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人殺しの助手  作者: レア
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消えてしまいたかった。

あらゆる責任、あらゆる人間関係を捨て去りたいと願いながらやらなければならない事をして感情も込められなくなった見せかけの笑顔でやり過ごす毎日。

消えてしまいたい。

こんな風に考えるしか出来なくなった自身の醜さを直視したくなくて。


「ごめんね」


もはや挨拶にも等しくなった言葉を今日も聞く。

顔を合わせる度に申し訳なさそうにそんな事を言うからこっちも機械的にいつもの言葉を返す。


「大丈夫だから気にしないで」


おはよう、おやすみがこんな言葉に取って代わってしまってもうかなり経つ。

何度もそんな言葉は要らないと言っても染み付いて離れない癖の様に出てくる謝罪に先にこちらの諦めが来た。


今日もルキナは朝食を用意して母親のベットに運ぶ。

母は病気に冒され寝たきり、本来なら入院しているべき状態なのにこんな場所に居るのはお金が無いから。

父親はルキナが産まれて間もなく死んだらしく何の記憶もない。

貧民街で暮らしていた母はただでさえお金がない中ルキナという負担を一人で背負うことになった。

生活は苦しかった。

母は毎日朝から晩まで働き通しで家に居ない、同年代の子がもっと遊んでと我儘を言う時期にルキナは遠慮を覚えた。

幼心にも恐怖を感じていた、母が死んでしまうのではと。

ずっと側にいて欲しかったからいつもお腹いっぱい食べていたご飯を半分にして母親に一杯食べてもらおうとしたけどそんな子どもの企みはあっさり見抜かれ同時にごめんねと泣かせてしまった。

どんなに辛くとも疲れを理由にルキナを蔑ろにすることは無く経済的には大変だったかもしれないが普通の学校に通わせてくれて何不自由する事なく成長出来た。

初等部を終える歳、周りが華やかな夢を語る頃にルキナはもう進路を決めていた。勉強は得意じゃなかったし学んだことを活かせる仕事につけるとも思ってないから何でも、どこでも良いから恩返しの為に働くと決めていた。

だけど母がそれを許さなかった。

大人になるのはしっかり学んでいっぱい遊んでから良いと、それから頭を撫でて『そう簡単に子離れしてあげないんだから』なんて冗談めかして笑った。

傷だらけでガサガサの手、少し痛かったけどとても温かい。

お母さんが望むならもう少しだけ子どもでいてあげよう。子どもとしてたくさん愛情を受けて大人としてたくさん感謝を返す。

自分も親離れ出来そうにないな、なんて笑っていられたのはそこまでだった。

中等部も終わりに差し掛かった頃、あと少ししたら恩返しが出来ると希望に満ちていた時だ、母が倒れたのは。

病院に連れて行って検査して病気について色々難しい説明をされたけどそこはあまり覚えていない。

しっかり覚えているのは手術をしないと死ぬということ、そしてその手術にはかなりのお金が必要になるということ。それだけが強く頭に焼き付いた。


お金を借りられる伝手も無い、貧民街に住む人間に貸してくれる人間などいない。

なりふり構っていられないルキナはまず母が働いていた場所へ向かい金を貸してくれと頭を下げるも相手にもされない。

昔、幼いルキナを連れた母に向かって『大変ね』『頑張って』『いつでも頼って』なんて言っていた人達はみんな助けを請うルキナと目を合わせようともしなかった。

誰も救ってくれない。恨むのは筋違いなのは分かっている、頭ではちゃんと分かっているけどどうにもならない事もある。まるで世界の全てがお母さんを殺そうとしているみたいに感じられて何もかもが憎く感じた。

それが逆恨みだと分かっていても止められない。

ベッドの上で弱っていく母の姿を見て時間が無いと悟って色々と捨てる覚悟が付いた。

自尊心を捨て自分の身はただお金を稼ぐ為の道具だと思う様にした。

倫理観を捨て善悪も他人の痛みにも目を瞑る様にした。

犯罪に加担して得たお金で救われただなんてお母さんが知ったら泣いてしまうだろうけどそれでも生きていて欲しかったから。



だけど、それだけしても届かない。

そんなことしてる間に容態は悪化し自分の事も満足に出来なくなった。

手伝ってくれる人もいない、自分でなんとかしなきゃとルキナはずっと続けていた真っ当な仕事の時間を削り母のそばにいる時間を作りその代わりに夜、母が寝る時間の裏の仕事を増やした。

気持ちの悪い男の相手をしたり薬を売り捌いたり、そうやって自分を堕とし続け堕ちて堕ちて堕ち切った先、着地したのは地獄ではなく虚無。

何でこんな事してるんだろう。

何でこんな‥‥‥‥‥‥‥‥‥辛い事してるんだろう。

ふと、そんな事を思った。


母を救う事、それを辛い事だと思っている自分が‥‥‥いる?


違う違う違うちがうちがうちがう、そんなのあり得ない!

辛くても苦しくてもあれだけの愛を与えてくれた母を疎ましく思っている自分が存在するなんてあり得ない。

辛くない辛くない辛くない辛くないこんなの平気だ、だって母がいなくなる方がよっぽど‥‥‥‥。


「辛い、辛いに決まってる‥‥」


言い聞かせる様に呟いた。

自分の頭に暗示でもかけるみたいにひたすら言い聞かせた。違う考えなんか全部覆い隠せるくらいにひたすら。

そしてそんな事をしないと保っていられないという事実に直面して恐ろしいほどの自己嫌悪に襲われた。

現実と理想、限界だと叫ぶ心と平気だと諭す頭がぶつかり合って理想は現実に呑み込まれる。

なんて酷い娘なのだろう、なんて醜い心の子なんだろう。

深夜の汚い路地裏、そこに転がるごみと同化するみたいに蹲り涙を流した。

通り過ぎる人が笑いながらこっちを見ている、ポケットを探って取り出した一番価値の低い貨幣をごみを捨てるみたいに放り投げてルキナにぶつけ善を成した気分に浸っている。

悔しくて堪らない、何でこんな奴らが普通に生きられて自分達は地を這う生活をしているんだろうと怒りを超えて憎しみが湧いて来る、だけどそんな汚いお金にさえ手を伸ばす自分がいる。

ひどく惨めな気分に襲われた。

こんな自分なんて消えてしまいたいと強く願う程に。

そんな時、啜り泣くルキナに手を伸ばす人物が現れた。


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