第十話「カオス全開! 鳳凰学園体育大祭は大騒ぎ』」
※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます)
どこまでも突き抜けるような、秋晴れの澄み渡る大空。
鳳凰学園の広大なグラウンドには、色とりどりのクラスカラーの旗がなびき、全校生徒の熱気と高揚感に満ちた歓声が響き渡っていた。
「――ただいまより!、鳳凰学園・秋季体育大祭を開催いたしますっ!!」
放送部の女子生徒の元気いっぱいなアナウンスがスピーカーから鳴り響くと同時に、グラウンド全体から地鳴りのような拍手と歓声が上がった。
そう、今日はついにやってきた体育祭当日!
数週間にわたる猛練習、放課後の種目決め、そして様々な準備を経て、少女たちの青春の汗が弾ける大イベントが幕を開けたのだ。
「いっよしぁぁぁぁぁッ!!ついにこの日が来たぜぇぇぇッ!!」
二年A組の応援席前で、鉢巻を頭にきりりと巻き結んだ火燐が、天に向かって力強く拳を突き上げた。橙色の体育着の袖を肩まで捲り上げ、やる気満々で全身から熱気をみなぎらせている。
「燃えてきた……!今日の目標は全種目一位!」「ついでに学園最速の座をゲットして、A組を総合優勝に叩き込む!時子、理子、覚悟しとけよーっ!」
「ちょっと火燐、朝から気合入りすぎだってばー!」
「任せたよ火燐!A組の勝ち星ジャンジャン稼いできてよね!」
同じ二年A組の女子生徒たちが、ポンポンを手にしてクスクスと笑いながら応援の声をあげる。男子生徒たちも「頼むぞ火燐!俺たちのクラスの勝ち星はお前にかかってんだからな!」と拳を突き出した。
「ふふっ、火燐ちゃん、すごく気合いが入ってるね!」
隣の二年B組の応援席から、赤組の鉢巻をちょこんと頭に乗せた時子がクスクスと笑いながら手を振った。
「私、運動はちょっとドジだから足を引っ張らないかドキドキだけど……みんなと一緒に走れるの、すっごく楽しみ!」
「時子は転んで怪我せんように気ぃつけるのが最優先やで」
時子の隣で、白組の鉢巻を締めた理子が、自分の右手をそっとグーパーと開閉しながら、いつもの呆れ顔で笑ってみせた。
「ウチらのB組も、磁力……やなくて、綿密な作戦とチームワークで優勝狙うからな!」
「あ、あの……火燐さん、準備運動もせずにいきなり全開で動くと、肉離れや乳酸の急激な蓄積の原因になりますよ……」
火燐と同じ二年A組の応援席で、体操服姿に銀縁メガネを光らせた水琴が、バインダーとストップウォッチを手にすささっと寄り添ってきた。
「すでに気温、湿度、風速のデータを計測済みです。今日のグラウンド状態における摩擦係数は完璧……物理的データに基づけば、我がA組の勝率は六七・八パーセントと算出されています」
「よしっ、よう分からんが勝てるってことだな水琴!よし、まずはウォーミングアップ代わりに、お前のその豊満な胸で今日の運勢を占う!」
「っ!?だからなぜそうなるのですか、このセクハラ獣!!」
ガシッと背後から抱きつき、体操服越しに水琴の胸をワシワシと揉みしだこうとする火燐!
「ひゃあんっ!?ちょっと、押しつぶさないでください……っ!今日は男装の補正バンデージをしていないので直接的な圧力が……っ!」
「うおぉっ!」「やっぱり最高の手触りだぜぇ!弾力が凄すぎて手が押し返される!」「これが……これがアタシのパワーの源だぁぁっ!」
「キャーッ!?火燐ちゃんまた朝から水琴ちゃんの胸揉んでるーッ!」
「女子同士だからってオープンすぎるでしょ!羨ましい……じゃなくて破廉恥だよ!」
周りのクラスの女子たちが「きゃーきゃー!」と顔を赤らめながら大騒ぎし、男子生徒たちも「うおぁぁっ、朝からなんて目の毒なんだ……っ!」と鼻血を吹き出しそうになっている。
「セクハラでドーピングするなやアホ!!」
すかさず理子からの強烈なハリセンチョップが火燐の頭に一閃!
