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人殺しの助手  作者: レア
30/39

30


「おはよう、ルキナ」


「おはよう」


病院の前でレティスと待ち合わせ。

あの後も何度か出会って話を交わすうちに親しくなって今では二人で外に遊びに行ったりもする関係になった。

とはいえ一般の学生にありがちな買い物をしたり店で食事をしたりなんていうのはお金が無いルキナには難しい、だからお金の掛からない公園の東屋で話をするのが二人の遊びだった。

色々な娯楽を知っているレティスにとっては物足りないかもしれないのに彼女は嫌な顔せずに付き合ってくれる。

ある時ルキナが高校に通えなかったことを話すと次に会う時には勉強道具を持ってきた。


「勉強なら私が教えてあげる」


こう見えて頭は良いんだよとレティスはルキナの手を取り一緒に頑張ろうと微笑みかける。

レティスは外でルキナが同年代の子に出会った時に顔を伏せるのを見ていた。そしてしきりに自分は頭が悪いと卑下するのを聞いていた。

その原因はきっと学歴にコンプレックスがあるのだとレティスは思い放っておけなくて余計なお節介を焼く。

大人びて頭が良くて優しい、困った時は助けてくれて背中を見ているだけで安心出来るルキナにとってまるで姉のような存在になっていた。


本当に満ち足りた毎日。

母がいてアリアがいてレティスがいる、どこにも悪意なんて無くて澄み切った空気がルキナを取り囲んでいる。

とても息がしやすい、少し前まで常に心の奥底で渦巻いていた行き先不明の怒りも無くなって落ち着いている。

そんな心地良さに溺れているうちに受けた忠告も意識の中から薄まっていた。

アリアの保護者を悪く言いたくはないが苦手だ。

罪を犯したのはルキナ自身なのに無関係なあの人を悪者みたいに扱ったのは許せなかった。

この力があったからアリアを助けた。これがなければきっと素通りしていただろう。

向こうからしても恩人と言える存在なのに‥‥。


「何か悩み事?」


考え事から意識を戻すと目の前にレティスの顔があって驚いた。


「ううん、何でもない‥‥」


頑張って絞り出した笑顔で答えるとずいっとさらに顔が近付いてくる。


「無理に聞き出すことはしませんけどそんな顔してたらお母さんを心配させてしまいますよ」


今日は初めてレティスを母の病室に連れて行く。ちゃんとしている友達がいると知れば母も安心すると思って来てもらったのにこんな日に暗い顔なんてしてたら意味が無い。

病室の扉を開く頃には嫌な気持ちに蓋をして精神をいつもの調子に戻した。

今日も母さんはそこに居る。

ルキナを見つけると微笑んで歓迎。白かった頬も今は薄く赤みがかって以前に比べると大分健康的に見える。


「今日はさ友達を連れて来たんだ」


友達なんて言葉を使うのはやっぱりなんだか気恥ずかしい。

それはずっと母に心配を掛けない為の嘘だった。

普通の学校に通ってたけどルキナが住んでいる場所を答えるとすぐにそれが貧民街だと知れ渡った。

壮絶ないじめは無かったけどすれ違った時に臭いや汚いなんて言葉を言ってくる人は多からずいた。

それなりに傷付いて出来るだけ存在感を無くそうと人から離れて孤独になっていい思い出なんて無かったけど家で辛い顔なんて出来ずに嘘の学生生活を作り上げた。

母の中で当時のルキナは友達も沢山居て充実して楽しい毎日を過ごしている、そんな現実とは真逆の存在だった。


「アリアさんかしら?」


時々来てくれるアリアを母は友達だと認識していた。実際は債権者と債務者なのだがそこは隠しているのでアリアが友達だと主張しそうなった。


「初めまして。私、レティス・アーティーって言います」


礼儀正しく頭を下げて入室するレティスを見て母が目を見張る。

これまで誰も連れて来なかったのにアリアに続けてまた別の友達が顔を出したことに驚いたのかそれかレティスの佇まいに見惚れたか。

真っ直ぐ伸びた背筋に綺麗な髪と肌、所作の一つ一つが上品で美しい。

アリアも十分お嬢様だが親しみやすさのあるアリアと違いレティスはどことなく触れ難い気品がある。

ルキナとは対極の存在、こんな子が友達として隣で肩を並べている現実をルキナ自身も信じられなく思っている。


「これ、よろしければどうぞ」


レティスはお見舞いとして持って来た果物の入った籠を机に置く。


「ありがとう」


「いえ、それよりもお加減いかがですか?」


「‥‥‥それが、わざわざ来てもらって申し訳ないんだけど今日はあまり調子が良くなくて」


「嘘!? お母さん大丈夫?」


途端にルキナの表情に焦りや恐怖の色が浮かび上がる。


「全然大丈夫、時々ある事だから。ただ、今日はちょっと‥‥」


時々あると言っていたがルキナはこれまでお見舞いに来て一度もそんな様子を見たことが無かった。もしかしたら病気が悪化してるのかも知れない。


「先生呼んでこようか?」


「いえ本当に大丈夫、少し安静にしてればすぐに良くなるから」


「でも‥‥」


「心配なのは分かりますがお母さんがそう言ってるんですから‥‥あんまり我儘を言うともっと悪くしちゃいますよ」


引き下がろうとしないルキナの肩にそっとレティスが手をやり嗜めるように言った。


「初対面の私がいては気も休まらないでしょうしお身体に障ってもいけませんからこれで失礼しますね」


「あっ、じゃあ私も‥‥」


母を一人にしてあげた方がいいと思ってルキナもレティスの後に続こうとしたのだがその腕を母が掴んで止めた。


「話があるの」


その声は母からは聞いた事のない音色をしていた。

希望の無かった時に聞いた絶望からの無気力な声ではないが穏やかさも無い。

どこか怒っているような響きを感じた。

ルキナは「ごめん」とレティスに告げて先に帰って貰い母と向き合う。


「どうしたの?」


少しだけ声が震えていた。

辛い生活の中で一度も誰かに文句なんて言わなかったしルキナに怒った事だって無かった。

ルキナはてっきり母にはそんな感情無いんだと思ってた。

慈愛に満ち溢れ誰も恨まない、だからそんな母親から生まれたくせに全然違う自分が醜く感じた事もある。


「何も言わずに聞いて欲しいの」


「‥‥うん」


「あの子とはもう会わないで」


誰かを否定する言葉。

まさかそんな言葉を母の口から聞くなんて思いもしなかった。


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