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『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


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第20話「アイシャ派 vs 転校生派の乱」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます

 十二月に入り、鳳凰学園を包む空気は冬の鋭さを増していたが、校内はある「異常な熱気」によって燃え上がっていた。


 原因は、先日三年A組に編入してきた転校生――嵐彩花である。


「ねえねえ、今日の彩花様も格好良すぎなかった……!?体育の授業でバスケのロングシュート決めた時の流し目、私、失神するかと思ったわ!」


「分かるー!でも私、やっぱり生徒会長のアイシャ様派だもん!あの気品と優しさは学園の宝だわ!」


「何を言ってるの!これからは彩花様の時代よ!あの王子様みたいなオーラ、絶対に譲れないわ!」


 渡り廊下でも、中庭でも、さらには購買のパン争奪戦の現場でさえも、女子生徒たちが二つの勢力に分かれて熱い議論を戦わせていた。


 学園を突如として二分した一大ムーブメント――『アイシャ派 vs 転校生派(彩花様派)』のファン抗争の勃発である。


「……なんやねん、この空気は。学園全体が妙な浮かれ方しとるで」


 昼休み。中庭のベンチで焼きそばパンを頬張りながら、理子が呆れ顔で周囲を見渡した。


「場所に似合わない、凄まじい熱量だね……」


 時子がジュースのストローを咥えながら首を傾げる。その隣で、水琴が「フッ」と冷ややかな笑みを浮かべ、メガネのブリッジを中指で押し上げた。


「甘いですね、お二方。これは単なる生徒同士のミーハーな騒ぎではありません。我が鳳凰学園の権力構造とアイデンティティを揺るがす、極めて深刻な政治的政変(クーデター)の萌芽です」


「政治的政変……?水琴ちゃん、大げさだよぉ……」


「大げさではありません!生徒会長たるアイシャ先輩のカリスマ性と求心力は、我が鳳凰学園の秩序そのもの!それを新参者の転校生・嵐彩花が脅かすなど、断じて見過ごせません!」


 水琴は「バサッ!」と効果音が見えるような勢いで折りたたみ式のホワイトボードをベンチの横に設置した。どこから出してきたのか、いつの間にか指示棒まで握りしめている。


「というわけで!私は本日より『絶対的アイシャ先輩防衛決死隊』の参謀長に就任しました!目標はただ一つ!嵐彩花勢力の包囲・無力化、およびアイシャ派の絶対的勝利の確立です!」


「勝手に隊とか作るなや!参謀長って何やねん!」


 理子が即座にツッコミを入れたが、水琴は意に介さずホワイトボードに複雑な相関図と数式を書き込み始めた。オタクのスイッチが入った水琴の目が怪しく光り、早口の解説が加速する。


「見てください!現在、校内の世論調査における支持率は『アイシャ派・四十八パーセント』に対し『彩花派・四十九パーセント』!。わずか、一パーセントとはいえ、彩花派がリードしています!この原因は、嵐さんの持つ『宝塚的トップスター性』と『圧倒的王子様オーラ』にあります!


 サブカルチャーの歴史的観点から言えば、彼女の存在属性はいわゆる『男装の麗人』『学園の王子様』という古典的にして最強の属性カテゴリー!この属性は古来より乙女の脳内麻薬を爆発的に分泌させ、集団的催眠状態に陥らせる危険な中毒性を秘めているのです!オタクとしての私のデータベースに照らし合わせても、ぐうの音も出ないほど完璧な“推し”の造形……!ゴホン、失礼、論点が逸れました!」


