↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

第21話「クリスマス・フェスティバルの準備と温かな嘘」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます)

 十二月中旬。街にクリスマスソングが響き渡り、鳳凰学園の中庭や渡り廊下にも華やかな装飾が施され始めていた。


 放課後。学園の大ホールでは、生徒会主催の『クリスマス・フェスティバル』に向けた準備が佳境を迎えていた。ホールの中央には、天井に届きそうなほどの巨大な本物のモミの木がそびえ立っている。


「うわぁぁ……!大きいクリスマスツリー!すごいね、理子ちゃん!」


 時子が目を輝かせて見上げる横で、作業着の上に生徒会の腕章をつけた理子が、ニッと胸を張った。


「ヘヘン、すごいやろ!ウチと生徒会のみんなで、近所の山から運んできた本物の樹やで!今からみんなで鉄製の大型ベースフレームを組み立てて、倒れへんように가っちり固定するんや!」


 ホールの一角には、ツリーを支えるためのズッシリと重い鉄製のフレームパーツや、巨大なオーナメントの箱が積み上げられていた。


「おーい!理子、時子!こっちの電飾のコード絡まっちゃったんだけどー!」


 はしごの上で、火燐が眩しい笑顔で手を振っている。長袖のインナーの袖口を少し捲り上げたその腕には、チリチリとした痛みが走っているはずだが、火燐は持ち前の根性で一切顔に出さず、元気にオーナメントを取り付けていた。


「まったく、火燐さんは雑に扱うからコードが絡むのです!物理的な摩擦係数と張力を考慮して解いてください!」


 水琴がメガネを光らせて説教しながら、脚立の足をしっかりと支えている。


「ふふ、みんな楽しそうね」


 生徒会室から追加の飾りを持ってやってきた生徒会長のアイシャが、温かな眼差しで後輩たちを見つめた。最年長としての疲労や重さはあるものの、仲間たちの弾けた笑顔に包まれるこの時間が、彼女にとっては何よりの宝物だった。


「やあ、風花さん。手伝いに来たよ」


 ブレザーの袖を捲り上げ、洗練された動作で現れたのは嵐彩花だった。相変わらず学園の女子生徒たちからの視線を一身に浴びながら、彩花は手際よく重いパーツの箱を持ち上げて見せる。


「嵐さん、助かるわ。ありがとう」


「いいえ、学園の一員として当然のことをしているだけさ。……さあ、みんなで完成させようか」


 彩花は爽やかに微笑み、作業に加わった。

作業は順調に進み、ツリーの根本を固定する最終段階に入った。


「よし!最後にこの鉄製の補強用パーツを固定したら完了や!ウチに任せとき!」


 理子は腕まくりをし、数キロはあるズッシリとした鉄製の大型補強ボルトとフレームを持ち上げた。工具を握り締め、力強くボルトを締め込もうとした――その時だった。


カチリ。


「……ッ!?」


 理子の右手に、急激な「違和感」が走った。


 痛むわけではない。だが、まるで右手の関節と神経が冷たい石のようにカチリと固まり、指先にまったく力が入らなくなったのだ。


「ぐっ……あれ……?手、手が……力、入らへん……!?」


 持ち上げていた重い鉄製パーツが、理子の手からすべり落ちそうになる。


「理子ちゃん!?」


 異変に気付いた時子が思わず叫んだ。重い鉄の塊が足元に落下すれば大怪我につながる。


 ――ガシッ!


 間一髪、隣にいた彩花が素早く手を伸ばし、落ちかけた鉄製パーツをガッチリと受け止めた。


「危ない……!大丈夫かい、土屋さん!?」

「あ……嵐、先輩……っ」


 理子は青ざめた顔で自分の右手を見つめた。いくら念じても、重い鉄製パーツを支えていたはずの指先がカチカチに固まったままでピクリとも動かない。


「ど、どうしたの、理子ちゃん!?大丈夫!?」


 火燐や水琴、アイシャも作業の手を止めて駆け寄ってきた。


「ウチ……ウチ、何でもないで!ただちょっと手が……」


 強がりを言おうとする理子だったが、自分でも何が起きたのか分からず、不安で声が震えてしまう。時子たちも顔を曇らせ、重い空気に包まれかけた――その時。


「ふふ……驚かせてごめんね、みんな」


 彩花が理子の手を優しく包み込み、心配そうに集まった少女たちに向かって、穏やかで説得力に満ちた笑みを向けた。


「土屋さん、最近クリスマス準備や部活で、連日重い荷物を運んだり手先を酷使していただろう?これは典型的な『手根管症候群』や筋肉の急激な局所疲労……例えるなら魔法や過度な運動による筋肉のオーバーヒート(使いすぎ)みたいなものだよ」


