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ヴァンスの妻が対応するが首を傾げている。
「どうかした?」
「それが誰も映ってなくて」
ヴァンスも確認するがインターフォンに映る映像には誰の姿も映っていない。
「間違って誰かが押したんだろ」
そんな事もあるだろうと大して気にせずに流そうとした瞬間、またインターフォンが鳴る。
そしてそこにはやはり誰も映らない。
不安そうな表情を浮かべる妻を安心させたくてヴァンスは努めて明るく「大丈夫」と言って肩に手をやる。
「ただの故障だろう、ちょっと見て来る」
そして玄関の鍵を開け扉を開いた瞬間、顔に強烈な痛みが走った。
何か硬い物が顔にぶつかった様な衝撃に鼻からは血が流れている、だが周りを確認しても何も無い。何が起きたか分からずに尻餅をついたまま呆けているヴァンスの目の前に答えは突然姿を現した。
「どうもヴァンス先生」
何も無い空間から現れた女、それはヴァンスが今最も会いたく無い人物。
「ルキナ‥‥」
手にした銃の銃口がヴァンスに向けられている。
何が起きたのか理解出来ずにいたがひとつだけ分かることがある。今現在、ヴァンスの身に、そして家族の身には危機が迫っている。
「何で私がこんな場所まで来たのか、あんたなら分かるでしょ?」
「待ってくれ、何が何だか分からない! ルキナさん、君はお母さんを失った悲しみで混乱してるんだ。落ち着いて話し合おう」
「失った‥‥ですって?」
その一言で狂気の質が変わる。
月の様に静かな狂気は太陽の様に燃え滾る狂気へと。
「ふざけんなっ! お前が奪ったんだろうが!」
その怒りがいつ銃弾に変わって飛んできてもおかしくない状況。
「あなた、どうかしたの?」
そんな最中に間の悪いことに妻が姿を現し目の前の光景を見て顔面蒼白、しかし恐怖よりも愛が勝ったのか咄嗟に旦那を庇う様に覆い被さる。
「随分と愛されてるじゃん」
「頼む、妻には手を出さないでくれ!」
「そんなに大事なんだ? じゃあ隠し事は良くないよね、全部教えてあげようか? 何でこんな状況になってるのか、それに私とあんた関係をさ!」
ただの強盗だと思っていたのだろうヴァンスの妻は「どういう事?」とヴァンスを見てそれからルキナに視線を向ける。
「その男はあんたを裏切って別の女のところに行ってたそれで━━━」
「違う‥‥」
「その人との間に出来たのが私」
「デタラメだ、こいつの話は全部デタラメだ!」
「本当にデタラメだったら良かった‥‥‥あんたみたいなクズ人間と血が繋がってるなんて事実」
こんな醜悪な血が半分流れている、その事実だけで吐き気がする。
「嘘よ。私は夫を信じる」
置き物みたいに固まって話を聞いていたヴァンスの妻の目には意志が戻っている。
そこにあるのは信頼か、そう思わせる程の態度を示してきたのだろう。
一方はゴミの様にあっさり捨てて一方は宝物の様に‥‥‥。
妻の方に恨みは無かったから放置しようと思っていたがこうも見せつけられると同種に見えてくる。
銃口はゆっくりと妻へと向いた。
「やめろ‥‥やめてくれ」
「今度は私が大事な人を奪われる痛み‥‥教えてあげようか?」
ルキナ達へは向けなかった本物の愛がある、それが最大の痛みに変わるのはなんて皮肉だろう。
引き金に指をかける。
復讐の道具として大して恨みも無い人間を殺そうとしている、でも仕方ない。悪人を守るのならそいつも悪人、ならば殺してしまっても問題無い。
これから先に意味を見出していないルキナにとって奪う命が一つ増えるくらいどうでも良かった。
「やめてっ!」
またしても銃の前に立ち塞がる姿が、次から次へと‥‥‥本当に美しい家族愛だこと。
「どういうつもり、なんでこんな事するの!?」
痛みに堪える様に、そして糾弾する様な怒りと悲しみが混在した目がルキナに向けられていた。
「ねぇ答えて!」
誰にだって慈悲深く誰であっても平等に接する、良い子のお手本みたいな子。
正義の名の下の怒りしか知らないような善性に満ち溢れた子が声を張り上げている。
それが彼女の本質なんだと思っていたが今のルキナは知っている、それが全て嘘だという事を。
正義がどうとか口にしていたって人間なんて所詮は自分の事しか考えられない、自身の生活を脅かすような相手が現れればそれを悪として排除する。
「正義の為だよ」
自分都合の正義、それは悪と呼ばれる独善。
「そういうの好きでしょ? レティスは」
立ち塞がる人物の名前を呼ぶ、友達としてではなく悪として。




