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人殺しの助手  作者: レア
15/40

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二人で歩く時間を堪能したい邪な感情から少しだけ遠くの店に誘導したりして着いたお店に入店し「いらっしゃいませ」と迎えられてアリアの口からは「あっ」と驚きの声が漏れる。


「恩人さん!」


ついつい心の中で唱えていた呼び名が口から滑り出た。

その人物はまさしく昨夜アリアを助けてくれた女性その人だった。

興奮気味なアリアとは対照的に恩人さんは冷静、というか少しだけ迷惑そうな表情で私達をさっさと席へと案内してくれる。


「いきなり何!? というかなんであんた達がここに。もしかして、つけてた?」


険しい表情で迫られる。ストーカーか何かと勘違いされてしまったのだろうか。

確かに昨日の今日だ、偶然というにはなかなかの確率だろう。


「ち、違います! 偶然入ったお店で偶然見つけただけで私達ストーキングなんてしてません!」


お昼時、それなりに客の入った店内でする話題としては不適切だったみたいで一斉に他の客の注意を引いてしまったが持ち前の世渡り笑顔で無害な女の子を演出し乗り切る。

しかし未だ警戒している恩人さんになんと言えばいいか頭を回らせていると隣から呑気な声が聞こえて来る。


「カツ丼を一つ」


「今呑気に注文してる場合!?」


「昼食を摂るために来たんだ、注文しないで何をする?」


「確かにその通りだったわ! じゃあ私も同じのを」


客として普通にしていれば変な誤解もそのうち解けるだろう。

その後、出されたものを大人しく食べ慎ましく会計に向かう。対応してくれた恩人、名前をルキナさん(名札に書いてあった)はやはり警戒の色を滲ませているけれど最後どうしても伝えておきたかった事がある。


「あの時はちゃんとお礼が言えてなかったから、昨日は助けてくれてありがとうございました。あなたがいなかったら私は無事じゃなかっただろうし本当助かりました。あなたは私の恩人です」


アリアは深々と頭を下げる。


「恩人とかやめて。私がやってたこと聞いたでしょ、そんな褒められた人間じゃない」


それは謙遜と言うよりは自嘲に近い響き。


「っていうかあんたたち学校とか行ってないの?」


「それはっ‥‥‥」


「行ってない」


言葉に詰まったアリアの代わりに助手が後ろめたさの無いはっきりとした口調で答えた。

普通と言われる事がちゃんと出来ていない自分が恥ずかしいと思うアリアには真似出来ない強さが頼もしい。

ただ、助手の言い方がぶっきらぼうだったせいかルキナの目が少し鋭く変わったようにみえた。


「行かない自由もあるんだ」


ぼそりと呟いたのが聞こえてしまった。


「ごめん仕事中だから、じゃあねお嬢様」


初めこそ鈍臭い私に対する皮肉めいたものなのかとも思ったが今再び聞くと住む世界が違うと線引きする様に彼女はお嬢さんと呼んでいる気もした。



助手とのご飯に偶然の出会い、良いことが重なった後だというのにアリアの心はもやもやしたまま。


「食べ過ぎで腹が苦しいのならどこかで休憩して行くか?」


的外れな心配、でも心配してくれてるのは嬉しい。


「大丈夫そういうのじゃないから。ちょっと気になってる事があるだけ」


「安心しろ」


まさかあの助手が私の内心を汲み取ってくれた!?


「あの程度で体重はそこまで増加しない」


長期の引きこもり生活による体重の増加を嘆いている姿をどうやら見られていたらしいが今は違う。


「そうじゃなくてルキナさん、なんか遠ざけられてる気がして。私嫌われることでもしちゃったかなって」


一人の世界にいた頃はそういうのは気にならなかったけどこうして外に出てみると人の目はどうしても気にしてしまう。


「特に殺意は感じなかった。気にする程ではない」


規模が違った。

アリアが相手の些細な反応の違和感に鬱々としているというのに助手は殺意ときた。好き嫌いの遥か先にしか目を向けていない。


「わぁ〜良かった‥‥とはならないから」


助手の図太さは若干羨ましくもあるがアリアの様な一般人がその域に到達するのは難しい。

でも気にしたところでどうしようも無いことで悩むのは無駄、ならいっそ助手みたいに割り切ってみるのも良いかもしれない。

向こうに殺意がないんなら知ったことか!‥‥‥‥いややっぱり自分には向かない。

その後もずるずる引きずって事務所まで持ち帰ったのだが午後から始まった勉強によってアリアの悩みは上書きされた。


「助手、勉強出来ないの!?」


簡単な計算問題にも手が動いていない。てっきり対人関係と料理以外なら無敵なのかと思っていたが思わぬ弱点を見つけてしまった。

その様子に少しだけ笑みが溢れたのは別に助手を馬鹿にしてではなくアリアが助手より上回っているものを見つけたことに対する喜び。うん、人間としての器の小ささが露呈しているけれども尊敬させられっぱなしというのもいただけない。

今こそ自分が助手に凄いところを見せて尊敬してもらうチャンスなのだ。


「良いわ、私が教えてあげる!」


「そうか、助かる」


「━っ!?」


助手にお礼を言われたのが嬉しくて「へへっ」なんて変な笑いが漏れ出てしまったが気を取り直し本を開く。手取り足取りじっくり教えてあげましょう。

で、特に変な事をするわけでもなくしっかりと教えてあげてると頭を使うのは苦手なのかいつの間にか助手はうとうととしだした。そんな助手を見て目の保養にしているとそのうちこっちまで眠くなって次に目を覚ました時には目の前に鬼がいた。


「おはよう」


「‥‥おはようございます」


外はもう暗くなっている時間、所長もお戻りになられたらしい。


「よく勉強は出来たかい?」


「はい、それはもうみっちりと」


「では見せてごらん」


言われてアリアはほぼ白紙のノートを差し出した。


「ミミズが這った後みたいなのしか書かれてないんだが?」


「ええ、私はノートじゃなく頭に直接記入してるので」


嘘です、助手の勉強を見ている最中に眠ったので頭にも何も書かれていません。途中目を覚まして自分のをやろうとして微睡の中必死に抵抗したけど睡魔に負けました。

勉強を始めると眠くなるの不思議。


「ではその頭の中にどれほどの知識が書き込まれているか試してみようか?」


所長は教科書を手に取ってパラパラと捲り止まった箇所で問題を出され私は沈黙、そして叱られた。

だが一人叱られるのは納得いかない。


「助手は、助手はどうなんですか!?」


助手だってきっと眠っていたに違いない。

告げ口する様な心苦しさはあるが怖い説教、みんなで受ければ怖くない。


「あいつは自分の分は終わらしてたよ」


「‥‥嘘だっ!?」


慌てて助手の計算問題に目を通すと驚愕の光景。確かに全部出来ている。


「助手だって眠そうにしてたのに!」


「私は寝ていない。分からないうちは脳への疲労からか眠気に襲われたがある程度数をこなしていれば法則性にも気付いてくる、そうなればすらすらと解けて達成感も得られ苦じゃなくなった」


何よその出来る子みたいな発言は。


「っていうか起きてたなら私を起こしてくれたら良かったのに」


「アリアが良い顔で眠っていたから起こしてやるのも悪いと思ったんだが」


助手なりに配慮してくれたらしい。その心遣いはありがたい、でも‥‥‥


「ありがとう、でも、次は起こしてよね⭐︎」


きらりと微笑み私は一人正座する。

その後始まる説教を眠る事なくしかと頭に刻み込んだ。


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