表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人殺しの助手  作者: レア
32/39

32


「こんなのしか出せませんけど、どうぞ」


珍しい訪問客にルキナはお茶を差し出す。

大分薄くてほとんど水に近いが他に出せるものが何もない。

招いた客に何のもてなしもしないのは失礼だと出してみたが考えてみたらこんな汚い家で出されたものなど口に入れたくないに決まっている。


「すいません、やっぱりこれは‥‥」


出したものを取り下げようとしたルキナより先にお茶を手に取り口を付ける。


「美味しい、ありがとう」


「い、いえ」


きっと察して気を使ってくれたんだろう。

この人は平等に見てくれる、汚いも綺麗も無いまっさらな目線で。

彼女の前ではこんな自分でさえ普通になれた気がする。


「どうかしたの?あの時みたいな顔して。私の贈り物ではあなたを救えなかったのかしら?」


「そんなこと‥‥あの力のおかげで救われました」


「じゃあどうしてそんな酷い顔をしているの? 何か悩みがあるのなら私で良ければ話を聞くけど」


「何でそこまでしてくれるんですか?」


便利屋で聞いた話が頭をよぎってそんな事を聞いてしまった。


「あなたが私に犯罪を犯させようとしてるって、この力もその為のものだって、そんな事を言う人がいたんです‥‥」


「あなたはどう思ってるの?」


「間違いだと思ってます。この力をどう使うか決めるのは私だからもし罪を犯したとしても責任は私にあります」


「綺麗な答え。とっても良い子なのねあなたは」


ルキナの頬に手が触れる。


「そんなあなたが私の本当の姿を知ってしまったらきっと失望してしまうでしょうね」


「本当の‥‥姿?」


「ええ。本当の姿‥‥黒い私を教えてあげる」


そう言うとルキナの手を取りゆっくりと自身の胸へと押し当てる。


「ここに本当の私がいるの」


女性ながらもどきりとしてしまう。

艶かしくも神々しい、髪も肌も真っ白な彼女が持つ黒。誰にも見せられない場所をルキナにだけ特別に見せてくれている、秘密の共有みたいな心地に陥る。


「正直言うとね、私は罪を犯すのも一つの選択肢だと思ってる。ルールが守ってくれるのは大多数の人間であって全員じゃない。思い返してみて、あなたに対する暴言や暴力、それは立派な罪なのに誰か一人でも裁かれた人はいる?」


いなかった。

酷い事を言ってきたクラスメイトは大勢の友達に囲まれて些細な事でも先生に褒められ何不自由ない学園生活を送っていた。

疲れ果てて表情を作る余裕も無いだけなのにそれを喧嘩を売っていると理不尽に暴力を振るってきた奴も何の罰も受けていない。

その罪は闇に紛れて消えてしまい後に残されたのは被害者の傷だけ。


「取りこぼされる人間は必ずいる。私はそういう人達を救ってあげたい。辛さに堪えるだけで出せなかった言葉を、心の叫びを無かったことになんてしたくないの。それがたとえ罪だとしても辛い記憶だけを抱えて終わるなんてあんまりでしょう? 罪が罪としてちゃんと裁かれる世界なら傷付かずに済んだ人達が復讐を願うことくらい許されても良いと思うの」


「失望した?」と問われてルキナはすぐに答えられないでいた。


「犯罪を容認するみたいな発言あなたには受け入れられなかったかしら? でもこれが本当の私、だからあなたが聞いた誰かの言葉は正しい。私はあなたに復讐する権利があると思ったから力を与えた。それを犯罪に利用する可能性は十分に考慮してたしそれで良いと思ってたから」


彼女の行いは犯罪という手段をルキナの選択肢に加えただけ、それを犯罪に導いていると言う人はいるだろうがルキナは違う。

彼女は正義に救われなかった人に手を差し伸べる弱者の味方なのだ。

失望なんてするはずがない、むしろこんな人を少しでも疑う真似をした自分が恥ずかしかった。

気付けば悩みを打ち明けていた。

母とレティスのことを他人に話したって分かるはずないけどただ聞いてもらうだけでも心はずいぶん軽くなった気がする。

答えなんて求めていない、きっと優しい言葉に飢えていただけ‥‥なのに意外な言葉が返ってきた。


「その答えを私が話すのは違うと思うから言えない」


「知ってるんですか!?」


「あなたのことは気に掛けてたから、時々様子は伺ってたの。私をすんなり信用してたのもあってあなたは人を疑う事をあまり知らなそうだから心配で」


全然気付かなかったが悪い気はしていない。心配してくれる人がいるのは幸福なことだから。


「だからレティスのことを少し調べてみたんだけど‥‥‥」


そこで口籠る。


「レティスがどうかしたんですか?」


「ごめんなさい。やっぱりあなたのお母さんを差し置いて話すことは出来ない、でもこれだけは言える。あなたはあの子との関わりは断った方がいい、きっと後悔するから」


「‥‥レティスは私に何かを隠してるんですか?」


「どうでしょうね? あの子が自分の事を理解して近づいてきたのかも知れないし何も知らず本当にただの偶然かも知れない。後者であればお互いにとってただ不運なだけだけどもし前者であるなら何か裏がある」


「でもあんなに優しいのに‥‥」


「優しい人間が悪い人間を演じるのは難しい。優しい人は悪い事をすると心が痛むから隠しているつもりでもどこかで顔に出ちゃうもの。でもね、逆は違う。悪い人間が優しい人間を演じるのは簡単。最終的に待ち受けるご褒美を想像していれば意に沿わない行いにも堪えられるから完璧に騙すことが出来るもの」


「あの優しさが‥‥嘘」


「それは分からない。でも嘘でも本当でもあの子と関わる事はあなたとあなたの母親を不幸にする」


ただ呆然と時間を無駄にしていた。

いつの間にか当たりは真っ暗でテーブルの上には二人分のカップが残されたままになっている。

そういえばまた名前を聞く前に別れてしまった。

名前も知らないあの人の言葉が頭の中で再生された。

レティスが自分を不幸にする、本当にそんなことあり得るのだろうか?

レティスを信じている、だけどあの人も信じている。どちらも信じているせいでどちらにも疑いが生じてしまう。

一人で考えたところで答えは出ない。ルキナはレティスと会って話して判断することに決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