 水琴は興奮のあまりハァハァと荒い息を吐きながらメガネをかけ直し、ビシッと指示棒を構え直した。

「だからこそ!我が軍は『アイシャ先輩の圧倒的母性と気高き美貌』を前面に押し出したブロマイド配布作戦を決行します!」


「ダメに決まってるだろぉぉ!!」


 水琴の暴走を理子が必死に止めようとしていると――。


「やあ、みんな。賑やかだね。何を話していたのかな?」


 風を切るように爽やかな声が響いた。


 振り向くと、鳳凰学園のブレザーをスマートに着こなした嵐彩花が、手に紙パックのカフェオレを持って微笑んでいた。


「あ……!嵐先輩!」


 時子が声を上げる。彩花はスレンダーな体をしなやかに躍らせ、親しみやすい笑顔で少女たちの輪の中に腰掛けた。


「ふむ……ホワイトボードに『彩花派撃滅作戦』と書かれているようだけど?」


「っ!!??な、何でもありません!!」


 水琴が素早くホワイトボードを裏返そうとしたが、あまりの慌てぶりに勢い余ってボードごと転倒し、「ガシャン!」と豪快に地面に突伏した。


「痛たたた……!計算外の物理的摩擦力が……!」


「大丈夫かい、佐藤さん?」


 彩花はすぐさま手を差し伸べ、完璧な角度と手際で水琴の肩を支えて抱き起こした。その際、彩花の美しい髪から洗練された柑橘系の香りがふわりと漂う。


「……っ!?あ……あ……」


 至近距離で彩花の彫刻のような美貌と優しい瞳に見つめられ、水琴の顔がみるみるうちに真っ赤に染まった。あまりの破壊力にメガネがズレ落ちそうになる。


「怪我はないかい?私のことでみんなを困らせてしまっているなら、申し訳ないな。学園の生徒たちが騒いでいるのは知っているけれど……私はただ、みんなと仲良くしたいだけなんだ」


 彩花はどこまでも気さくに、少しだけ切ない哀愁を帯びた魅惑的な笑みを浮かべた。一瞬で周囲を魅了するその洗練された振る舞い。


(くっ……!な、なんという圧倒的カリスマ性……!私の高度な論理的思考回路が正常に機能しません……!)


