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「今のところ飛び降り自殺の可能性も視野に入れて捜査中」
便利屋の事務所でリジルは珈琲片手に捜査状況をぺらぺらと喋っている。
ルキナの母親の死から三日、解決を急ぎたい警察は安易な方に向かって終息させようとしている。
「違う、あれは他殺だ無能め」
非難するような冷たい殺意すら込められているんじゃないかと錯覚してしまう視線でリジルを見てレアリスは否定する。
「と言っても動機のある人間が見つからない、ほとんど人との関わりもなかったみたいだし。不審な点は確認されたけど近くの監視カメラは事件の二週間も前から故障してて何も映って無いからなぁ〜」
「だったら他を見つけるのが仕事だろ間抜けめ」
「分かってるさ、だからきりきり働いて見つけたよ。亡くなった人の病室の前の廊下に怪しい人物が何日も続けていたって目撃情報がね」
そこまで言ってリジルは助手の方に視線を向ける。
「特徴は金髪にサングラス、声を掛けても『問題無い』って一言二言しか返さななくて人形みたいにずっと同じ場所に佇み続ける不審者が」
「それは私だ、不審者ではない」
包帯を巻いた痛々しい姿なのにまるで何も無いみたいに涼しい顔をして助手が答える。
「君が不審者扱いされてるって事だよ。事件当日にも居たみたいだけど何をしていたのかな?」
「私が指示したからだ」
リジルの問いかけに答えたのはレアリス。
助手は彼女の指示で動いていた。
「ルキナが母に依存していたのは知っていたからな。そういう人間を壊す方法は簡単、支えを取り払ってしまえばどこまでも堕ちて行く、だからこそそこが狙われると判断してこいつを付けた」
「‥‥ルキナ、唯一の親族。彼女には聞きたい話もあるから探してるんだけど現在行方不明。僕はてっきり君が匿ってるんだと思ったんだけどね」
「居ない。それに居たとしてもお前達には会わせない。容疑者として見ている連中にはな」
「容疑者と言うほどでも無いんだけどなぁ。彼女が転落した時にルキナが別の場所にいたのは確定してるし‥‥‥ただ、前に言い合うような声を聞いた人もいるらしいからちょっと話を聞きたかっただけだよ」
「それでルキナが殺し屋でも雇ったと?」
「病気で動けず人付き合いも無かったみたいだし自殺じゃないとするなら彼女以外に動機がある人間がいない。色々悪い事をしてたみたいだしそういうパイプはあったんじゃないかと疑う人もいるんだ。母親が死んですぐ失踪してるのも怪しいし‥‥‥でも、落ちた女性には自殺願望があったって証言もある。それを裏付けるみたいにこれ見よがしに靴が綺麗に揃えられて遺書らしきものも置いてあって怪しさ満点だけど一応自殺という線も捨てきれない」
「そんなのあり得ません!」
重い話で入り込む隙が無く黙って聞いていたがどうしても納得出来ない言葉が聞こえて来てアリアは口を挟む。
「何度か会いましたけど死にたそうにしてる様には見えませんでした。むしろ早く良くなりたいって、良くなってルキナの助けになりたいって‥‥‥」
「死にたい人間だって普通に笑うものだよ。隠すのが上手いから誰にも気付かれずに一人追い込まれていくんだ」
「でも、死ぬ必要ないじゃないですか。病気だって治せた筈なのに‥‥」
「それが理由だよ。病気を治してしまうとかなりの額の手術費を請求される、そんな多額の借金を娘に背負わせて良いのかって悩んでるのを聞いた人間がいる」
「それって‥‥私のせい?‥‥‥私が何も考えずにお金を貸したから」
助けたくて、親切心からの行動だったがそれが死を招いた?
何もしなければこんな終わり方じゃなく病死でルキナもまだ受け止められたのかも知れない。
良かれと思った行動が最悪の結末を生んだ、自責の念に駆られてかアリアの顔が苦しそうに歪む。
「お前のせいじゃない」
「でも‥‥私のせいで‥‥私のせいで助手だって‥‥」
「非があるとすればやった奴にある。ルキナのこともお前に責は無いし助手の件で言えばお前は寧ろ巻き込まれた側だ」
「それじゃあそろそろ説明して貰えるかな? どうして助手君がこんな怪我をしているのか。今回の件と無関係じゃ無いんだろう」
「そこから先は本人の口から聞いてくれ」とレアリスは助手に答えるように促した。
一歩前に出た助手の視線は一瞬アリアに向かう。これからする話を聞かれたくない、何故だかそんな事を思ったが助手は感情よりも命令を優先する。
「見た。私と同じ場所に所属していた人間を」
警察に必要なのは親近感だといつも作り物みたいな笑顔を貼り付けているリジルの顔もその言葉で表情を変え、そしてレアリスからアリアへと視線を動かす。その動作の意味をレアリスは理解していた。
「構わん、既に接触済みだ。助手本人の口から話を聞いて今後関係を断つか継続するかはアリアが決めたら良い」
包帯をあちこちに巻いた助手は淡々とその日の出来事を話し始める。




