第三十一話「魔法少女の初詣【前編】初詣と束の間の安らぎ」
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『クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜時間を止める大鎚と、消えていく私』は、キラキラした甘酸っぱい学園日常と、ダークで切ない運命に立ち向かう魔法少女たちの戦いを描いた物語です。
『命を助ける力と引き換えに少女たちが支払う「代償」は、あまりにも酷で残酷なものだった……。』
爽快なチーム連携アクションと、少女たちの絆のドラマを楽しんでいただけたら嬉しいです。
(※ダークな展開やシリアスな描写などが含まれます)
それでは、本編をお楽しみください!
新しき年を迎えた元日の朝、澄み渡る冬空からは清らかな陽光が注ぎ込み、街全体が新年を祝う祝祭の空気に包まれていた。
天野家の二階、隣の和室では、時子の母親がアイシャの着付けを丁寧に進めている最中だった。しかしそのすぐ隣――時子の部屋からは、朝から平時以上の悲鳴と怒号、そしてドタバタとした騒がしい足音が響き渡っていた。
部屋の中は、まさに各自が個々に自分の着付けと格闘するカオス全開状態に陥っていた。
「あーーもう!なんやこの裾の長さ!めっちゃ動きにくっ!」
茶色がかった振袖姿の理子が、自分で着ようとして自分の裾を踏みつけ、バタバタと大騒ぎしている。そのすぐ横では、紅い振袖をひとまず着終えた火燐が、鏡に向かってシュッ、シュッと風を切る音を立てていた。
「ふんっ、思ったより腕の可動域はいけるな! これなら急襲されてもハイキック一撃で沈められるぜ!」
全開で暴走しながら謎の戦闘評価を下す火燐の背後、部屋の隅では、鮮やかな若竹色の振袖を纏った水琴が、補正用の晒を手に青ざめた顔で絶望していた。
「な、なぜですか……!私の論理的計算に基づく和服美学の構築が、この豊満という名のバグによって阻害されております……!晒でどれだけ抑え込もうと、和服の美しさと真っ向から衝突して帯すら回らないなんて……くっ、なんて物理的暴力……!」
一人で論理的な悩みにぶち当たり勝手に自爆・撃沈する水琴。そして部屋の中心では、自分の部屋であるにもかかわらず一番悲惨な事態に陥っている時子がいた。
「うわわっ、自分で帯を巻こうとしたら……なんかミイラみたいに全身ぐるぐる巻きになっちゃったぁ〜っ!?」
桃色の振袖を広げたまま、帯の端っこを足に引っかけ、床の上で芋虫のように転がってジタバタと身悶えしている。
まさに全員が自分の支度で自滅&暴走しているカオスな空間。そこへ襖がスッと開き、エプロン姿の時子の母親が呆れ顔で顔を覗かせた。
「もう、隣の部屋までものすごい地響きが聞こえてきたけれど……みんな、いったい何をやっているの?」
「「「あ、お母さん(おばさん・お母様)……!」」」
救いの神の登場に、カオスだった部屋が一瞬で静まり返る。お母さんは「はいはい、まったく手がかかるんだから」と優しく苦笑いしながら部屋に入ってきた。
まずはお母さんが手際よく理子の帯をキュッと締め直し、見事な形に整えてやる。
「ほら、理子ちゃん。これで崩れないわよ。足元に気をつけなさいね」
「おおっ!さすがにお母さん、一発でビシッと決まったやん!ありがとう!」
続いて、相変わらずシャドーボクシングの姿勢をとっていた火燐の肩を軽く叩いた。
「火燐ちゃん、お正月なんだからそんなに跳ね回ったら着崩れちゃうわよ。ほら、胸元の合わせ目をこう直して……」
「おっ、すまねえおばさん!これでアタシの完璧なハイキックも全方位対応だな!」
次に、部屋の隅で自分の胸元と格闘して撃沈していた水琴の前に立つ。お母さんは優しく微笑みながら、絶妙な手並みで水琴の帯の位置を調整していった。
「水琴ちゃんも、そんなに目を見開いて苦しまなくて大丈夫よ。とっても豊かで立派なお胸なんだから、恥ずかしがらずに胸を張りなさい。女性としてすごく素敵よ」
「お、お母様……!バグではなく……肯定……!?大人の女性としての温かな救済……!」
水琴が顔を真っ赤にして涙目で感動すると、お母さんは「ふふ、深呼吸して息を吸ってね」と背中を優しく撫で、綺麗に着付けを完成させた。
そして最後に残された、床でミイラ状態になっている時子の元へ歩み寄る。
「もう……時子って子は本当に手がかかるんだから。はい、ちょっとそこに転がってなさい」
「ふぇぇ……お母さん助けてぇ……」
お母さんが一番の手間をかけて、ぐるぐる巻きの時子を解凍し、帯をピシッと綺麗に直し終えると、ふぅと小さく息をついた。
「ふぅ、これで全員分ね。……それじゃあ、私は隣の部屋のアイシャちゃんの続きをしてくるから、みんなは暴れずに待っててちょうだいね」