「痛ぁぁぁっ!?理子、なんで応援席にハリセン持ち込んでんだよっ!?」
「あんたが暴走した時のための必須アイテムに決まっとるやろがい!」
「ふふ、みんな朝からとっても賑やかね」
そこへ、最上級生である三年A組の青組代表として、生徒会長のアイシャが優雅に歩み寄ってきた。
アイシャの体操服姿は、引き締まったウエストと、体操服の布地を内側から押し上げる圧倒的な胸のボリュームが露わになっており、周囲の女子生徒からも「アイシャ先輩……っ!格好よすぎるしスタイル良すぎます!」「同じ女子なのに見惚れちゃう……!」と羨望の黄色い悲鳴が上がる。
「みんな、怪我のないように精一杯楽しんで頂戴ね。……もちろん、最上級生として3年生も容赦はしないけれど♥」
「「「「お、お姉さま……(アイシャ先輩……)ッ!!」」」」
圧倒的なオーラと色気に、後輩四人は思わず目を奪われる。
怪物との命がけの戦いや、それぞれが胸に抱える不安や秘密――今日この瞬間だけは、そんな暗い影のすべてがどこかへ吹き飛んでいた。太陽の光と歓声の中で、乙女たちの全力の体育祭が始まった!
【第一種目:障害物競走——カオスとドジの障害突破!】
「第一種目、全学年女子による障害物競走です! 選手位置について!」
パンッ!!
スターターピストルの乾いた音が響き渡ると同時に、第一走者の集団が一斉に飛び出した!
走者の中には、二年B組代表の時子の姿もある。
「ふぇぇぇっ!ま、待って〜っ!」
運動神経抜群の他クラスの走者たちが疾風のように駆け抜ける中、時子は一生懸命に短い脚を回転させるが、早くも最下位争いを繰り広げていた。
「頑張れ時子ーっ!第一障害は『網くぐり』だぞ!」
応援席から火燐がメガホンで叫び、クラスの女子生徒たちも「天野ちゃんがんばれー!転ばないでー!」と手作りのうちわを振って叫ぶ。
時子の目の前に立ちはだかったのは、グラウンドに低く張り巡らされた巨大なネット。選手たちはその下を這いつくばって潜り抜けなければならない。
「よしっ、えいっ……あだっ!?」
勢いよく飛び込んだ時子だったが、案の定、体育着の裾が網の目に引っかかり、まるで仕掛け網にかかったウサギのように派手に絡まってしまった!
「あうぅ〜……っ!ぬ、抜けないよぉ……っ!」
「ちょっと時子、何やってんのや!お尻跳ね上がっとるで!」
見かねた理子が観客席から身を乗り出してツッコミを入れる。
必死にもがく時子。しかし、ドジっ娘スキルが炸裂した彼女は、解こうとすればするほど網の中でくるくると一回転し、まるでみのむしのように網に包まれてしまった。
「ふぇぇぇっ!?視界が九十度回ったぁぁっ!?」
「また回転してこけとるんかい!!」
「天野ちゃん可愛すぎるーっ!頑張って抜け出してー!」
見ている女子生徒たちから大きな歓声と笑い声が巻き起こる中、結局、通りかかった係員の女子生徒に「天野さん大丈夫?解くね」と助けてもらい、大幅なタイムロスを抱えてようやく第二障害へ。
第二障害は『粉の中の飴玉探し』!
タライの中に大量に敷き詰められた真っ白な小麦粉。その中に隠された小さな飴玉を、手を使わずに口だけで探し出さなければならない。
「飴玉……飴玉はどこ……?んぐっ!?」
思い切り顔をタライに突っ込んだ時子。
数秒後、顔を上げた時子の顔面は、髪の毛から鼻の頭まで真っ白け!
