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「行こう」
アリアの差し出した手がルキナの目の前に。
変わらない。この状況を見てもルキナにお金を貸すと言ったあの時と笑顔を向けてくる。
だが何もかも変わってしまったルキナにその手は取れなかった。
「行くところなんて一つしかない、だからもう邪魔しないでよ‥‥助けようとしないでよ‥‥‥お願いだからもう逃げさせて‥‥」
そう言ってルキナは泣いていた。
その姿に死にたいと叫んで泣いていた昔の自分が重なる。
同じだから分かる、その涙に溶け出した感情がどんなものか。
「逃がさない」
アリアはルキナを抱きしめる。
「分かるよ。逃げること‥‥死ぬ事が一番楽な方法だと思ってるんでしょ? でもね、それは甘く見過ぎ、いざその瞬間が迫った時に考えるのは死んだ後の解放感じゃなくて死ぬまでの苦痛と恐怖。それってとっても怖いんだよ」
「それくらい堪えられる‥‥」
「無理だよ。そんな風に泣いてる様な人間には絶対に無理」
「泣いてしまうほど絶望してるからこそ出来るんじゃないの?」
「本当に絶望してる人は多分無気力なんだよ。涙を流す気力も恐怖する本能も無くしちゃうから最後の一歩を踏み出せてしまう。涙は未練なんだと思う、それ自体が死にたくないっていう証。だから最後の最後に泣いてしまう様な人は結局恐怖に負ける」
「なんであんたにそんなこと分かるんだよ?」
そんなの死を望んでしまうほどの辛さを経験した事がある人間にしか分からない。
「分かる」
ルキナがこれまで出会ったこともないくらい前向きなアリアから自殺なんて負の要素は想像出来ない、なのにまるで経験した事があるみたいな確信を持った目をアリアはしている。
その自信がどこから来ているのか、アリアが腕を捲ったことで理解した。
「あんた‥‥」
「私も同じだから」
露わになったのは手首に残る痛々しい傷の数々、それこそが絶望の淵に立っていたという証明。
ルキナが持った印象とは正反対の暗闇に隠された傷。
いつかお嬢様だと馬鹿にした自分が恥ずかしくなる。アリアという女の子は自分なんかよりよっぽど強かった。
ルキナには同じ事をする自信が無い。今ある痛みを乗り越えて前を向いて生きて行くなんて。
「言葉で何を言ってもどうせ何も聞き入れないのも分かってる、だから強引に連れてく」
いつしか助手がしたみたいに無遠慮に拒絶を無視してアリアの手がルキナの手を捕まえる。力強くて少しだけ痛い、その痛みこそがアリアの思いの強さ。
死ぬ以外にも救われる道はあるのかもしれないと希望を与えてくれる力を持っている。
その痛いくらいのしつこさにルキナは敗北した。
生きて行く自信も無ければ死ぬ自信も無い、だから今はこんな場所までやって来てしまう程お節介で馬鹿みたいに親切な人の背中を見ていた方が楽だと思えたからその手に引かれて立ち上がった。