 水琴はプルプルと震えながら自分の胸を抑えた。


「よーし!嵐先輩!あたしと勝負だ!」


 そこに突如、火燐が腕まくりをして前に躍り出た。


「美輪さん?勝負かい?」


「あたしはアイシャ先輩派だからな!転校生だからって調子に乗られてちゃ困るんだよ!少林寺拳法部前副主将のあたしと、腕相撲で勝負しろ!」


「火燐!無茶言ったらあかん!嵐先輩は女の子やぞ!……あ、ウチらも女の子やけど!」


 理子が慌てて止めるが、彩花は「ふふ、面白いね」と爽やかに袖を捲り上げた。


「いいよ、美輪さん。君の情熱的なところ、嫌いじゃないな。お互い全力を尽くそう」


「へへっ、後悔するなよ!」


 ベンチの上で二人の手が組み合わされた。


「行くぞ……はっ!!」


 火燐が全身の力を込めて腕を倒そうとする。腕のチリチリとした痛みを根性でねじ伏せた、向かうところ敵なしの火燐の怪力だ。


 ところが――彩花の腕は、まるで大樹の根のようにピクリとも動かない。


「な……なにっ!?」


「ふふ……腕力には少し自信があってね。いくよ?」


 彩花が不敵に笑うと、次の瞬間、コトン、と音を立てて火燐の手首がベンチに倒されていた。


「嘘……だろ……!?あたしの筋肉が……負けた……!?」


 ガビーンとショックを受ける火燐。彩花はすぐさま表情を和らげ、そっと火燐の手を包み込んだ。


「素晴らしい筋力だったよ、美輪さん。君のまっすぐな強さ、とても素敵だ」


「あ……あう……」


 あの脳筋の火燐までもが、顔を真っ赤にしてモジモジと下を向いてしまった。


「……凄すぎる。瞬く間に二人とも攻略されてもうた……」


 理子が戦慄して引きつった笑いを浮かべる。だが、その理子もまた、右腕の筋肉が硬直することなく動いたことに密かに胸を撫でおろしていた。


「ふふ、二人とも、嵐さんと仲良くなれたみたいで良かったわね」


 そこへ、生徒会の書類を抱えた風花アイシャが優雅な足取りで歩み寄ってきた。


「アイシャ先輩!」


 時子と理子が安堵の声を上げる。


 アイシャは彩花の元へ歩み寄ると、生徒会長としての気品ある微笑みを向けた。


「嵐さん、生徒たちから聞いたわ。校内で私達二人の派閥争いのような騒ぎが起きているとか……。ごめんなさいね、貴女に迷惑をかけてしまって」


「いいや、謝る必要なんてないよ、風花さん。みんなが私達を応援してくれている証拠だ。……それにしても、君の優しさと気品には、私もいつも感銘を受けているよ」


 彩花は立ち上がり、アイシャの前に立つと、洗練された動作で手を取って軽く一礼した。


「……!あら……」


 あまりにも完璧な仕草に、アイシャも頬をかすかに桃色に染め、照れくさそうに微笑んだ。


「きゃあぁぁぁぁぁっ!!!」


「見ろよ!アイシャ様と彩花様が手を取り合っていらっしゃるぞ!!」


「ていうか、二人が並ぶと尊すぎて争うのが馬鹿らしくなってくる……!」


 陰から様子を窺っていた女子生徒たちが、歓喜の叫びを上げて次々と撃沈していく。


「あ……あれ?なんや知らんけど、抗争が平和的に解決しそうになってへんか?」


 理子がポカンと口を開ける。


「計算を超越した『尊さ』による戦術的和解……!まさか、二人の対立ではなく『共存』こそが真の解だったとは……!」


 水琴がメガネを位置に戻しながら、納得したように頷いた。


「ふふ、争いなんて似合わないものね。私達はみんな、この鳳凰学園の仲間なのだから。ねえ、嵐さん?」


「ああ、その通りだとも、風花さん」


 二人の美しき三年生が寄り添い、陽光の中で温かな笑顔を交わし合う。


 周囲の生徒たちからは大きな拍手が巻き起こり、学園内を騒がせていた『アイシャ派 vs 転校生派の乱』は、こうして見事な『両者尊い・全面講和』という形で幕を閉じたのであった。


「ふぅ……一時はどうなるかと思ったけど、平和に終わって良かったなぁ、時子」


「うん!嵐先輩もすごく優しい人だし、みんな仲良くなれて本当に良かったね!」


 時子と理子は顔を見合わせ、屈託のない笑顔を弾けさせた。


 放課後。夕暮れのオレンジ色に染まる校舎の屋上。


 生徒たちが下校し、静まり返ったその場所で、嵐彩花は一人、手すりに身を預けて風に髪をなびかせていた。


 先ほどまでの笑顔は、その端正な顔立ちから完全に姿を消していた。


 彩花は胸ポケットから静かに端末を取り出すと、画面に表示された少女たちの最新データを見つめた。

『被検体一〜五:学内における心理的安寧度の極大化を確認』


『精神的警戒心:ゼロ』


『同調率の急速な上昇を検出』


「……フフ」


 彩花の唇から、冷たい吐息とともに嘲笑が漏れた。


 その瞳は、観察対象を油断させデータを取り込む『監査者』としての冷徹な光を宿していた。


「……バカな少女たち。簡単に信じ込んで……くだらない学園ごっこに興じ、互いの絆というぬるま湯に酔いしれて……」


 彩花は冷徹な眼光で、校門を出て楽しそうにカフェへと向かう時子たち五人の背中を見下ろした。


「……笑っていられるのも、今のうちさ。いずれ訪れる監査の終着点で……君たちのその幸福な夢を、根底から叩き潰してあげるよ」


 彩花の足元、夕闇の影の中に置かれた一匹の「ウサギのぬいぐるみ」が、ガラス玉の瞳をどろりとした不気味な紫光に明滅させた。


 冬の夜風が吹き抜け、学園に訪れる破滅の足音を静かに覆い隠していった――。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

学園内紛争勃発ですっ!

それにしても彩花の求心力すごいですね~。

このまま学園を乗っ取るつもりなんでしょうか?。宝塚トップスター彩花……

夢に出てきそうですヾ(*´∀`*)ノキャッキャ

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


【読者のみなさまへのお願い】

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感想やレビューもお気軽に残していただけると嬉しいです!

次回、第21話もどうぞよろしくお願いいたします。

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