まるで歌舞伎の白塗りか、雪ダルマのような惨状になっていた。
「ぶはっ……!見つけたよぉ!」
口に小さな飴玉を咥え、白塗り顔で満面の笑みを浮かべる時子。
「あはははは!時子、顔最高や!白塗り歌舞伎役者みたいになってるで!」
理子が胸を叩いて大爆笑し、水琴もカメラを構えて「見事な微粒子の付着率……後で高画質データとして保存しておきます」とパシャパシャとシャッターを切る。女子生徒たちからも「天野ちゃん最高ー!」「シャッターチャンス!」と黄色い歓声が飛ぶ。
そのまま、時子は真っ白な顔のまま必死に走り抜き、観客席からの温かい拍手と大爆笑に包まれながら感動(?)のゴールを果たしたのだった。
【第二種目:二人三脚パン食い競争——科学と直感の暴走!】
「続いての種目、二人三脚パン食い競争です!各ペア、足を結んでスタート位置へ!」
この種目でペアを組むことになったのは、同じ二年A組の火燐と水琴だ。
「よしっ!水琴、アタシたちの絆を見せてやろうぜ!」
「いいですか火燐さん。二人三脚において重要なのは、両者の歩幅、ピッチ、そして重心移動の完全な同期です。私が『一』と言ったら左足、『二』と言ったら右足……運動生理学に基づいた規則正しいリズムで動くのです」
水琴が銀縁メガネを光らせながら、火燐と自分の足を紐でがっちりと結びつける。
「まかせろ!要は気合いと根性だろ!」
「話を聞いていましたか……?いいですか、イチ、ニ、イチ、ニ……」
位置について……パンッ!!
「イチ、ニ!イチ, ニ!完璧な初期加速度です!」
水琴の計算通り、規則正しい掛け声とともに滑り出した二人。順調にトラックを爆走し、トップ集団へと躍り出る。
「火燐ー!水琴ー!いい感じだよー!」とクラスの女子生徒たちが手を叩いて応援する。
しかし、目の前に『パン食いエリア』が見えてきた瞬間、火燐の野性の本能が爆発した。
「うおぉぉぉッ!!見えたぞ、あの香ばしい焼き立てパン!!アタシは……アタシは一番デカいあんパンを喰うぞぉぉぉッ!!」
「ちょっと火燐さん!?急激な加速度の変化は転倒を――きゃあぁぁぁっ!?」
火燐が超人的な筋肉の爆発力で水琴を強引に引きずり、音速に近いスピードで突進!
紐で結ばれた水琴は、地面から足が浮き上がり、まるで火燐の横で風になびく凧のように宙を舞う!
「イチ、ニどころじゃないですぅぅぅっ!? 物理法則が崩壊していますぅぅっ!!」
「もらったぁぁぁッ!!」
吊るされたパンのエリアへ飛び込んだ火燐は、宙に浮いた水琴の頭を足場にする勢いでジャンプ!
パクッ!!と見事な噛みつきで巨大な焼きそばパンを一発でゲット!
「獲ったどぉぉぉぉッ!!」
「だ、誰が足場ですかぁぁぁっ!?」
そのまま勢い余って二人まとめてゴール前のマットへドザザーッと派手に滑り込んだ!
「第一位、二年A組、美輪・佐藤ペアーッ!」
「キャーッハッハ!水琴ちゃん飛んでた!空飛ばされてたよ!」と応援席の女子たちが抱腹絶倒する。
「やったぜ水琴!アタシたちの完勝だ!」
「ぜぇ……ぜぇ……命の危険を感じました……。運動バカのベクトル演算は予測不可能です……」
髪を乱し、メガネを直しながらハァハァと息を吐く水琴。
しかし、火燐はニシシと八重歯を覗かせると、「よく頑張ったな水琴!」と、労うように水琴の頭を撫で……そのままスッと手を滑らせて、彼女の胸元をむぎゅっと揉んだ!
