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それがレティスに撃たれた痛みだとすぐには理解出来なかった。それだけ予想外の出来事。
「っ!?」
痛みに蹲るルキナが見上げる先にいるレティスは大きく目を見開いたまま震えている。
「お父さんもお母さんも大事だから‥‥」
初めて撃った銃の反動、そして自分の行いによって流れる血を見て平静を失っている。
やがてその目からは涙が流れ始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい‥‥」
やりたくはなかったが家族を守る為に必死で勇気を振り絞った、それがよく分かる。
これで罪悪感に押し潰される人間が母の死に協力しているなんて思えない。事ここに至ってようやくルキナは自分が間違っていたのだと気付いた。
レティスは本当に何も知らなかった、なのに誤解して殺そうとまでしていた自分が恐ろしい。
ただ優しいだけだったレティスにこんな真似をさせてしまった事が許せない。
自分は何をしているんだろう?
ルキナはレティスの手からこぼれ落ちた銃を拾い自分の頭に向ける。
疲れた、結局最後はそれだけ。
殺すのも殺されるのも、泣くのも泣かれるのも嫌だ。
全部終わりにしよう。
ヴァンスが大事にする家庭で血を流し一生落とせぬ汚れとして刻みつけるだけでもそれなりに復讐にはなる。
「ごめん‥‥母さん」
中途半端に終わってしまうことを謝罪。母さんならこんな男でも殺すなと言ったに違いない。
ルキナの精神面はどうやらあの男に寄ってしまったようだ。
この身体を流れる穢れた血ともこれでお別れ、清々する。
「今、そっち行くから」
天に向けた言葉はきっと叶わないと知っている。
人を殺した自分は同じ場所には行けない、罪の対価として死後も夢見た暮らしは訪れない。
分かっていた事、全部承知で復讐に動いた。
それでも願わずにはいられない。
大好きな人とただ普通の暮らしを送る、それがルキナがずっと追い続けた夢だから。
「残念だがそれは延期だ」
背後から聞こえた声は瞬く間に実体を持ちルキナから銃を奪い取ってしまった。
「払うものを払い終えるまで勝手は許さないとあいつが言っている」
颯爽と現れ悠然と立つ人物が指差す先からはふらふらと揺れるシルエットが近づいてくる。
その輪郭が明確になる前にルキナにはそれが誰だか分かっていた。
どうしようもない人間ですら見捨てられないお人好し、ルキナに希望を与えた人物。
一方はいまいち感情が読み取れずもう一方は心配になるくらい直情的な不揃いな二人組。
「はぁはぁ‥‥‥どういう‥‥状況?」
ずっと走ってきたのか汗だくで肩で息をしている。
「安心しろ。こいつが死のうとしていたのを止めてちゃんと伝えておいた。死ぬのなら金を返してからにしろと」
「その説明だと私が金の亡者みたいじゃない!‥‥‥‥‥っていうか死のうとしてたのっ!?」
どこか能天気にも聞こえる声は死が混じった張り詰めた雰囲気を吹き飛ばしてしまう、それがアリアという人間。
「あんたが指示したの?」
助手の手の中で一瞬で解体されてしまった銃を力無く眺めながらルキナはアリアに訪ねると「そう」と首を縦に振る。
何の為に?‥‥そんな問いが口から出かけてやっぱりやめた。
聞くまでもない。自分を襲った犯罪者さえ救ってしまうアリアが考える事なんて命を救う為に決まっている。
「待て、違うぞ」
アリアに対して助手が真剣な面持ちで異論を唱える。
「先輩は私だ、指示をされたという表現では私の方が立場が下に聞こえてしまう。頼みを聞いてやったという表現の方が正しい、訂正を求める」
なんて事をこの状況で真顔で訴えている。
この場の空気なんて考えない緩んだやりとりが展開されている。
「助手、今はそこじゃないの」
息を整えたアリアは助手を適当にあしらいルキナと向かい合う。
「こんな場所まで取り立てに来るとか、金を借りる相手を間違えたかな‥‥」
「私かなり執念深いからどこまでも追いかけて行く、逃げられるだなんて思わないことね」
知っている。警察に頼りもせずに家まで押し掛けてくる積極性を持ち合わせているのがアリアだった。