「え……オーバーヒート……?」


 理子がポカンと彩花を見上げる。彩花は頷き、包容力溢れる優しさで理子の右手を優しく揉みほぐすようにマッサージしてみせた。


「そうさ。君たちの体は、私たちが思う以上に日頃の戦いや準備で疲労を溜め込んでいるんだ。」


「魔法の出力を調整する生体リミッターが働き、一時的に『休め』と神経がブロックをかけているだけさ。激痛があるわけじゃないんだろう?」


「う、うん……痛くはないねん。急に固まったみたいになって……」


「だろう?痛みがないのが何よりの証拠だよ。少し手先を温めて休ませれば、すぐに元通りになる。何も恐れることはないよ、土屋さん」


 彩花の完璧な解説と優しさに、少女たちは一斉に安堵の息を漏らした。


「そ、そうだったんだ……!理子ちゃん、毎日ツリーの準備で一番頑張ってたもんね……!」


 時子が胸を撫で下ろし、水琴もメガネの位置を直して納得するように頷いた。


「なるほど……!生体保護機能に基づく不可避的な……!私が事前に構築していた負荷限界説の論理的補強として完璧な仮説です!腑に落ちました!」


「へへ、理子も案外もやしっ子だなー! アタシみたいに根性で鍛え直さなきゃな!」


 火燐が笑い飛ばすと、理子の右手にも次第に感覚が戻ってきた。ぎこちなく指を動かしてみると、先ほどの固まりが嘘のように動くようになった。


「ほんまや……動くようになったわ。嵐先輩、おおきに……!ウチ、急に動かへんくなったから焦ってもうた」


「お礼なんていいさ、土屋さん。仲間同士、助け合うのは当然だろう?」


 彩花は爽やかに微笑み、理子の頭をそっと撫でた。


 『単なる使いすぎによる一時的な』。


 彩花が紡いだ温かく優しい嘘に、少女たちは完全に救われ、心からの笑顔を取り戻した。自分たちの体が「代償」によって着実に不可逆の破壊へ向かっているなどとは、夢にも思わずに。


「さあ!気を取り直して、最後の仕上げをやりましょう!」


 アイシャの掛け声で、再び賑やかな準備作業が再開された。


 放課後の作業が終わり、ホールの明かりが消された。


 巨大なツリーの点灯テストが行われる。スイッチが入れられた瞬間――。


「「「うわぁぁぁぁ……っ!!」」」


 ホール全体が、何千、何万もの幻想的な黄金色と銀色の光に包まれている中、ツリーの頂点で輝く大きな星が、少女たちの瞳をキラキラと映し出す。


「きれい……すごく綺麗だね、みんな!」


 時子が感極まった声を上げる。


「ほんまやなぁ……!ウチらの作ったツリー、世界一綺麗やで!」


 理子が自慢げに笑い、火燐と水琴、アイシャも肩を並べてその光景に見とれていた。


 ひと通りの点灯確認を終え、大ホールの明かりが再び戻される。時子たちが「お腹すいたー!」「ラーメン食べて帰ろう!」と賑やかに片付けをしながらホールを後にしていくなか、生徒会長であるアイシャは、残った資料の確認のため一人遅れてホールを後にした。


 その頃、校舎の一角にある生徒会書記室では――。


 生徒会書記を務める眼鏡先輩こと、三年生の男子生徒――鈴木(すずき) 修(おさむ)が、机に向かって黙々と仕事をこなしていた。


 クリスマス・フェスティバルの予算案や、当日スケジュールの最終確認書類。山積みにされたペーパーワークを一人で処理しながら、修は何度も緊張でペンを止めては大きく息を吐いていた。


 胸のポケットには、幾度も書き直して丁寧に折りたたまれた一通の手紙が忍ばせられている。


「……ふぅ。そろそろ、アイシャさんの仕事も終わる頃か……っ」


 腕時計を確認した修は、意を決するように立ち上がり、分厚い書類の束を脇に抱えると、書記室の扉をそっと開けて廊下へと踏み出した。


 ひんやりとした冬の夜風が吹き抜ける渡り廊下。


 先ほどまで大ホールにいたはずのアイシャが、資料を片手に優雅な足取りで歩いてくるのが見えた。


「あ……あのっ!アイシャさん……っ!」


 物陰から飛び出すようにして、修は声を上げた。


 銀縁の眼鏡の奥で、彼の瞳は激しく泳ぎ、顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「あら、鈴木くん? こんな時間まで書記室で仕事をしていたのね。お疲れ様」