「ふぁっ!?んんっ……!?か、火燐さん、なにを……っ!」
「ひゃーっ!走り終わった後の汗ばんだ胸の手触りも最高だぜ!心臓のトクトクいう鼓動が手に伝わってくる!ごちそうさまでした!」
「この変態アスリートぉぉぉっ!!」
真っ赤になった水琴が、持っていたバインダーで火燐の顔面をドガッ!と全力でぶち叩き、応援席からは「水琴ちゃんナイスパンチ!」「火燐は反省しなさーい!」と女子たちの笑い声が巻き起こった。
【昼休み:特製お弁当タイム——乙女の愛と炸裂する食欲!】
午前の種目が無事に終了し、運動場はお待ちかねの昼休みタイムへ。
木陰の芝生の上にシートを広げ、時子、理子、火燐、水琴、そしてアイシャの五人は輪になって座っていた。
「ふぅ〜、お腹空いたぁぁぁっ!午前の部でカロリー全消費したわ!」
火燐が重箱のようなドデカいお弁当箱をパカッと開ける。中には山盛りの唐揚げ、巨大なおにぎり、そして極太のウインナーがギッシリ!
「うわ、火燐のお弁当、相変わらず茶色一色やな! 野菜食え野菜!」
理子が呆れつつ、自分のお弁当箱を開ける。理子のお弁当は、色鮮やかな煮物や卵焼き、手作りのハンバーグがきれいに整頓されて並んでいた。
「ふふん、ウチのオカン特製の『スタミナ栄養バランス弁当』や!時子、これ食べるか?」
「わぁ……!理子ちゃんのお弁当、すごく美味しそう!あ、私のお弁当も見て見て!」
時子が嬉しそうに差し出したのは――あのお弁当箱だ。
留め具が壊れ、理子が技術部の作業場で金属パーツを使って補強してくれた、思い出のお揃いのお弁当箱。
カチッと心地よい音を立ててフタを開けると、中にはお母さんが作ってくれた可愛らしいタコさんウインナーと、ふんわりとした甘い卵焼き、彩り鮮やかなお弁当が並んでいた。
「理子ちゃんが直してくれたおかげで、汁漏れも全然しなかったよ!本当にありがとう、理子ちゃん!」
とびきりの笑顔で感謝を伝える時子。
その言葉に、理子は胸の奥がギュッと温かくなるのを感じた。自分の右手が時折硬直するという不調を抱えながらも、自分が修理したものがこうして大切な幼馴染の日常を支えている。
「……おう!ウチの補強技術は完璧やからな! いくら時子が転んでカバンぶつけても壊れへんで!」
照れ隠しにニッと笑う理子。
「あらあら、とっても素敵なお弁当ね。私からも、みんなに差し入れを持っててきたのよ」
アイシャが優雅な手つきで開いたのは、三段重ねの豪華な重箱。
一段目には色とりどりの手まり寿司、二段目には高級ローストビーフ、三段目には特製のクロテッドクリームを添えた一口スコーンとサンドイッチがぎっしり!
「「「「うっわあああぁぁぁ……っ!!」」」」
豪華すぎるお弁当に、四人の目が一斉に輝いた。
「す、すごいですアイシャ先輩!これ、料亭のお弁当ですか……!?」
「ふふ、昨日の夜からみんなのために作ってきたの。さあ、遠慮しないでたくさん食べてね」
「いただきまーすっ!!」
火燐がローストビーフを一口でパクリ!
「んんん〜っ!!美味いっ!肉が口の中で溶けるぞぉぉっ!」
「この手まり寿司の酢飯の酸度と、魚の油脂分の比率……完璧な調和です……!」
水琴も頬を緩ませ、時子と理子も「美味しいね!」「最高やわ!」とお腹いっぱいに頬張っていく。
近くを通りかかった女子生徒グループが「きゃあー!見て見て、生徒会長のお弁当豪華すぎ!」「私もアイシャ先輩にアーンされたい……!」と羨ましそうに囁き合っている。
温かな木漏れ日の中、大好きな仲間たちと笑い合いながら食べるお弁当。
戦いの厳しさも、それぞれの代償の不吉な予兆も、この瞬間だけは完全に眩しい青春の光の中に溶けて消えていた。
【午後の部:騎馬戦——欲望とプライドが激突する戦場!】
昼休みが明け、グラウンドには独特の緊張感が漂っていた。
「午後の部、花形種目!学年対抗・女子騎馬戦の開始です!」
紅組、白組、青組の陣営に分かれ、グラウンド中央に無数の騎馬が集結する。
ルールは簡単。敵陣の鉢巻を奪い合い、最後まで騎馬を維持したチームの勝ちだ。
二年A組&B組の連合騎馬の陣形はこうだ。
馬台を務めるのは、
圧倒的な脚力を誇る火燐(前)
冷静な分析力で足元を支える水琴(左)
器用なバランス感覚を持つ理子(右)
そして、その騎馬のトップに立つのは――天野時子!