お母さんが微笑みながら隣の和室へと戻っていき、襖が静かに閉まる。
数分後――。
「みんな、お待たせ。アイシャちゃんの準備が終わったわよ」
お母さんの声とともに、ふすまが開かれ、隣の部屋からしとやかな衣擦れの音が響いた。お母さんは惚れ惚れとした表情でアイシャに視線を向けながら誇らしげに言葉を続ける。
「アイシャちゃんのお着物、仕立てが素晴らしいのはもちろんなんだけど……スタイルが本当に素晴らしくて、着付けながら思わず見惚れちゃったわ。こんなに綺麗に着こなせるなんて羨ましいくらい」
お母さんが絶賛するその背後から、アイシャがそっと一歩前へ踏み出した。
その瞬間――部屋の中で待っていた時子たちの動きが、完全にピタリと止まった。
「……あ」
時子がぽかんと口を開けた。
そこに立っていたのは、深紅と黄金の刺繍が施された極上の振袖を纏った、アイシャの姿であった。
いつも下ろしている髪を美しく纏め上げ、艶やかな着姿を披露しているのだが――その存在感とプロポーションは、室内の一同の思考を完全にフリーズさせるのに十分であった。
「な……なんやあれ……」
理子が呆然と呟き、自分の綺麗に直してもらったばかりの茶色い振袖と、アイシャの姿を交互に見比べた。
水琴の豊満さも相当なものであったが、アイシャのプロポーションはまさに規格外であった。
お母さんの手によってしっかりと補正用の帯や晒が巻かれているにもかかわらず、深紅の着物の合わせ目を内側から押し返し、帯の上へとはち切れんばかりの豊かな曲線を描いて圧倒的な主張を放っている。帯でキュッと絞られた細い腰との対比が、彼女の持つ規格外のプロポーションを極限まで強調していた。
「あ、あの……アイシャ先輩……?」
時子が恐る恐る近寄り、アイシャの着物の帯を見つめた。
「その……帯の長さ、足りてますか……?」
「ええ。着付けのおば様にかなり無理を言って、一番長い帯を用意していただいたのだけれど……少し胸元が苦しくて、はだけてしまいそう」
アイシャが困ったように微笑み、規格外の豊満な胸元にそっと手を添えた。その仕草だけで、帯の上に乗っかる豊かな膨らみが揺れ、強烈な悩殺的艶やかさを振りまく。
「あかん……次元が違う……!お母さんに綺麗に着付けてもろて喜んでる場合ちゃうかったで……!」
理子が頭を抱え、水琴もまた眼鏡をずらしながら絶句していた。
「これが……これが学園の頂点に君臨するアイシャ先輩の真の姿……!補正という概念を物理的に破壊する規格外の存在感です……!尊すぎて目が潰れます……!」
「おいおい、アタシもさすがにアイシャ先輩のやつを揉みに行く度胸はねえぞ……」
先ほどまで暴れていた火燐すらも、アイシャの圧倒的な規格外の美と迫力の前には、苦笑いを浮かべて半歩引き下がるしかなかった。
「さあ、みんな。身仕度が整いましたら、初詣に出かけましょうか?」
アイシャが上品に微笑むと、時子たちは「は、はいっ!」と揃って返事をし、賑やかな天野家を後にした。
――同じ頃、街の喧騒から離れた高級住宅街の一角。
パステルピンクとフリルで彩られた甘い匂いの漂う自室で、彩花は一人、ベッドの端に腰掛けていた。
いちご柄の可愛らしいパジャマ姿の彩花は、フリル付きのベッドの上で温かいミルクティーのマグカップを両手で包み込みながら、手元の高精度端末の画面を操作していた。
画面に映し出されているのは、これからの初詣に向けて身支度を整え、ワイワイと騒ぎ合っている時子たちの朝の様子を捉えた定点モニタリング映像であった。
「あははっ……時子ちゃんたち、朝から相変わらず賑やかだなぁ。今日は元日だもんね、これから神社にお参りに行くんだぁ」
宝塚男役を思わせる凛とした美声でありながら、仕草は年相応の可憐な少女そのもの。しかし、その赤い瞳の奥には、どこか冷ややかな光が宿っていた。
トランクの縁から、胸に「X」の文字が刻まれたウサギのぬいぐるみ――ウサ子がぬっと顔を出した。
「……監査官様。定時報告の時間だピョン」
「おや、ウサ子。おはよう。報告をきこうか」
彩花はベッドの上で優しく微笑みながら、ミルクティーを一口啜った。
「了解だピョン。対象『カフェ店主、小波優子』および『対象少女たち』の生体・精神エネルギー波形、元日においても安定推移中だピョン。特に彼女たちが強い絆を感じ合う瞬間は、コア変換時の効率向上に寄与することが実証されているピョン」
「ふふ……素晴らしいねぇ。みんながこうして精一杯、温かな日常を守ろうと足掻けば足掻くほど、その絆は美しく熟していくんだから」
彩花は端末に映る時子の笑顔を、細く長い指先で愛おしそうになぞった。
「時子ちゃんたち、今日はめいっぱいお洒落して、初詣を楽しんでくるといいよ。たっぷりと光を浴びて、幸せの絶頂を味わいなさい……。後から訪れる闇と絶望が、最高に引き立つようにね〜」
