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人殺しの助手  作者: レア
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「じゃ、あとよろしく」


軽やかな言葉と軽やかな動作で事務所を後にする所長の後ろ姿を恨めしく見送って残された助手とアリアは罰という名の強制労働に取り掛かる。

説教の後、下された判決は今日一日外出禁止。

午前は押し付けられた仕事をこなして午後からは勉学に励めとの御達し。

溜まった事務仕事の片付けかたをざっくりとだけ教えて爽やかに出かけて行った。

アリアなら出来ると信頼されているのか単に雑なのか恐らく後者だろうが任された以上は下手な事は出来ないと一つ一つ丁寧に目を通す。

その間、助手は今日もテキパキ掃除を始めていた。

そんなこんなで良い感じに集中でき始めてきた頃に事務所の扉が開かれた。

入ってきたのはくたびれたスーツ姿の一目で人が良さそうなのが分かる温和な表情を浮かべた男性。

「いらっしゃいませ」と出迎えるとその人は目を瞬く。


「えっと‥君は?」


「私アリアって言います。つい最近こちらでお世話になり始めたばかりなんです」


「へぇ〜そうだったか。いや驚いたよ、扉を開けて出迎えられたのなんて初めてだから。いつもここの所長は開口一番に帰れなんて無愛想な事しか言わないし助手君は無言で冷たい視線しかくれないから一瞬入る場所間違えたのかと思った。君みたいな子が毎日迎えてくれたら僕も気分良く入れるんだけど」


「あははは‥‥」


所長、他の人が来た時は普通に対応してるんだけど‥‥。

この人よっぽど嫌われてるみたいだ、一体何をしでかしたんだろう? 一見無害そうなその人にアリアは若干の警戒を向ける。


「そんな警戒しなくて良いから。ただ単に長い付き合いってだけさ。僕に対する彼女の反応は気の知れた相手に冗談で容赦のない言葉を使うようなもので本当に嫌ってるわけじゃないはずだから」


顔に出ていたのかこの人が鋭いのか警戒を見抜かれてしまった。


「しかしお前に対しての好意的な発言を聞いた事がないが」


「助手君、それは照れってやつなんだ。彼女本当は寂しがり屋なくせして普段クールを気取ってるから唯一の友人が来ても素直に態度に出せないのさ。内心では僕の訪問を喜んでいるはずだよ、だから助手君も彼女に倣ってつっけんどんな態度を取るんじゃなくて歓迎してほしいな、それが彼女の本心なんだから。あ、この話は彼女には内緒にね」


「隠した内面を助手君たちに知られたと知ったら恥ずかしい思いをしちゃうからね」とか何とか言っているがあの所長にそんな乙女な部分があるとは思えない。

この人が嫌われている理由がなんとなく分かった気がする。


「それと僕の名前はお前じゃなくてリジル、アリア君は初めましてだけど助手君は何度も会ってるんだからもう良い加減覚えてくれても良いんじゃないかな?」


「名前は覚えなくて良いとレアリスが言っていた」


はぁーと大きなため息と共に額に手をやり項垂れる。


「酷い扱いだと思わない?」


そう同意を求められても困ってしまう。

所長を怒らせそうなことを入ってから数分で行ってしまうところを見るとなんとも言えない。

アリアは曖昧に笑みを浮かべて話を逸らす事にした。


「ところで今日はどういったご用件で?」


「そうだった、これを所長に渡しておいて貰えるかな」


その人は懐から取り出した封筒を手渡してくる。

結構分厚い、かなり中身が気になるが下手に手を出して再び所長の雷を受けるのは勘弁なので好奇心を押し殺しそのまま机の上に置いておく。


「分かりました。戻り次第渡しておきます」


「ありがとう」と礼をしてそのまま去って行くのかと思いきや扉の前で足を止める。

春の陽光の様に朗らかだった顔には微かな翳りが見える。何かを憂うみたいなその視線の行き着く先は助手。


「君は昔を思い出す事はないかい?」


その言葉には重たい何かが乗っかってるように思えた。

この人も助手の過去を知っている。多分、私がいたから遠回しな言い方をしたんだろう。


「ない、過去とは決別した」


助手はそういうあれこれを気にしない、というか気付かないからそのまま質問に答えた。


「そうか、なら良かった」


助手の言葉に何を思ったのか分からないけど少しだけ表情に元の光が宿ってそのまま出て行ってしまった。

ちょっとだけ重い空気が室内を覆う。

アリアの知らない助手の過去。

人を殺した事があるのは知っている、実際その場面をアリアも見ているし。

ただ、助手が手にかけたのは人殺しをする様な人間。どうであれ殺人は良くないと言う人はいるかもしれないけどアリアはそんな幸運に包まれた人とは考え方が違う。経験を経てこの世には殺さなきゃいけない人、殺してしまった方がいい人は確かに存在すると思っている。助手の行動はアリアの心の奥底の声を代弁した、だからそこに嫌悪なんか抱いたりしない。

どういう過去があろうともこの関係を壊したいと思う日はきっと来ないだろう。

大事なのは聞いてもどうにもならない過去よりも差し迫った問題に直面した未来の話。


「そろそろ正午だけど昼食はどうする? 買って来るか外で食べるか、それか私が作ってあげましょうか」


ずっと椅子に座っていただけだけどお腹は当然の様に空く。

空腹を解消する為の三択、アリアとしては三番目がおすすめだ。料理にはそれなりに自信がある、美味しい料理を振る舞って助手の胃袋を鷲掴み作戦決行のチャンス。


「何でもいい」


世の主婦が困りそうな発言、しかし今のアリアにとっては好都合だ。


「じゃあ作ってあげる」


スキップしながら上機嫌で冷蔵庫に向かう。

中身を確認してなかったので何が作れるか分からないが余り物を使っていかにあっと驚く様なものを仕上げるのかも腕の見せ所。

これまで助手にばかり良い格好をされてきたが名誉挽回。武力と女子力のぶつかり合いを制し助手の心を掴んで見せる。

さぁ、どんな食材でも魔法をかけてあげる!

勢い良く開いた冷蔵庫の扉の前でアリアは凍ったみたいに硬直する羽目となる。


「‥‥何も、無い」


いや、あるにはあるが酒とそのツマミみたいなものでどうしろと言うのか。


「助手、晩御飯っていつもどうしてるの?」


「買ってきたものを食べる」


よくよく考えてみれば所長の料理はあんまり上手じゃなかった。

助手の作る朝の目玉焼きは結構綺麗に出来てたからそれを教えた所長もそれなりには出来るんだと思ってたけどどうやら目玉焼きに特化していただけみたいだ。

さらに台所を見回してみると調味料もあまり揃っていない。足りない物が多い、これなら食材を買って来て作るよりも外で食べた方が楽だ。


「ごめん助手、やっぱり外に食べに行きましょう」


外出禁止ではあったが昼食の時間は別。食べたらすぐ戻る事を条件にお日様の下を歩く事を許されている。

悪い子ならどうせ見られてないんだからそんな約束破っちゃえなんて言うかもだけど私の隣には超真面目でおまけに武闘派の助手がいる、余計な場所へ行こうとすれば間違いなく力尽くで連れ戻されるのが目に見えてるので良い子のアリアは大人しく従う。


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