「ええっ!??わ、私!?私が上なの……!?落ちちゃうよぉぉっ!」
三人の肩の上に乗り、グラグラと震える時子。
「大丈夫だ時子!アタシがガッチリ足を固定してやるから絶対に落とさねぇ!」
「物理的重心のバランスは私と理子さんで完全に制御します。時子さんは敵の鉢巻を狙うことだけに集中してください」
「せやで時子!ウチらに任せとき!」
「天野ちゃん落ちないでねー!」「2年ファイトー!」とクラスの女子生徒たちも身を乗り出して叫ぶ。
頼もしい仲間たちの言葉に、時子は「う、うん……!私、頑張るよ!」と鉢巻をきゅっと締め直した。
一方、グラウンドの反対側には――恐ろしいまでの圧迫感を放つ騎馬が立ち塞がっていた。
三年生の絶対女王、風花アイシャ率いる青組最強騎馬!
アイシャは騎馬のトップに立ち、体操服の胸元を風になびかせながら、優雅に微笑んでいる。
「みんな、準備はいいかしら?お姉さんを倒すつもりで、全力で来なさいね♥」
「うおぉぉぉっ!アイシャ先輩の騎馬、胸の揺れで空気抵抗が増加してるはずなのに圧倒的な存在感だぜ……!」
火燐が目をギラつかせる。
「――易者、位置につけ!……ハッケヨイ、残った!!」
太鼓の音が響き渡り、両陣営が一斉に激突した!
「ウオォォォォッ!!突撃ぃぃぃッ!!」
火燐のエンジン全開の推進力で、二年騎馬が猛スピードで敵陣へ突入!
「右から来ます!」
「理子さん、ステップを左へ三〇センチシフト!」
「おっしゃ、任せろ!」
水琴の的確なナビゲーションと理子の素早い足さばきにより、次々と襲いかかる他クラスの騎馬を回避&撃破していく。
「時子、今や!左の鉢巻奪え!」
「えいっ!」
時子が必死に手を伸ばし、すれ違いざまに他クラスの鉢巻をパシッとゲット!
「やったぁ!取れたよ理子ちゃん!」
「上出来や時子!この調子でいくで!」
破竹の勢いで敵をなぎ倒していく2年連合騎馬。しかし、ついに正面から、あの絶対女王の騎馬が立ちはだかった!
「あら、さすがねみんな。でも……ここからが本番よ」
アイシャが目を細め、長い腕をすっと伸ばして牽制してくる。
「アイシャ先輩……!アタシたちの絆パワー、見せてやるぜ!」
火燐が脚に力を込め、アイシャの騎馬へ一直線に肉迫!
「時子さん、アイシャ先輩のリーチは長いです!上体を四十五度倒して回避してください!」
「ひゃうっ!?」
水琴の指示通り、時子がギリギリで体勢を崩してアイシャの手を回避!
「へへっ、隙ありだアイシャ先輩ッ!」
火燐が強引に間合いを詰め、時子を相手の懐へと押し込む!
時子は必死に手を伸ばし、アイシャの頭の鉢巻へ指をかけた――その時!
ぐらっ……!
不意に、騎馬の右側を踏みしめていた理子の右足と右手に、あの嫌な冷たい衝撃が走った。
「……ッ!? (嘘やろ……今、なんでこのタイミングで……!?)」
理子の右手の関節が、まるで錆びついたギアのように『ジジッ』と強張って固まる!
一瞬、右側のバランスが大きく崩れた!
「きゃあぁぁぁっ!?」
トップに乗っていた時子の身体がグラリと傾き、空中へ投げ出されそうになる!
「時子っ!?」
「しまっ……重心が崩壊――っ!」
崩れかける騎馬!
