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侵入者が居なくなってから家の中を見回ってみると荒らされた形跡はなかった。つまり侵入してすぐにアリアが戻って来て出会した。
庭の方も確認してみると助手が綺麗にしてくれた庭には足跡が窓の前に続いている。
おそらくここから中の様子を伺っていたのだろう。
分からないのは何処から侵入したか?
扉や窓には二階も含めて全て鍵が掛かっていた、助手のようにピッキングした可能性もあるがアリアが引き返したのは家を出てすぐ、足跡をいくつも残して行くという不慣れさを持った人物がそんな短時間で可能だろうか?
そしてもう一つの不思議が庭に残された血液。
思い返してみると侵入者は手に包帯を巻いていた、だとするとピッキングなんていう手を使う作業にも支障が出て時間が掛かるはず。
分からない。一体どうやって家の中に入ったのだろう?
「‥‥何が一位よ」
今朝の占いの結果を思い出してアリアの心はささくれ立つ。
ラッキーアイテムを身につけた結果が不法侵入者との直面、挙句そのアイテムが持っていかれるというおまけ付き、しかもそれがとても大切な物ときたから余計に辛い。
目頭が熱くなる、悲しみが今にも溢れ出してしまいそう。
「アリア」
心が弱っているせいだろうか、ここには居ないはずの助手の声が聞こえてくる。
ポツポツと追い討ちみたいに雨も降って来た。
これなら泣いてしまっても分からない。
雨に濡れて熱が奪われる。体温と一緒に変わると決めたあの瞬間の熱量も。
「アリア」
また幻聴が聞こえる。
自分を変えてくれた助手の声、でもどこか怒っているみたいに聞こえる。
これはきっと強くなると決めた自分の決意をあっさり曲げてしまおうとしている負い目のせいでそう聞こえてしまっているのだろう。
助手に嫌われるなんてたとえ幻だとしても嫌だと耳を塞いだ。
「いい加減にしろ」
塞いだ耳が強引に開かれる。
この容赦の無さをアリアは知っている。
「‥‥‥助手、何でここに!?」
幻ではない本物の助手がそこにいた。
「アリアがいつまで経っても来ないから危機に陥った可能性を考慮し家まで様子を見に来た」
「心配して来てくれたんだ‥‥」
「心配‥‥‥そうだな、お前は私より弱いから何か起きた時に自力で対処出来ない事もあるだろう」
助手の心配はやっぱり保護者目線の心配らしい、それでも今は嬉しい。
「また泣いてたのか?」
助手のくせに鋭い。普段人の感情には疎いのに弱っている時、弱点を曝け出している時は簡単に見抜いてしまう。
「泣いてない‥‥‥‥まだ」
もう少ししたら泣いていたかもしれないけど助手の姿を見たら引いていく。
「何があった?」
辛い時に側にいてくれる助手の存在がこんなに心強いとは知らなかった。
これが別の人だったらアリアはもっと奥を見ようとして“何があった”という質問にも不幸話を聞きたいだけなんじゃないかと穿った見方をしてしまって素直になれなかった。
助手は良くも悪くも普通じゃない、自分の感情に正直で演技なんてしないから疑問はただの疑問として受け止められる。
アリアは助手に先程の出来事を話した。
「警察に連絡する」
これはれっきとした事件なのだから当然の反応だ。
けれどアリアの顔には迷いが見える。
「警察はちょっと待って欲しい」
「何故だ? こういう事態に対応する為の存在だろう、あれは」
「分かってる。でも私あの人に警察には言わないって言ったから」
「そんな約束を守る必要は無い。破って報復に来るのなら好都合だ、私がアリアには指一本触れさせず排除してみせる」
「報復が怖いんじゃないの‥‥ただ、あの人ともう一度ちゃんと話がしたいと思って」
「犯人に目星がついているのか?」
「うん、多分あの人だと思う」
怒りがないわけじゃない、全部警察に任せてしまいたい思いもあるがアリアにはどうしても彼女が根っからの悪人には思えなかった。
救われた恩があるからそう感じるというのも事実ではある。あの時、危険を冒してまでアリアを助ける必要なんて無かった。
今回みたいに気付かれずに家の中に入り込む技術があるのならアリアなんか見捨ててもっとお金を持っていそうな人の家を狙えば良かったのに彼女はアリアを助けた。
それに恩人という立場を彼女は利用しようともしなかった。狡猾に内側に入り込んで何もかも持って行くことが出来たかもしれないのに。
そしてネックレスを奪おうとした瞬間の一瞬の躊躇い、ただの悪人にしては無駄が多すぎる、そんな気がした。
アリアは彼女、ルキナについてもっと知りたいと思った。




