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手を引かれ連れて来られたのは外れにある集合住宅‥‥と言っても既に住人は立ち退いた後で完全に廃墟と化している。
「此処に住んでるんですか?」
「いえ、住んではいない。単純に人目が少なくて色んな作業がしやすいから選んだだけ。仕事柄人目に付くわけにはいかないから」
「それってどんな仕事なんですか?」
「殺し屋」
「‥‥殺し屋?」
「そう‥‥怖い?」
平然とそんな答えが返って来る。
言動からは血生臭さを感じないのにこの人の白い肌を這う朱い血を容易に想像出来てしまう。
とても幻想的。
そこに狂気は無く血すらも自身の装飾品に変えて魅力を高める魔性を持っている。
「‥‥いえ」
殺し屋なんていう職業の人と二人きりで人気の無い建物の中にいるのに怖さは無い。
寧ろこの人に殺されても良いくらいにルキナは思っていた。
命を大事に思える程これからの人生に価値を見出してなんかいない。
「無理しなくて良いのよ。殺し屋なんて言ったら聞こえはいいけど要するにただの殺人犯‥‥いえ、それよりも質が悪い。主義主張も無くお金の為に人を殺せるのは人間の命をそれ以下に見ている証拠、まだ対等な人として見ている殺人犯の方がマシでしょう」
「どっちにしろ人を殺すのは良くないと思います。殺し屋や殺人犯からするといくらでも替えの利く商品なのかも知れないけどそれが無いと生きられない人だっている、命の価値は人によって全然違いますから」
「だったら殺し屋や殺人犯を殺すのは? 私も含めてだけどそういう人でなしに生きる価値はあるのかしら?」
「人の命の価値は人には決められませんよ」
正直もう他人の命なんてどうでも良い、それが本音だけどついつい綺麗事を言ってしまった。存在が汚いから心くらいは普通に見せないといけない、そんな癖が染み付いてる。
何回か階段を登って埃っぽい廊下を少し歩いたところで止まった。
「そういう意見も否定はしない。結局見る角度で全然違ってくるものなんでしょうから正解なんて無いもの。大量殺人犯だって見方を変えれば環境汚染を進める人間の数を減らしたと讃えることだって出来る」
塗装が剥げ落ちて錆が露わになった扉の前、ドアノブに手をかけその人は言う。
「正解が無いから間違いも無い。一般論にとらわれずにあなたが見聞きした事実で価値を測っても悪いことじゃない」
ぎいっと音を立てて扉が開く。
「あなたに決めて欲しいの。この人間に生きている価値があるかどうかを」
小さな部屋の真ん中で二人の男がロープで椅子に括り付けられていた。意識を失っているのか項垂れたまま動かない。
部屋や身体には暴力の痕跡が血飛沫として残っている。
「何を‥‥‥」
それ以上言葉が出ない。
日常から外れた異常な光景。薄暗い世界に足を踏み入れてきたルキナでさえ顔が引き攣ってしまう。
喧嘩で流れる血は見てきたが拘束され血を流している状態の人間なんて見たことがない。
「酷いと思う? でもあなたが哀れむ必要は無い、というより一瞬でもそんな真似をした自分を許せなくなるからやめておきなさい」
「‥‥どういう、意味ですか?」
「その男達があなたの母親を殺した。そんな人間に同情する必要無い」
ここに来てようやくルキナは気が付いた。
死んだという現実が重すぎて、衝撃的で頭が真っ白になって大事なことに目を向けていなかった。
母は何故死んだのか?
その事実がもし言う通りだったとしたら‥‥。
「証拠はあるんですか?」
ルキナが聞くと容赦無く男の頭から水を掛けて目を覚まさせる。ルキナに対しての優しさと男に対する荒々しさの差が激しすぎて別人の様に見えてしまう。
目覚めた男は開口一番「助けてくれ」と命乞いをした。
酷く怯えている。大の大人をここまで怯えさせるなんて一体何をしたのかルキナには見当もつかない。
「じゃあ真実を話しなさい」
「何度も話しただろっ。俺たちは依頼されたから仕事をしただけだ!」
「何をしたの?」
「入院している患者を窓から突き落として殺して欲しいって言われたからその通りにしただけだ!」
こいつらが殺した。
その事実を知った瞬間、目の前にいたはずの人間は消えてただの汚物に変わった。
視界に入るだけで腹の底から湧き上がる不快感が身体を支配して原因を取り除こうと突き動かす。
一歩、自然と足が男に向かって行くルキナを殺し屋の女性が止め耳元で「落ち着いて」と囁く。
あまりの怒りでとにかく痛め付けてやりたい思いが先行したけど、そうだ‥‥こいつらは依頼されたと言っていた。憎むべき相手は他にもいる。
「誰に?」
殺し屋の女性に尋ねられた男は飼い慣らされた犬の様に従順に答える。
「ヴァンスとかいう野郎だよ! あの病院で医者してるからって忍び込む手配も全部あいつが整えた」