だが、その瞬間――火燐と水琴、そして硬直に耐えた理子の三人が、驚異的なチームワークで互いの身体を支え合った!
「倒れさせるかよぉぉぉっ!!」
火燐が超人的な筋力で理子側を強引に持ち上げ、水琴が「流体力学無視の復元力ッ!」と叫びながら足場を固定!理子も必死に歯を食いしばり、固まる右手に死ぬ気で力を込めて踏みとどまった!
「うおぉぉぉぉぉッ!!」
崩れかけた騎馬が、奇跡的に持ち直す!そして、空中へと倒れかけた時子の手先が、偶発的に――アイシャの体操服の胸元へダイブした!
たぷんっ……♥
「ふぇ……?」
時子の手が、アイシャの規格外の柔らかさを誇る豊満な胸に、深々と埋もれた。
「あ……あら……?時子ちゃん……そこは……♥」
アイシャが思わず頬を赤らめ、一瞬だけ動きを止めた。
その一瞬の隙を、ドジっ子時子は見逃さなかった(無意識で)!
「ひゃああああっ!ご、ごめんなさいアイシャ先輩ぃぃっ!」
パシッッ!!
パニックになった時子がバタバタと振った手が、偶然にもアイシャの頭の赤鉢巻を鮮やかに掠め取り、そのまま握りしめた!
シーン……と静まり返るグラウンド。
「……と、取れた……?」
時子がポカンと手の中の赤鉢巻を見つめる。
直後、審判の先生が笛を思い切り吹き鳴らした!
ピーッ!!!!
「勝者!二年連合チーム!!3年生女王騎馬、討ち取ったりーっ!」
「「「「うわあああぁぁぁぁぁぁっッッ!!!???」」」」
グラウンド全体の女子生徒・男子生徒から、地鳴りのような大歓声と黄色い悲鳴が爆発した!
「きゃあああーっ!天野ちゃんすごーいっ!」
「アイシャ先輩を倒したぁぁぁっ!」
応援席の女子たちが抱き合って大騒ぎする。
「やっ……やったぁぁぁぁッ!勝った!勝ったぞぉぉぉッ!」
火燐が大狂乱して跳ね上がり、水琴も「計算を超えた奇跡です……!」とメガネを光らせて笑った。
「まったく……ひやひやさせおって……ドジも極めれば武器になるんやな」
理子が汗を拭い、ホッと安心したように笑う。右手の硬直はすでに消えていた。
「ふふ……参ったわね。まさか胸を揉まれて隙を作られるなんて……時子ちゃん、意外と大胆なんだから♥」
アイシャが茶目っ気たっぷりにウインクすると、時子は顔を真っ白から真っ赤に染め直して「ち、違いますぅぅぅっ!事故ですぁぁっ!」とぶんぶんと手を振って謝り倒したのだった。
【最終種目:クラス対抗選抜リレー——汗とバトンと意地の激突!】
陽が傾き始め、グラウンドが美しい黄金色の夕暮れに染まる頃。
体育祭のフィナーレを飾る『クラス対抗選抜リレー』の時間となった。
トラックの各コースに走者たちが並び、観客席の女子たちもポンポンを振って身を乗り出す。
「さあ、本日最後のプログラム!クラス対抗選抜リレー!各クラスの意地とプライドをかけた最終決戦です!」
各チームのランナー構成はこうだ。
第一走者は、各クラスの俊足モブ男子&女子たち。
第二走者は、水琴(二年A組)と時子(二年B組)。
第三走者は、理子(二年B組)と――生徒会副会長でもある、三年代表の真面目な『眼鏡君(生徒会書記)』!
そしてアンカーを務めるのは、学園最速を誇る火燐(二年A組)と、絶対的エースのアイシャ(三年A組)だ!
「位置について……」
静まり返るグラウンド。緊張が極限まで高まる。
パンッ!!
「スタートーッ!!」
爆音とともに第一走者が一斉に飛び出した!
「走れーっ!いけーっ!」
「負けるな二年ーっ!」
猛烈なデッドヒートの末、バトンは第2走者の時子と水琴へ!