 アイシャがいつもと変わらぬ気品あふれる優しい微笑みを向けると、修は一瞬息を呑み、慌ててずり落ちかけた眼鏡のブリッジを震える指先で押し上げた。


「あ、あの……!すみません、突然……っ。その、クリスマス・フェスティバルの件で……!」


「ええ、何か不備でもあったかしら?」


「違います!そうじゃなくて……っ!」


 修は絞り出すような声を上げ、緊張のあまりぎゅっと拳を握りしめた。


「フェスティバルの当日……本番の夜、すべてのイベントが終わった後で構いません! 校舎の裏庭……旧校舎横の大きなベンチのところで、待っています!どうしても……どうしても、アイシャさんに直接お伝えしたいことがあるんです……っ!」


「……え?」


 あまりの気迫と切実な眼差しに、アイシャは一瞬だけ目を丸くした。


 修の胸の内で渦巻く、純粋で、懸命で、今にも押し潰されそうなほど切ない情熱。それが自分に向けられた「言葉にならない想い」であることを察したアイシャは、驚きをそっと胸の奥に収めると、慈しむような柔らかな笑顔を浮かべた。


「……ええ、分かったわ。フェスティバルがすべて終わったら、裏庭へ向かうわね。約束するわ、鈴木くん」


「っ……! あ、ありがとうございます……! お仕事の邪魔をしてすみませんでしたっ……!」


 アイシャの温かな承諾を得た修は、まるで世界中の光を一瞬で手に入れたかのように顔を輝かせると、深々と何度も頭を下げ、逃げるように走って去っていった。その胸ポケットの手紙と眼鏡が、夕闇の中で小さく揺れていた。


(……ふふ。大切な気持ちを伝えてくれようとしているのね。ちゃんとお話を聞いてあげなくっちゃ)


 アイシャは去り行く彼の背中を優しく見送り、再び穏やかな足取りで廊下を歩き出した。


――だが。


 走って校舎の角を曲がった鈴木修の、そのすぐ背後の暗がり。


 忍び寄る巨大な影に、彼は全く気づいていなかった。


 校舎の陰からすっと姿を現したのは、嵐彩花だった。


 彩花は手元の端末を開き、去っていく修の背中を見つめながら、冷酷な吐息とともに唇を歪ませた。


『対象名:鈴木修。被検体(風花アイシャ)に対する感情エネルギー:極大』


『精神的負荷および執着心:適合率九十二パーセント』


『――中期実験体(バフォメット・コア)としての融合実験に選定』


 彩花のブレザーのポケットの中で、不気味なウサギのぬいぐるみたちが、カチ、カチと首を狂わせ、ガラス玉の瞳をどろりとした紫色に光らせる。


「……フフ。素晴らしい感情の昂ぶりだ。君のその哀れで一途な恋心……最高の実験素材として使わせてもらうよ」


 彩花が静かに指を鳴らすと、修の進む暗闇の先から、幾重もの不気味な黒いノイズが湧き立ち、彼の背後を静かに包み込んでいった――。


 一方、少女たちが幻想的なツリーの光に見とれている陰で嵐彩花は一人、ツリーの影に立ち、手元で静かに作動する端末のメーターを見つめていた。


『被検体4(土屋理子):神経・関節の局所硬化の発生を確認』


『欺瞞(温かな嘘)による認識の固着:完了』


『適合率および崩壊速度:計画通り』


「……フフ」


 彩花の美しい唇から、誰にも聞こえない冷たい吐息がこぼれた。


「……哀れな少女たち。『ただのオーバーヒート』だと信じ込んで……笑顔で破滅への階段を登っていく」


 光り輝くツリーの根本、影になった場所に置かれた「ウサギのぬいぐるみ」が、ガラス玉の瞳を紫色に妖しく光らせた。


「……せいぜい、今のうちに温かな嘘の温もりに浸るといいさ。本当の絶望が……すぐそこまで来ているのだから」


 監査者としての冷徹な眼光を宿した彩花は、光の中で笑い合う少女たちへ向けて、何事もなかったかのように完璧な「温かな笑顔」を浮かべながら歩み寄っていった――。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

勇気を振り絞った眼鏡先輩。

クリスマス恒例イベントの匂いがしますねぇ(ノ´∀`*)

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


【読者のみなさまへのお願い】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

感想やレビューもお気軽に残していただけると嬉しいです!

次回、第22話もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。