16
説教の後、時間も時間なので夕ご飯も一緒に食べてまったりしている時に思い出した。
「そういえば昼間にリジルって人から所長に渡してほしいと封筒を預かったんです。机の上に置いてありますから確認しておいてください」
アリアが名前を伝えたあたりであからさまに嫌な顔をしたがどうやら確認だけはしておくみたい。
封筒を手に取り中から取り出した書類に目を通す。
ふっと鼻で笑って所長はそのまま書類を近場のマッチで燃やしてしまった。
「良いんですか?」
「ああ、寧ろこうする方がいい。警察の内部書類を持ってるのが知れれば私が面倒な目に遭う」
「え〜と‥‥どういう事ですか?」
「そのままの意味さ、警察内部の書類」
「いやいやなんでそんな物が所長に? というかあの人は一体?」
「あれは刑事だよ。もっとも悪徳がつく方のだがね」
警察の内部書類、そんなものが何故ここに? それよりもそんな重要なものをあんな軽く渡していくなんて一体どういう神経をしているのか。
「何が書いてあったか気になるかい?」
気にならないわけがない。アリアは静かに頭を縦に動かす、すると所長は「口外しないように」と注意を施し続けられた言葉にアリアは目を丸くする他なかった。
「透明人間による窃盗」
まあそうか、警察内部の事情をおいそれと語って良いものじゃない。
「はいはいそうですか。言えないなら初めから聞かないでくださいよ、変に期待しちゃったじゃないですか」
「何を言っているアリア? こいつは言っていただろう」
ああ、助手は純粋だから信じてしまったみたいだ。
「いい助手、この世に透明人間なんていないの。さっきのは所長の冗談なんだから何でもかんでも真に受けてちゃダメ」
「おいおい、誰が冗談など言った? 私は至って真剣だぞ」
「真剣でどうして透明人間なんて言葉が出るんですか? 私が引きこもってる間に世界は一変してそんな訳の分からない存在がうろつくようになったとでも? 常識的に考えてあり得ません、さすがに騙されませんよ」
アリアだってオカルト的なものを頭ごなしに否定するつもりはないがさすがに行き過ぎだ。
透明人間単体でも異常なのにそこに窃盗がくっつくなんて許容範囲を超えている。
「世界は一変などしていない、ただアリアの世界が広がったというだけだろう」
確かに所長や助手との出会いで狭い世界から抜け出せた、とは言えだ。
「広がったとしてもそもそも存在しないものが出現するなんて有り得ません」
幽霊とかならまだ薄ーくアリアの世界に存在しているが透明人間はあり得ない。そんな技術がこの世界にあるのならもっと広く知れ渡っているはず、影の組織が秘密裏になんて行き過ぎた妄想だ。
「存在の有無は自分の目で確かめるといい」
「えっ、それってどういう‥‥」
「この件はお前達二人に任せるという話さ」
「‥‥‥」
一瞬思考が止まった。
この人は何を言ってるのだろう? 透明人間云々と訳の分からない話とは言えこれは警察に関わるもの、そんな大層な事件をアリアたちみたいな素人に丸投げなんて何を考えてるんだ。
「無理です無理です、そんなの私達なんかに━━━」
「分かった」
また助手は考えなしに返事する。
上から指示されたからって何でもかんでも了承して仕事を受け持ってたら精神をすり減らして病院行きなんて話はよく聞く、助手の未来の為にもここは私がビシッと言わねば。
「出来ることと出来ないことははっきりさせとかないとダメ! 警察が関わるような事件なのよ、きっと裏に何か恐ろしい陰謀が待ち受けてるに決まってる!」
「ただの盗人だよ、透明人間なんて馬鹿げた尾ひれが付いたね」
「でも相手は窃盗犯なんですよね? それはれっきとした犯罪、犯罪者を相手にするなんて危険です」
万が一相手が透明ならさすがの助手でも危険かもしれない、などと考えながら助手を見ると助手はアリアの考えを読み取ったのかまるで何の問題もないとでも言うかのように鼻で笑って見せる。
「姿は見えずとも音までは消せないだろう。私は耳も良い、よって遅れをとることはない」
自信ありげに胸を張る。
助手の為を思って訴え出たというのにいつの間にか悪者みたいではないか。
徒労感に苛まれがっくり肩を落としているアリアに助手がとどめを刺してくる。
「やる前から出来ないと言って手をこまねいていては成長出来ない。仕事を与えられるというのは成長の機会を貰うということだ。レアリスは私達に実力を付けろと言っている、ならば助手としてやる事は少しでも上に近づけるようどんな仕事も喜んで受け取り経験とするだけだ」
熱く語る助手の目は真剣そのもので意志の強さが見て取れる。
その熱視線を受けてアリアが思う事はただ一つ。
ああ、ダメだ。
頭の中があれだ、ブラックな会社のブラックな思想に染め上げられてるみたいな。
抗議するように所長に目をやると誤解だとでも言いたげに首を振って否定する。
「これはこいつの元々の性質とその他諸々のせいであってそこに私は何も関与してないぞ!」
「その性質に付け入って良いように使うのはどうかと思います」
「付け入るとは人聞きの悪い事を言ってくれる。私は大事な大事な所員の得手不得手を良く理解し適材適所仕事を割り振っているだけだ。助手とアリア、お前達なら解決できると信頼して頼んでいるんだが引き受けて貰えないだろうか?」
ただの手伝いに過ぎない自分の事も所長はちゃんと見てくれていた!?
色々無茶を言ってるけどそれは全て信頼の証、自分達では手に負えないと思っていたけど自分を過小評価し過ぎていただけなのか?
所長の鋭い目、その全てを見透かすような目はアリアの知らないアリアを見ている。
ひょっとしたら本当に面倒事を押し付けてるんじゃなく指導者として先を見据えているのかもしれない。
「分かりました、やってみます!」
アリアを変えてくれた恩人なのに疑ってしまうなんてなんて恩知らずなんだろう。
興奮と恥ずかしさで赤らんだ顔で返事を返した。
「うんうん、純粋なのは良い事だ」
満足げに頷く所長の真意など私には推し量れるはずなどなかった。