「時子!頼んだ!」
「はいっ!いっきまーす!」
バトンを受け取った時子が、短い足を一生懸命に動かしてトラックを走る!
その隣を、水琴がメガネを光らせながら並走する。
「時子さん!現在のピッチ数をあと一五パーセント上げれば、風圧の影響を最小限に抑えられます!」
「水琴さん、走りながら計算しててすごいよぉっ!」
二人が励まし合いながら見事なコーナーリングでバトンをつなぎ、バトンゾーンへ!
「頼んだよ、理子ちゃぁぁぁん!」
時子からバトンを受け取ったのは、第三走者の理子!
そして、同時に三年生のバトンゾーンでバトンを受け取ったのは――黒縁メガネをピシッと押し上げた生徒会書記の『眼鏡君』だ!
「土屋!生徒会の名誉にかけて、あなたたち二年生には負けませんよ!」
眼鏡君が超真面目な顔で、長身を生かした綺麗なフォームで一気に加速!
「へっ!生徒会でいっつも書類仕事しとるからって、ウチをナメてもらっちゃ困るわ眼鏡先輩!ウチの『放課後のなんでも修理屋』の足腰見せたる!」
理子が歯を剥き出しにしてニシシと笑うと、一気にスパークするようなダッシュを敢行!
「なっ……速い!?あの土屋がこれほどのスプリンターだったとは……!」
「理子ーっ!そのまま抜いちゃえーっ!」と2年B組の女子たちが黄色い声援を送る。
「眼鏡先輩!ウチは生徒会の書類整理の時も密かに鍛えとんのや!負けるかいなぁッ!」
第3走者のトラック上で、理子と眼鏡君による熾烈な並走バトルが繰り広げられる!
「ぐぬぬぬ……!花風会長へ、最高の形でバトンを渡すのが私の使命……!」
「アイシャさん……うおおおおおッ!!」
眼鏡君が意地でメガネをピシッと押し直し、必死のギヤチェンジ!
「甘いわ!ウチらの絆は伊達やないんよ!!」
理子もコーナーで内側へ強引に切れ込み、並びかけた眼鏡君をコンマ数秒差で抑え込む!
「理子ーっ!カッコいいーっ!」と女子生徒たちも大興奮!
理子と眼鏡君はほぼ同時にバトンゾーンへと飛び込んだ!
「頼んだぞ火燐ッ!」
理子の叫びとともに、バトンはアンカーの火燐へ!
「風花会長!申し訳ありません、後をお願いします!」
眼鏡君の必死のバトンが、絶対的エースのアイシャへ!
「おおおぉぉぉぉッ!!いっくぜぇぇぇッ!!」
火燐の全身の筋肉が爆発!まるで炎を纏った弾丸のような超加速で、前方のランナーを次々とごぼう抜きにしていく!
しかし、その遥か前方――独走していたのは、風のようにしなやかに走る3年のアンカー、絶対女王アイシャだ!
「追いついてみせなさい、火燐ちゃん!」
アイシャが振り返り、美しいウェーブ髪を夕陽になびかせながら微笑む。
「言われなくても……ぶっ千切ってやるぜぇぇぇッ!!」
火燐の瞳に燃え上がる野生の炎!
脚が地面を蹴るたびに、土煙がブワッと舞い上がる。
ラスト百メートル!
火燐とアイシャ、二人の少女が並んだ!
「おおおぉぉぉぉッ!」
「はあああぁぁぁッ!」
全校生徒の地鳴りのような声援の中、二人は胸を張り出し、ほぼ同時にゴールテープへ飛び込んだ!
ドォォォォンッ!!
静寂。そして――。
「審判の判定が出ました!……第一位、同着!!二年A組、および三年A組ーッ!!」
「「「「うわあああぁぁぁぁぁぁっッッ!!!!」」」」
グラウンド全体が、この日一番の大歓声に包まれた!