自宅内の可憐な口調と、冷酷な「僕」の思考が混ざり合うサイコパスな呟き。
パジャマ姿の彩花の瞳の奥で、恐ろしい悪意の光が妖しく明滅していた。
場面は戻り、新年の参拝客で溢れ返る地元の有名な神社。
境内の参道には、焼き鳥や甘酒、たこ焼き、綿あめといった香ばしい匂いを漂わせる屋台がずらりと立ち並び、提灯の光が新春の目抜き通りを華やかに彩っている。
桃色の振袖を着こなした時子、茶色の振袖姿の理子、紅い振袖の火燐、若竹色の水琴、そして深紅の極上振袖を纏ったアイシャ――華やかな振袖姿で境内に足を踏み入れた五人の少女たちは、すれ違う人々の中でも圧倒的な注目を集めていた。
「うわあ……すごい人!お正月って感じがして、すっごくワクワクするね!」
黄色い髪飾りを揺らし、時子がはしゃいだ声を上げた。
「おい時子!あっちで焼き立てのたこ焼き売ってるで! 焼き芋の次はたこ焼きや!」
理子がすでに竹串を手にして屋台の列に並ぼうとしている。
「待ってください理子さん!振袖姿でたこ焼きのソースを飛ばしたら即死案件ですよ!?特にアイシャ先輩の胸元にソースが飛んだら、風花家の経済力で我々の人生が吹き飛びます!」
水琴が振袖の袖を必死に押さえながら、理子の襟首を引っ張って制止する。
「大丈夫よ、水琴ちゃん。わたしも、たこ焼きを食べたいわ」
アイシャが優しく微笑むと、周囲の参拝客から「うわ、あの振袖の子めちゃくちゃ綺麗……」「モデルさんかな……」と溜息交じりの呟きが漏れ聞こえた。歩くたびに豊満な胸元が揺れ、すれ違う男性客たちが思わず目を奪われている。
五人はアツアツのたこ焼きを分け合い、甘酒で身体を温めながら、境内の長い石段を登って拝殿へと向かった。
お賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼。
(どうか、今年もみんなで仲良く過ごせますように。みんなの代償が少しでも和らぎますように……)
時子は深く目を閉じ、胸の前で両手を合わせて強く祈りを捧げた。
「よし!参拝が終わったら、次はおみくじやな!」
理子が鼻息荒くおみくじの箱へと駆け寄った。
「おみくじですか……。確率論的には全体の数パーセントしか含まれていない『大吉』を引く確率は低いですが、新年の運試しとしては避けて通れませんね」
水琴も眼鏡をピシッと押し上げ、慎重に木札の筒を振り始めた。
「せーのっ!」の合図で、全員が一斉におみくじの紙を開く。
「やったあーっ!私、大吉だよ!」
時子が歓声を上げておみくじを掲げた。そこには『願望:叶う。失せ物:出る。待ち人:来る』と最高の結果が記されていた。
「うおっ、アタシは『吉』か。まあ悪くねえな!」
火燐が豪快に笑う。
「うちは『中吉』や!まあまあやな!」
理子も満足そうに頷いた。
「ふふ……わたくしも『大吉』ね」
アイシャが上品におみくじを見せると、そこには時子と同じ『大吉』の文字。
「すごいですねアイシャ先輩!さすがです!」
「ええ……みんなと一緒にいられるだけで、わたしにとっては最高の『大吉』ですもの」
アイシャが心底嬉しそうに目を細めた。その目元には依然としてかすかな陰りが残っていたものの、仲間たちと過ごすこの瞬間、彼女の心は確かな温もりで満たされていた。
「……あの、水琴ちゃんは……?」
時子が不自然に静まり返っている水琴に視線を向けた。
水琴は、手の中にあるおみくじの紙をプルプルと震わせ、絶望の表情で佇んでいた。
そこに書かれていた文字は――大凶。
「な、なぜですか……っ!?神社のおみくじにおける『大凶』の封入率は数パーセント以下のはず……!なぜ新年の初詣というめでたい場所で、この私が『大吉』ではなく『大凶』を引き当てるのですかーっ!?」
「あはは!水琴、どんまい!凶が出たってことは、ここから上がっていくだけだろ!」
火燐が水琴の背中をバシバシと叩いた。
「痛いです火燐さん!物理ダメージと精神ダメージのダブルパンチです!『願望:叶わず。健康:突発的なアクシデントに注意』って書いてありますよ!」
境内に響き渡る少女たちの弾けた笑い声。
おみくじの波乱を乗り越えた彼女たちは、さらなる新年の運試しへと向かう――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
新年早々、カオス全開でドタバタしてますね。
時子のお母さん初登場〜。
カオス全開の場をちゃちゃっと片付けるお母さん……最高です( ´∀`)bグッ!
確かに初詣で大凶引くと精神的ダメージデカいですよね……水琴ちゃんドンマイ!
魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!
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