として戦い続けて、一年……。最年長として、みんなを守るために力を振るうたび、わたしの肉体は着実に『代償』を払い続けている……。日に日に増していく体の重さと、冷たさ。……わたしに、そこまで遠い『未来』が残されているのかな……)
大学生になり、大人になっていく未来の自分。それが、今の自分にはあまりにも遠く、儚い幻のように思えてしまう。
もしも自分の肉体が、みんなと過ごす前に尽きてしまったら――そんな冷たい恐怖が、胸の奥を刺した。
その時だった。
「アイシャ先輩〜っ!購買の焼きそばパン、最後の三つを力技で勝ち取ってきましたよ〜っ!」
「ウチもイチゴ大福ゲットしたで〜っ!」
ドタバタとした騒がしい足音とともに、時子たちがパンやジュースを両手いっぱいに抱えて生徒会室へ飛び込んできた。
「あ……みんな……」
「ほらほらアイシャ先輩!主役なんですから、あ〜んしてください!あ〜ん!」
時子が焼きそばパンを手に、無邪気な笑顔で身を乗り出してくる。
そのまっすぐで温かな瞳を見た瞬間、アイシャの胸の奥にあった暗い恐怖が一瞬で吹き飛んだ。
(……あぁ、だめね。せっかくみんなが、こうして祝ってくれているのに……)
アイシャは瞬時に、いつもの頼れる「みんなの優しいお姉さん」の微笑みを張り直した。
「ふふ、ありがとう、時子ちゃん。じゃあ……お言葉に甘えて、あ〜ん、してもらおうかしら?」
アイシャが上品に口を開けてパンを一口かじると、時子たちが「やったぁーっ!」と大歓声を上げる。
「よし!次はアイシャ先輩を囲んで、みんなでギューッってお祝いのハグです!」
「えっ、ちょっと時子、いきなり抱きついたら着崩れ――うわっ、ウチも引っ張られた!?」
「ひゃああっ、理子さん押さないでください!私のメガネがアイシャ先輩の豊かな胸元に埋もれて圧砕されます〜っ!」
「あはは! 水琴、贅沢な悲鳴あげてんじゃねえよ!」
時子たち四人が一斉に飛びついてきたことで、アイシャの豊満な胸元に妹たちが一気に押し寄せ、生徒会室は甘やかな悲鳴と笑い声で満たされた。
「あらあら……みんな、甘えん坊さんね」
アイシャは溢れんばかりの包容力で四人をしっかりと腕の中に抱きしめ、その柔らかな胸に妹たちを優しく包み込んだ。
(未来がどうなろうと……わたしは、この子たちを守る。この温かな日常と、眩しい笑顔を……絶対に手放したりしない……)
時子たちの温もりを感じながら、アイシャは心の中で深く、静かに誓っていた。
――同じ頃、夕暮れ時。
冬の赤い夕陽が街並みを鮮やかに染め上げる時刻。街の目抜き通りから一本入った静かな路地裏では一人の生徒が佇んでいた。
「ふぅ……時子ちゃんたち、学校でも相変わらず賑やかだったなぁ。アイシャさんの大学推薦をお祝いして、みんなでパンを食べ合って……本当に、微笑ましい光景だったよ」
ブレザーの胸元からトランクの縁をわずかに覗かせ、彩花は爽やかな美声を忍ばせて呟いた。トランクの中から、小さなウサギのぬいぐるみ――ウサ子がぬっと顔を出す。
「……監査官様。対象少女たちの精神的安定度、ならびに絆の深化レベル、想定数値を上回って上昇中だピョン」
「ふふ……良いことじゃないか。みんなが幸せを感じれば感じるほど、絶望の味が深まるんだからね」
彩花は凛とした表情のまま、瞳の奥に冷徹な光を滑らせた。
「時子ちゃんたちが浮かれてネズミーランドの準備をしている間に……僕も、僕だけの『特別な時間』を作るとしようか」
「……理解したピョン。『カフェ店主、小波優子』への直接アプローチを開始するピョン?」
「そうだよ、ウサ子。一番大切なものを、一番残酷な形で奪うためにね……」
彩花は胸元のトランクを静かに閉じると、制服の襟元を正し、足取りも軽やかに目的の場所へと向かった。
やがて辿り着いたのは、暖かな木の温もりが漂うカフェ『エスペランス』。
カラン、コロン――。
ガラス扉を開けると、澄んだベルの音が店内に響いた。
「いらっしゃいませ――あら?彩花ちゃん!」
カウンターの奥から、エプロン姿のお姉さん(小波優子)が驚いたように、そして嬉しそうに目を輝かせて駆け寄ってきた。
「ふふ、こんばんは、優子さん。一人で来ちゃいました」
彩花は、完璧な「鳳凰学園の爽やかで魅力的な三年生」としての笑みを浮かべ、優しくお辞儀をした。
「時子ちゃんたちから、いつもここがすごく素敵なお店だって聞いていて……。今日は少し、一人で静かに……優子さんの淹れてくれる美味しいココアが飲みたくなっちゃって」
「まあ……!そうだったのね!嬉しいわ、彩花ちゃん。どうぞ、カウンターの特等席へ座ってちょうだい」
優子は心底嬉しそうに微笑み、彩花をカウンター席へと案内した。
「時子ちゃんたちは、今日は一緒じゃないの?」
「ええ。みんな、部活や初詣の続きで忙しそうだったから……。でも、僕としては、優子さんとゆっくりお話しできる『自分だけの時間』が出来て、すごくラッキーでした」
彩花が少し照れたように微笑むと、宝塚男役風の凛とした佇まいも相まって、優子は「あらあら、そんな風に言ってもらえるなんて光栄だわ」と頬を緩ませた。
「すぐに、とびきり温かくて美味しいココアを淹れるわね」
「はい。楽しみにしています、優子さん」
手際よくマグカップを用意し、ミルクを温め始める優子の後ろ姿。誰にでも分け隔てなく深い愛情と包容力を注ぐ、救いのお姉さん。
彩花はカウンターに肘をつき、顎を乗せて、その背中をじっと見つめた。
表向きは、憧れの年上の女性を慕う爽やかな生徒の眼差し。
しかし――優子が振り向く一瞬の隙、彩花の瞳の奥に、凍てつくような冷徹な光が妖しく明滅した。
(ふふ……本当に、温かくて美味しそうな『核』だなぁ……)
優子が淹れてくれた、湯気の立つ甘いココアのマグカップを受け取る。
「はい、どうぞ。温かいうちに召し上がれ」
「ありがとうございます、優子さん。……うん、すごく美味しいです。心がほっとします」
ココアを一口啜り、心底幸福そうに目を細める彩花。
自分だけの時間を使って、一歩、また一歩と、カフェのお姉さんの懐へと自然に潜り込んでいく「静かなる侵蝕」。
時子たちが未来への希望と日常の楽しさに胸を躍らせる裏側で、悲劇へのカウントダウンの歯車が、静かに、けれど確実に回り始めていた――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
新学期が始まりましたね、アイシャちゃん大学推薦おめでとうございます。普段着が壊滅的な皆さん、夢の国に着ていく服大丈夫でしょうか……チョット心配です。
魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!
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