「はぁ……はぁ……すっげぇ……アイシャ先輩、マジで速いスね……!」
大の字にトラックへ倒れ込んだ火燐が、息を荒くしながら天を仰ぐ。
その隣に、同じく爽やかな汗を拭いながらアイシャが腰を下ろした。
「ふふ……本当にすごいわ、火燐ちゃん。私、本気で走ったのなんて何ヶ月ぶりかしら」
二人は顔を見合わせ、晴れやかに笑い合った。
その横で、激走を終えた眼鏡君が膝に手を当ててハァハァと息を吐きながら、理子に向かって爽やかにメガネを押し上げた。
「……見事な走りでしたよ、土屋さん。文句なしの敗北(同着)です」
「ふふん、眼鏡先輩も案外やるやんか。今度生徒会に行く時、ジュース一本奢ったるわ!」
理子がニッと笑って親指を立てると、眼鏡先輩も「楽しみにしていますよ」と微笑んだところに時子と水琴の二人が駆け寄ってきた。
「火燐ちゃん!アイシャ先輩!理子ちゃんもみんなすごかったよーっ!」
「理子さん、素晴らしいコーナーリングでした……!データ通りの完璧なライン取りです!」
駆け寄ってきた仲間たちを、火燐が「お前らーっ!」と両腕を広げて豪快に抱きしめた。
「きゃあぁぁっ!?」
「ちょっと火燐、汗くさいわ!」
「ひやんっ!?だ、だからドサクサに紛れて胸を揉まないでくださいぃぃっ!」
抱きついた勢いでまたしても水琴の胸を揉みしだく火燐!
周りの女子生徒たちも「また揉んでるー!」「火燐ちゃんセクハラー!」と爆笑し、みんなの弾けたような歓声が夕暮れのグラウンドにどこまでも響き渡っていった。
すべての競技が終了し、表彰式を終えた後の誰もいなくなったグラウンド。
橙色と紫色のグラデーションに染まる秋の空の下、五人の少女たちは朝礼台の階段に並んで座り、冷たいジュースを飲みながら夕空を見上げていた。
「ふぅ〜!終わっちゃったなぁ、体育祭!」
火燐が缶ジュースをプシュッと開け、ゴクゴクと喉を鳴らす。
「最高に楽しかったな!総合優勝は逃したけど、同着一位取れたし大満足だぜ!」
「ほんま、あんたの暴走には付き合わされる方の身にもなってほしいわ」
理子が苦笑しながらジュースをすする。その右手は、今は何事もなかったかのように温かく、自由に動いていた。
「でも……楽しかったですね。データや計算だけでは測れない熱量というものを、身をもって理解できました」
水琴がメガネをそっと外し、夕陽に細めた瞳を和ませる。
「ふふ、みんなのおかげで、最高の思い出ができたわ。生徒会長としても、一人の女子高生としてもね」
アイシャが時子の頭を優しく撫でる。
時子は、手の中の冷たいジュース缶を見つめながら、そっと胸に手を当てた。
指先がすり抜けることもない。身体が透けることもない。
今、自分の隣には、大好きな仲間たちがいて、みんなの温かい体温と笑い声がここにある。
「ねえ、みんな」
時子がぽつりと呟いた。
「私……今日のこと、絶対絶対に忘れないよ。みんなと一緒に走って、転んで、笑い合ったこと……全部、私の宝物だよ」
「……当たり前やんか、時子」
理子が優しく微笑み、時子の手をギュッと握りしめた。
「忘れるわけないやろ。これからも、来年も、さ来年も……ウチらはこうやって、ずっと一緒に笑うんやからな」
「おうよ!次は文化祭だ!またみんなで大暴れしようぜ!」
火燐がニッと八重歯を輝かせる。
「はい。文化祭の模擬店売上データも、私が完璧に予測してみせます」
水琴も静かに微笑む。
「ええ、みんなでずっと……一緒よ♥」
アイシャがみんなを包み込むように抱きしめた。
夕陽の光が、五人の少女たちの影を長く長くグラウンドに伸ばしていく。
重ね合わされた五つの影は、決して離れることなく、固く固く結ばれていた。
明日からまた、残酷な運命の歯車が動き出すとしても。
この秋の空の下で交わした少女たちの弾ける笑顔と温かな絆は、決して消えることのない「本物の光」として、彼女たちの胸の中で輝き続けていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
いろいろなことがカオス全開です。
楽しい一時を存分に楽しんでください。
魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!
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